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スマホへの転換が進むなか、アプリの重要性が高まっている。
プロモーションやコマースなど、いままで紙やPCがメインだったものがスマートフォンへシフトしつつある。印刷会社のビジネスにおいても、PC向けのWeb制作から、今後はスマートフォン向けのサイト制作やアプリ制作の比率が高まっていくとみられる。そこでクロスメディア研究会では、スマートフォンアプリについて理解するために、アプリ全体の概況、Webアプリの可能性、アプリ活用事例の3つのテーマでお話しいただいた。
アプリ全体の市場やスマートフォン特有のコンテンツ流通のしくみ等について、モデルモバイル・コンテンツ・フォーラムの岸原氏よりスマートフォンアプリの概況について話を伺った。
携帯電話の出荷ベースでみると7~8割をスマートフォンが占めており、いまは、ものすごい勢いでガラケーからスマートフォンへの移行が進んでいる状況である。世界的にみるとおおむね海外先進国ではスマートフォン普及率が7割程度となっており、それと比較すると日本での普及ペースは遅い。しかし今後は一気にいまの市場が倍になるのは確実である。
スマートフォンでWebページではなくアプリを提供する理由は、通信が安定しない場所でも利用できるためである。特に海外だと日本ほど通信環境がよくないところも多く、ネットワークが切れWebページが閲覧できなくなってしまうことがある。また海外ではユーザー側の契約も定額制ではなく従量制(使えば使うほど金額が上がる)なので、Webページとして提供すると 重いページは読み込みが遅かったり費用負担が大きくなるなど使い勝手が悪い。
スマートフォンのOSシェアは、現在6割(63.3%)がAndroidが占めており、iOS(34.8%)の倍である。Androidは古いバージョンだと端末ごとの仕様の違いが大きい。アプリ開発時にはAndroidの、どのバージョンから対応とするかは気を付けたほうがよい。バージョンごとの対応が最小限で済むWebアプリとして提供するのもひとつの手である。
アプリは無料のものも多いが、最近ではさまざまなアプリで有料化の機会が増えている。無償で提供し、たくさんダウンロードさせることで有料化につなげる手法もある。ヤマダ電機では、ソーシャルゲーム「ヤマダゲーム 」を提供し販促に活用している。ゲームそのものは無料で提供し、ユーザーの囲い込みや店舗でポイントを使わせたりするしかけだ。販促アプリの場合でもゲーミフィケーション、ゲーム要素を持っていくのは必須になるだろう。
スマートフォン市場を構成するアプリ提供のモデルは大きく4つに分けられる。まずAppStore、Google Playからアプリをダウンロードするモデルで、パズドラ(パズル&ドラゴンズ。ゲームアプリ)やLINEが有名である。
次にキャリアがプラットフォームを提供するコンテンツとり放題モデル。これはauが提供しているスマートパスが有名である。アプリストアに出しただけではなかなかダウンロードされない。そこで出始めたのがスマートパスである。アプリ開発社はキャリアのストア上にアプリを登録し、ユーザーは定額で好きなだけアプリを利用できる。アクセス数や利用頻度に応じて開発社に費用がシェアされる仕組みだ。このやり方が成功し、スマートパスは600万人を超える大きなマーケットに成長した。auの成功を見てNTTドコモはスゴ得コンテンツというサービスを開始した。キャリアから許諾を受けて入れれば一定数の売り上げが上がるモデルである。
3つめはブラウザベースで提供するモデルである。グリー、モバゲーといったソーシャルゲーム事業者はブラウザベースでゲームを提供している。アプリと比べて課金手段の自由度が高く、ポイント等も利用できる。反面ネイティブアプリのような使い勝手の良いインターフェイスは難しく、どうしても品質的には落ちているように感じる。そこで解決策としてリッチな表現ができるHTML5が期待されている。
最後にキャリア販売店モデルである。NTTドコモが提供しているdビデオは音楽コンテンツ、動画コンテンツをエイベックスがキャリアと提携して提供しているサービスである。9割以上がキャリアの販売店経由で契約される。このモデルでは販促手段として店頭POPも大きな役割を担う。ネットが進化するとリアルの有効性が高まるという面白いパラドックスがある。
市場のモデル | 代表的な例 | 説明 |
---|---|---|
OS事業者のマーケットモデル | パズドラ、LINE |
App Store、Google Play からアプリをダウンロード |
通信事業者による コンテンツ取り放題モデル |
スマートパス(au) スゴ得コンテンツ(NTTドコモ) |
auやNTTドコモなどの通信事業差が提供するストア上から定額でアプリをダウンロード。ライトユーザーにも人気。 |
ブラウザベースの アプリ提供モデル |
モバゲー、グリー | ソーシャルゲーム事業者に多い。ブラウザ上でアプリを提供。 |
キャリア販売店モデル | dビデオ(エイベックス×NTTドコモ) | 携帯電話の販売店でアプリを契約する |
