■自動化、省力化を目指す基幹系MIS 印刷業界においては、基幹系業務システムであるMIS(情報システムのうち、業務内容と直接に関わる販売管理、在庫管理、財務管理、などを扱うもの)が、パッケージソフトという形態で導入されてきている。これまでは、主として業務効率用に導入され、処理の自動化、省力化を目指すシステムは、広い意味で全て基幹系システムといえる。基幹系システムは、扱うデータの大半が定型的なもので、扱う人間も事務員や発注担当者など操作に慣れている者が多いため、データの分析や加工、出力の柔軟性よりも安定性が要求される。扱われるデータは、日々のトランザクション(取引)データであり、フローデータである。従って、更新系データであり、このデータを直接触って、加工分析をするのは望ましいものではない。
■MISで蓄積したデータを活用する情報系システム 一方、データの分析や解析を行うコンピュータシステムを、情報系システムという。基幹系システムで蓄積された取引データや各種履歴データを、柔軟に加工・分析し何らかの結論や予測をするシステムである。DWH(データウエアハウス)は、基幹系システムから一定範囲のデータを抜き出し、更新系とは別のデータベース上に移行したものである。このデータはストックデータであり、非更新系データである。従って、OLAP(データウェアハウスに蓄積されたデータベースを多次元的に解析・加工・分析できるツール: 比較的簡易なものから多機能を有するものまで多様)を用いて、特に販売や在庫データの分析を、柔軟かつ自由に行うことができる。MISで蓄積された経営、財務、生産などの情報は、このDWHなどの非更新系において、加工・分析されることが望ましいのである。
■ハードからソフトへ これまで中小印刷企業の中には、基幹系システムを導入または構築をしてみたものの、入出力の自動化、取引処理の省力化、生産活動の自動化、といったハードメリットの確立に手間取り、導入・構築で精一杯となっているケースが良く見られる。本来の目的は、この様なハードメリットはさることながら、情報系システムを活用して、基幹系システムから入手したデータを柔軟に、自由に、多角的に分析・加工することで、自社の改善ポイント、今後の方向性、生産上の課題を見出すという「ソフトメリット」を追求することであるはずである。欧米のMISベンダーは、今この部分に力点を置いている。 MISを導入してみたものの、思ったより効果が現れないという企業の中には、この様な、基幹系と情報系の明確な認識がないまま、システムの構築・運用を進めているケースがあるのではないだろうか。日々の営業や生産活動によって発生した数値データが基幹系システムに蓄積される。経営者は、情報系システムを活用し、推移グラフなどビジュアル的に表現されたデータを見て、状況を正確に素早く把握し、分析を行いその結果により意思決定を進めなければならない。
■経営意思決定には、KPIを基準とした情報系システムで分析・把握 しかしながら、現状の基幹系システムに蓄積されたデータだけから、全ての意思決定が行われるわけではない。一般に基幹系システムは、モジュールで構成される。例えば、会計モジュール、生産モジュール、販売モジュール、人事モジュールといった具合だ。一般的には段階的な導入になる。これは各企業の戦略に依存する。情報系で加工・分析できる対象データは、段階的にその範囲を広げ、その有効性や価値が高まっていくことになる。 次に経営者や管理者は、経営数値をどの様な視点に留意して分析すべきであろうか。この問いへの回答は、その企業の実情や取り巻く環境などにより千差万別であろうが、少なくとも印刷企業として共通すると思われる指標(KPI: Key Performance Indicator)は存在するはずである。これまで経営指標として分析すべき指標に加え、印刷業特有の指標も存在する。経営管理のPDCAを回す経営管理活動は、MISの日常運用で発生するトランザクションデータを起点とするDWHを用いた印刷KPI指標分析への展開は、これからの中小印刷企業の経営管理の高度化には欠かすことができなくなっていくと思われる。
『JAGAT info 6月号より引用』
JAGATでは、近日中に会員印刷業から収集したKPI(主要経営指標)を基に、印刷企業の経営実態、経営戦略を議論、検証したレポート「印刷産業経営動向調査2006」を発刊予定である。是非、自社の経営計画の立案、情報系システムにおける分析、などに役立てていただきたい。
2006/06/16 00:00:00