印刷会社におけるモバイルの活用は、印刷物制作分野もあるが営業分野での利用事例が多い。2つのパターンがあるが、ひとつはノートパソコンを利用して外から社内情報にアクセスするもので、もうひとつは携帯電話のi-modeの利用である。
A印刷会社では、売上拡大が大きな課題であったが、このご時世で営業員を増やすということもできないので、営業マンの稼働率を上げる方法をいろいろ考えたが、そのひとつの方策がモバイルの利用である。
各営業マンは、朝会社に来て朝礼をした後、顧客のところへ出かけていくが、かなり遠い顧客のところに行っていても、朝9時までに日報で報告することと決められているので、一度帰社してから帰宅するようにしなければならなかった。
しかし、本当に遅くなってしまうと帰社することもできず、翌朝出勤してからの日報入力にならざるを得ない。したがって、毎朝管理職が部下の日報をチェックして指示を出すということができないこともあった。
そこで、モバイル用にノートパソコンを営業マンに持たせ、日報入力や旅費交通費の清算が自宅に帰ってからでも行なえるようになった。
このことによる第1の成果は、翌朝にはきちんと日報が入るようになって、管理職が前日の部下の業務を把握、的確な指示がができるようになったことである。当初の計画では、コンピュータを通じて指示を出すように考えたが、実際にやってみるとまどろこしいということで、携帯での指示がほとんどであるという。
第2の成果は、残業代が月24万円程度削減できたことである。ちなみに、モバイル化の対象になった営業マンの数は19人である。導入費用としては、19台のノートパソコンの購入費用と、ルーター、PHSなどのモバイル化のための費用である。ノートパソコンの費用については、デスクトップコンピュータを買って営業マンに与えることを考えればモバイル化したから出た経費というわけではないし、ルーター等の費用はわずかである。ランニングコストは月平均66,000円であるから、費用面では明らかにプラスになっている。
その他、モバイル化による上記以外のメリットとしては、社内情報がタイムリーに入手でき、外出先でもエクセル、ワードが使用できて送受信も可能なため、在宅時でも緊急な対応が出来る。あるいは顧客を訪問した時の受注時情報や受注条件変更等をモバイルコンピュータで即時送ることもできる。WEB系のプレゼンテーションでは、顧客の目の前で動画で動かすなどができてプレゼン効果を上げることもできる。
ただし、現実には営業全員が同じ頻度で使うところまでになっていない。最大の理由はパソコンが1.5kgと重いので持って歩くのは嫌だということである。さらに、バッテリーが2時間しか持たないので、補助バッテリ−を持っていなければならないことも問題にされている。しかし、重さやバッテリーの耐久時間等の問題は今後解決されるだろう。
B印刷会社では、営業担当者が作業指示までするようになっているので業務時間が非常に多いという問題があった。そこで、社内情報を全てファイルメーカのデータベースに入れて、見積から受注入力、さらには作業指示や進捗確認までがデータベースを参照してできる環境を自社で構築した。従来は見積や受注入力、作業指示手配などで営業が非常に多くの時間を費やしていたが、非常に使い勝手をよくしたソフトウェアを使えるようにしたことで手間と時間を大幅に短縮、営業の業務時間を短くできた。
さらに、社内にRAS(リモートアクセスサーバ)を置き外から接続できるようにしたので、営業は外に出たまま、見積や受注の入力、あるいは変更などを行えるようになり、自分が受注した仕事の作業進捗を確認することもできるようになった。同社の場合、作業指示は工務部門ではなく営業担当者が行っているので、営業が戻って必要な入力をしないと作業指示ができなかったが、新しいシステムによって出先からその処理ができることの効果は大きい。
同社がRASサーバを入れたのは、電話回線利用なのでWebのようなシステムを開発せずにでき、比較的に低コストでセキュリティ対策を含むモバイル化ができるからである。ただし、データは軽い必要がある。
携帯電話のi-modeの利用では、Webの代わりに端末の画面で社内情報を確認する利用もあるが、もう一つにi-modeのメールの活用がある。
i-modeのメールの活用は、様々な印刷会社で利用していると思うが、一般的にはふつうに誰かがメールを送り、それを参照する利用である。これを機械的に自動で利用する方法で活用しているケースがある。
例えば、自分がこの印刷が実際に終わったならばメールが欲しいというような場合、会社の工程管理システムから印刷終了の実績が上がった時に自動でメールを送る。その結果担当営業に、どの仕事が終わったかを知らせる。このような自動で送る仕組みでは、下版、印刷開始、印刷終了、発送などの工程の区切りで自動に工程管理システムから担当営業へメールを送り、出先でもいちいち会社に確認することなく仕事を進められる。
これを実現した印刷会社では、営業が気にしている仕事が実際に予定通り印刷が開始されたか、または終わったかをいちいち出先から電話で確認せずに済み、不安が無くなるということで始めた例である。
2002/10/22 00:00:00