iPhoneでは、アプリを提供するときにApp Store以外のルートがないためiPhone用アプリをリリースするにはアップルの審査を受ける必要があり、販売手数料がかかる。Androidの場合はもう少し自由で、Google Play以外にキャリアが提供している準公式のマーケットとして、au MarketやAmazon Kindleストアがあるが、販売手数料ほか一定の制約がある。
そこでAndroid用アプリに関しては自由にアプリを出すことができる「野良マーケット」というものがある。社内用に開発したアプリを社内のイントラにアップして利用したりする場合にも利用できる。公式マーケットとの違いは、利用者がセキュリティのチェックをはずす必要があることだ。また公式アプリからダウンロードすると自動インストールされるが、野良マーケットだとインストールが別途必要になる。
今後アプリを出すときにはプライバシーの問題が重要になってくる。アプリをインストールすることによって、ユーザーの端末に入っている個人情報を自動的に取得して送信することができるためだ。過去にはアプリ経由で個人情報やプライバシーの漏えいがあり問題になった。
総務省では、「スマートフォンプライバシーイニシアティブ」 という利用者情報を適切に取り扱うための指針を発表している。ひとことで言うと、ユーザーに対して何の情報を取得しているかを明確にしようということである。その場合、アプリ版のプライバシーポリシー提供が大事になる。KDD研究所から無料のポリシー作成ツールも提供されている。従来はプライバシー対応として、個人情報が事業者として保護すべき対象であったが、スマートフォンの場合は個人が特定できない購入履歴や移動履歴等も利用者情報として保護されるべきプライバシーと考えられており、範囲が広がっているのが特徴である。
Webアプリとは、ひとことで言えば「ブラウザ上で動くアプリ」だ。Webページにデータ保存やファイルのアップロードといったアプリっぽい動作を付加したものだと考えるとわかりやすいかもしれない。そんなWebアプリを開発するときに使われる技術HTML5について、どんな特徴があるか、どんなことができるかを、オープンウェブ・テクノロジーの白石氏から紹介いただいた。
Web技術であるHTML5は本来はWebページを制作するための技術だが、いまはそれを使ってアプリを作ることができる。Webアプリが注目されるのは、どのOSでもどのブラウザでも動かせるというオープンな標準である点にある。Web技術者のほうがネイティブアプリの開発者よりも圧倒的に数が多いので、FirefoxOSやTIZENなどの後発プレイヤーは標準化戦略をとることで多くの技術者を取り込むことをねらっている。またコスト的にも、iOSやAndroid、Operaなど複数のOSにいっぺんに配信できるため、OSごとにアプリを制作するよりも制作自体のコストやメンテナンス費用が低くなる可能性が高い。
そんなWebアプリを制作するためにベースとなる技術がHTML5だ。かつてWebは表現力の面でも貧弱だったが、HTML5が登場したことで、表現や技術がパワフルになり、電子書籍、TVなどさまざまなプラットフォームに対応できるようになった。
どのようにパワフルになったか、ということをいくつかのキーワードから触れる。まず、画面サイズに応じてレイアウトが変わるレスポンシブWebが登場したことにより、モバイルを最初から意識した設計が必要になる、というコンセンサスが常識になった。またWeb Storageというデータをブラウザ側で保存する仕組みを使ったオフラインWebによって、インターネットがつながらなくてもサイトが使えるアプリの制作が可能になった。
2000年頃から言われているキーワードであるセマンティックWebは、HTMLタグの中に意味を表わす情報を埋め込む技術でプログラムがメタデータを理解することでWebを巨大なデータベースにしようという考え方である。例えばGoogle Playの「★」による評価を表示するタグ部分にメタデータを埋め込むことで、検索エンジン側がレビューの「★」が評価だとわかるようになった。さらにHTML5はスピードを速くするという効果もあり、リアルタイム性が高くなったことでFacebookやTwitterのような、すべてのユーザーに対してすぐに情報が届くアプリの実現が容易になった。
最後にインプレッシブWebというキーワードを挙げる。これはWebが人に感動を与えるような表現が可能になったことを表わす(白石氏の)造語である。HTML5によって3Dや高度なグラフィックを標準技術だけで表現できるようになり、人に感動を与えるような表現ができるようになった。
OSのバージョンごとにHTML5のサポート状況を表示する「Can I Use 」というサイトがある。そのサイトによると、IE9での対応度は40%、PC版のGoogle Chromeでは94%となっている(数値は講演時)。HTML5の対応度が40%を切っているAndroid2.3(※注:2013年8月時点でも3割のシェアがある )においては、レスポンスの悪さやバグの多さなどの問題でWebアプリを開発するのは大変である。グリーのようなブラウザゲームを開発している企業は非常に頑張っている。この対応状況だけを見ると、HTML5を使ったWebアプリ開発はまだまだ先のようにも見えるが、この1年で状況は変わってくるだろう。
