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事業領域拡大の課題―ソフトサービス化のポイント―

最近、印刷業界の中で「ソリューション・ビジネス」という言葉が頻繁に聞かれるようになった。顧客から言われたままに一般的な印刷物を生産するだけでは顧客から見てどの企業も同じだから、どうしても価格競争に陥らざるを得ない。もし、印刷物を作ることを含めた顧客の目的達成に明確に応えることができれば、価格競争から脱し、しかも安定した受注が可能になる、そのための「ソリューション・ビジネス」ということだろう。同様に、「企画提案営業」「差別化」「オンリーワン」あるいは「ソフトサービス化」といったことが言われてきた。方向としては間違いないが、なかなかそれがうまくいかないので、いろいろな言葉がとっかえひっかえ使われてきたように思う。
何が問題なのだろうか?

社団法人日本印刷産業連合会は、平成4年度、5年度の2年間、「印刷産業におけるソフトサービス化の在り方に関する調査研究」を行い、報告書を2冊出した。同報告書で、印刷業のソフト化・サービス化における基本的問題として指摘している部分を以下に引用する。

「印刷産業は、受注産業としての弱点に注目するあまり、ソフトサービス化については現実の足元を見ない議論が多くなされる。ソフトサービス化は相手に合わせて行うものであり、押し付け的な売り込みや提案ができるものではない。受注産業そのものがマイナスではないので、その基盤を失うようなことがあってはならない。アイデア先行ではなく、まず基本となるサービスや将来必須となるサービスについては、受動的な位置づけであっても信頼されるレベルまで持っていくのが先決である。
印刷物に必ずついてまわるソフトサービス化については、まず最初に、印刷産業としての基本機能(筆者注:顧客が、「印刷業だから出来て当たり前」と思っている機能)をキチッと果たし、他産業から『印刷業に任せられる』という受け皿としての能力が認められる必要がある。」

「基本機能を果たしていく中で信頼感が生まれ、それが期待感になれば顧客はさまざまな拡大機能を要望してくる、あるいはそのような要望を顧客が潜在的に持っていることが見えてくる。そのとき、世の中の流れと廻りの状況から、その要望の実現が自社にとって将来性があると見るならばチャレンジすればよいし、全く個別的で広がりがないと判断すればその要望をかわせばよい。必要なことは『期待感の継続』である。」

以上は、調査時点でヒアリングを行なったソフトサービス化に成功した印刷会社10社、および顧客企業20社からのヒアリングに基づく結論である。

足元を見るとは、「基本機能」と「顧客」を見ることだが、「顧客を見る」といっても「不特定多数の顧客」ではなく、「個々の顧客」を見るということである。従って、ソリューション・ビジネスというのならば、どこかの成功事例を持ってきてそのまま真似をするようなことではとても通用しない。このような安易さから抜けない限り、ソリューション・ビジネス、オンリーワン等々、どのような成果も得られない。

上記で「ソフトサービス化」という言葉が使われているが、報告書では「ソフトサービス化」を次のように定義している。
「顧客の満足、トータルな物作りの最適化という視点から(物作りの各工程単位の生産効率向上という視点からの転換)、付加価値の増大を求めて(規模拡大志向からの転換)、改めて自社の事業領域と内部体制を見直す『経営の戦略化』である」。
「サービス化」とは「事業領域の見直し」に関わり、「ソフト化」とは「内部体制の見直し」に関わることとして扱っている。そして、経営戦略化においては、このふたつの要素が車の両輪のごとく欠かせないので「ソフトサービス化」という言葉を使っている。

つまり、サービス化という事業領域の見直し、転換を図るならば、それに沿った内部体制の見直し、変更が不可欠だということである。内部体制の見直しの具体的な内容について、報告書は次のように述べている。
「従来、日本的な経営の強みは組織力による企業経営であったが、ソフト化・サービス化は1対多数の関係となる。それは、1人の人間が千人にも勝てるということである。その分野の能力のない人間が千人いても何も仕事にならないが、ひとりの有能な人間がいれば数十億のビジネスもできる。そして、そのような人材がいれば、その人間には千人分の給料を払ってもいいわけである。それが、ソフト・サービスを評価する社会だ。課長なのに部長より多く払うわけにはいかないといっている会社では、そのような人材は結局雇うことも育てることもできない。このような意味を理解できるような経営者マインドにならない限りソフト化・サービス化は難しい」

ここでは、千人分の給料云々にこだわることではなく、サービス化には、内部体制の改革、特に人に関わる体制作りが不可欠であること、そして、いままで印刷産業が新たな方向に踏む出しそれを達成できなかったもう一つの大きな障害がこの部分にあるのではなか、と自省してみることが必要である。

JAGATでは、11月29日(木)13:30〜17:00に、JAGAT経営シンポジュウム2007として「これからの印刷会社のための「サービス」経営戦略」を開催する。経営者、幹部の方々の多数のご参加をお待ちいたしております。

■「経営シンポジウム2007」

●開催日時
   2007年11月29日(木)  13:30〜17:00
●会場
   NHK・千代田放送会館(東京・紀尾井町)
●対象
   対象=経営者、経営幹部、営業/人事/総務責任者、他管理職


経営情報配信サービス『Techno Focus(テクノフォーカス)』No.#1520-2007/11/19号より。

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(2007年11月)

2007/11/22 00:00:00


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