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クロスメディア、ニッポン放送VSライブドア(堀江貴文社長) その1

社団法人日本印刷技術協会 副会長 和久井孝太郎

1.はじめに

このところ,ライブドアによる在京のラジオ放送局「ニッポン放送」に関する企業買収(M&A)の話題が,テレビや新聞・雑誌,インターネットなどのメディアで連日大々的に取り上げられている。
敵対的買収を仕掛けた当事者ライブドア堀江社長の陣営も,防戦に追われるニッポン放送亀淵社長や本丸と目されるフジテレビ日枝会長の陣営も,法の下の合理の土俵の上で,知力の限りを尽くして必死に戦っている。
これを外野があれこれ論評するのは失礼な話である。しかし,筆者の長年の持論⇒自由と合理をキーワードとする新世界(デジタルワールド)のモデルを,今回の具体例を使って理解してもらい,クロスメディア問題の議論を深めるために大いに役立つので,遠慮なく利用させてもらうことにした。
それ以前に,この問題は,多くの日本人に対して,新株予約権とか議決権ベースなどの株式用語,そしてクラウン・ジュエルや眠れる美女,ホワイト・ナイト,パックマン・ディフェンス,レバレッジド・バイアウト(LBO)などのM&A用語に興味をもたせ,企業とはだれのものか? といった現代社会の根幹に関わる問題に関心を抱かせるようになった点で,また何よりも,日本型の古い発想の経営者たちに株式会社の経営とは何かを反省させる衝撃を与えた点で堀江社長の功績は大である,と筆者は考えている。

2.「リアル・ワールド」と「デジタル・ワールド」モデル

このモデルに関し筆者はこれまで,いろいろなものに書いてきたし(例えば,自著『デジタル革命とメディアのプロ』日本印刷技術協会2000年6月刊),いろいろな場所で話もしてきたので詳しくは省略するが,イラストを再掲すると図1のようなものであった。さらに,「メディアによる自己の拡張」をイラスト化した図2を提示し,デジタル革命やメディア革命の本質を理解してもらうために利用してきた。

しかし日本語のあいまいさもあって,専門家やジャーナリストを含む多くの日本人がデジタル革命やメディア革命が文化に与える本質的な衝撃を見ようとせず,〔何々が便利になる〕や〔何ができる〕などの表面的な理解のまま,かなりアバウトな形で言葉を独り歩きさせてきたのが昨日までの実態であった。今,それを是正する一つの好機が訪れている。
表題の議論に役立てるため,ここで,図1に注釈を書き添え図3としてあらかじめ示しておく。

3.堀江貴文という男

筆者自身は,堀江氏とは面識も利害関係もない。ライブドアの株はもっていない。筆者は中立的な立場で,彼はデジタルワールドの住人を代表する格好の日本人の一人であると考えているのである。
彼が,連日取材に押し掛けるマスメディアに対して,〔今後僕の取材をする人は,この本をよく読んで,ここに書かれていないことを質問してほしい。著作を読めば分かることを,わざわざ聞くのは時間の無駄だ。ところがそういう無駄を平気でしている人が,社会にはたくさんいる〕,と自薦しているのが『儲け方入門』(PHP研究所,2005年3月刊)である。
筆者は,彼が徹底した「合理」と市場原理的な「論理」で世の中を割り切り,新しいビッグな「クロスメディア」ビジネスの創造を目指し挑戦していることを明らかにしたい。
インターネットと携帯電話,コンビニをインフラとする現在のデジタルワールドに軸足を置く若者の多くは,情動の赴くまま,できることは何でも「今・ここ」でやってしまおうとする。
図3では,このことをラベル「4F/マネー」で表している。4Fとは戦う,逃げる,食い気,色気の英語の頭文字であるが,これに金銭欲を加えたものが人間の主な情動である。
従って自由なデジタルワールドでは,玉石混交のリアルタイム型のこの種の情報に満ちあふれている。いまやインターネットと携帯電話は,インタラクティブ・マスメディアへと成長した。
堀江社長は,〔世界一のメディア・IT・ファイナンシャル・グループ創造を目指して挑戦する〕と宣言している。すなわち筆者流に言い換えると,彼は軸足をデジタルワールドに置いて,これまでリアルワールドに君臨してきた最大のマスメディアであるテレビ放送のほか,新聞・雑誌などを取り込んで金になるマス・クロスメディアを実現しようと戦っているのである。
テレビのインタビューなどで彼に対して,〔テレビとインターネットを融合させる将来ビジョン〕を質問し,その答えが具体的でないと批判しているのをよく見聞きするが,秒進分歩で進歩するITをベースとする「今・ここ」のデジタルワールドの住人である彼には,明るい未来への直観であって具体的なものは走りながら創造していくのだ,というのが本音であろう。
筆者は彼が,人類史や文化史,科学・技術史をよく勉強していれば未来はもっと具体的に見えるのだが,彼にはその素養がないので致し方ないと思う一方で,有識者を集めたニューメディアに関する***委員会の答申書が言うような将来ビジョンを語らないだけまだましだ,と考えている。
リアルワールドへの殴り込みとでも言うべきこの戦いは,単なる情動ではなく彼独特の「論理」と「合理」の知力を尽くしての戦いであることは言うまでもない。その一端は彼の著書からも読み取れる。せっかくの機会だから堀江語録のいくつかを紹介しておこう。