Webアプリをインストールするという新潮流も生まれている。2013年9月5日には、グーグルから「Chrome Apps(日本版はChromeアプリ)」という新しいプラットフォームが登場した(→参考 )。これはインストール型のWebアプリで、オフラインでも利用でき通常のデスクトップアプリのように使える新しいコンセプトのアプリだ。WebがパワフルになったことでWebアプリだということを意識しないで利用できるようなアプリも登場している。
店舗への集客に加え、新たなニーズ創出手段としてアプリ「プリント直行便」を活用する「カメラのキタムラ」の運営社キタムラの坂井田氏よりアプリ開発経緯や効果について話を伺った。
スマートフォンが普及したことでユーザーの行動が変わり、「スマホで写真を撮ってスマホで見る、ソーシャルメディア上で共有する」という流れが一般的になった。キタムラの主力である写真プリント事業も伸び悩み、さらにネット専業の安いプリント業者も登場したことで競争が激化した。そのような中で、キタムラでは減り続ける写真プリントの需要を増やすために2011年からアプリ開発に取り組むことにした。
もともと自社で店舗やPC上から写真プリントを注文するシステムを持っており、そこでの利用者は若い女性客と60代以上の男性が多かった。そこでアプリのメインターゲットを「PCよりスマホが便利で写真を撮るのもデジカメではなくスマホ」という20-30代の子育てママとし、「スマホならではの簡単」というコンセプトで、既存の受注システム・インフラを有効活用することにした。またキタムラならではの強みを生かし宅配受け取りではなく店舗受け取りをメイン訴求することにした。当初は画像加工やスタンプなどさまざまな機能を追加したいという思いはあったが、コストや開発期間を考え断念し、必要であれば後から開発すればよいと割り切った。そうして複雑な機能は搭載せず「写真プリントを注文する」「最寄りの店舗を探す」というシンプルな機能に絞って開発した。
最初は、アップルの申請手順などに戸惑い、アプリ公開まで苦労した。しかしiPhoneは1プラットフォームなので、一度登録してしまえば後のメンテナンスは比較的容易だ。Androidの場合は反対にアプリ公開までのハードルが低いが、機種やバージョンの違いによるバグなどにより後のフォローが大変で、いまも悩みどころである。
結論としては、「詰め込まない」「背伸びしない」「自社の弱いところは無理しない」というかたちですすめた。 自社の強みを生かすところがキーになった。
アプリを公開したことで、スマートフォン経由の売り上げが増えてきた。(公開後)初めの1年は思ったように売り上げが伸びず、Webを中心にプロモーションを行ったが効果がでなかった。1年を過ぎたころから徐々にユーザー数が伸び始めたのに合わせて店舗販促、スマホの情報サイト公開、フォトコンテストの開催、ネット会員獲得キャンペーンなどネットと紙の両輪でプロモーションを強化した。3月には卒業式、端末販売店の学割キャンペーンなどがあり、スマートフォンユーザーが一番増加する時期である。そのタイミングでネット会員獲得キャンペーンやクーポン配布、新たな案内ツール投入など販促を強化した。現在は写真プリント利用で月間3万人ほどの登録者数を獲得しており、利用者の約9割を女性が占めている(数字は講演時)。
キタムラの場合は店舗の影響力が強く、販促も店舗で配布する折り畳み式のアプリの使い方販促ツールが一番反応がよかった。スマートフォンを模したB6版ほどの小さいもので、アプリ登録の方法や注文の流れを説明している。店舗へ来るお客さんの中にはアプリの使い方を知らない方も多く、顧客層のリテラシーに合わせて販促物のかたちや表現を変えたら効果がでた。
キタムラの戦略目標は「すべての活動をプリントにつなげる」ことだ。ネットは店舗の道具のひとつと捉え、リアルを補完するためにWebを活用するという認識である。基本的にはお店を盛り上げるためのネットで、デジカメ販売でも約8割が店舗受け取り、ネットプリントでは約9割が店舗受け取りである。「ネットで注文、お店で受け取り」という循環構造を生み出している。
今後もPC利用者は減少し、スマートフォンのみ利用するユーザー、タブレットユーザーが増加すると見ている。2014年4月にはWindows XPのサポートが終了することも追い風となって買い替え需要が進み、PCではなくタブレットに流れる可能性が高い。そのため、 ユーザーの動きも大きく変化すると予測している。
お客はスマホ・タブレットで必要とするサービスを実施している会社を選ぶようになる。PCで対応しているサービスをスマホ・タブレットに対応できるようにしなければ客は確実に離れる。簡単ではないが、やらなければ売り上げはダウンだと考えて取り組んでいる。
・減った写真をどう増やす?~カメラのキタムラ「プリント直行便」
・モバイルコンテンツ市場は3700億円、見逃せないビジネス可能性
・紙からスマホアプリへ変わるマクドナルドのクーポン