〔自分で起業すれば,普通は儲かるはずなんです。それなのにうまくいかないというのは,まず間違いなく基本的な原則を無視して商売を始めているからに違いありません。それでは原則とはなにか。元手がかからず利益率が高い,これだけです。〕

〔誰もがダメだと思って手を出さないことに手を出す。…ビジネスというのは,いかにニッチを探してニーズを掘り起こすかが勝負なんです。長いものに巻かれていればリスクはないと多くの人が思っている間は,僕の商売は安泰ですよ。〕

〔発想力よりも情報力。…とにかくアイデアだけでは付加価値にはなりません。それではこの時代に付加価値を生み出すものはなにかといえば,それは情報と時間のアビトラージ(サヤ取り)です。ほかの人よりも情報量が多く情報処理の速度が速いほどお金が儲かる,それがいまという時代なのです。〕

〔仕事に必要な数字を,常に頭に入れておく。…決断に時間がかかるということは,決断するのに必要な情報が不足しているんです。なにか問題が持ち上がって,そこから慌てて情報収集を始めていたら,そりゃ時間もかかるでしょう。僕は判断を迫られても,自分の持っている情報で足りないことはまずありませんから,ほとんどその場で決断できます。〕

〔企業は安定株主になり得ない。…昔は取引先や銀行に株を買ってもらう,いわゆる株の持ち合いをやることが,会社の安定につながると思われていたのでしょうが,いまだにそんなことをやっている経営者はアホです。だっていまは時価会計でしょ。会計期間内に株価が下がったら,企業は減損処理しなければならない,…それが嫌なら損が確定する前に,企業はその株を売らざるを得ない,結果として企業は安定株主にはなり得ないのです。〕

〔ファイナンスの知識がないと損をする。…額に汗するよりわらしべ長者を目指せ。…レバレッジの話を,株式市場に当てはめてみましょう。PER(株価収益率)という指標を見れば,その会社の株価が「1株当たりの利益」の何倍で買われているかがわかります。…もし毎年1億円の純利益をあげるあなたの会社のPERが10倍で,さらに会社には現金が5億円あって負債がゼロだとしたら,あなたの会社の価格は15億円,…
そうしたら会社を売って,その15億円を元手に,PER2倍とか3倍の割安な会社を買う。実態に比べて株価が安い会社というのは,探せばいくらでもあります。…それで年間5億円くらい利益をあげる会社を15億円で買って,PER10倍にして売れば,それだけで最初の15億円が50億円になるじゃないですか。まさにわらしべ長者。ファイナンスってこういうことなんです。〕

まあざっとこんなものだが興味があれば,あなた自身で本を入手して読んでみて下さい。彼が世の中すべてを「合理」と「論理」で割り切って考えていることを垣間見ることができる。若さということだろうか,彼は歴史と現場認識が不足している。

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2005/03/31 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会