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『文字本』

※本記事の内容は掲載当時のものです。
 
書評:『文字本』

片岡 朗編・著
誠文堂新光社 B5判 207ページ 2100円

 

「文字をつくる」「書体をデザインする」「文字をレタリングする」など、いろいろな表現があるが、本書は新しい書体デザインの紹介とともに、文字がもつ意味の遊びと、言葉の遊びと文字デザインをミックスして解説したタイポグラフィックな本である。文字がもつ意味、言葉がもつ意味をユニークな手法で表現している。文字文化とは言葉の文化であり、文字は意思を伝え文字は情報伝達の手段である。

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この本のタイトルの「文字本」は、単なる文字デザインの本ではなく、またレタリングの本でもなく、読み進むうちに非常にユニークな本であることが理解できた。

本書の主たる内容は「丸明朝体」というユニークな書体の紹介になっている。今まで長年、文字書体の主役は明朝体であったが明朝体が本文用書体として万能か、という疑問がある。可読性が高いサンセリフ系の本文書体が登場してもよいのではないか。DTPが登場しデジタルフォントが普及して以来、文字制作の手段が容易になり多様な書体デザインが誕生している。つまりDTPは書体文化の始まりと言える。

長い歴史をもつ明朝体の世界に、新しい「丸明朝体」というカテゴリーが生まれた。明朝体と言えば、その特徴は横線の終筆部に「ウロコ」と称する三角部分のエレメントが存在するが、この「丸明朝体」の特徴は始筆部分や終筆部分が丸いエレメントで構成されたデザインになっている。「丸明オールド」の漢字を共通項目として、筆の動きを強調したカナファミリーと、直線を意識した漢字がデザインコンセプトになっている。2000年2月サントリーの「新モルツ」の広告キャンペーンで発表されたのが始まりで、注目された書体である。

 

(2007年8月23日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『文字の母たち』

※本記事の内容は掲載当時のものです。
 
書評:『文字の母たち』 

港 千尋著
インスクリプト B5変型判 112ページ 3150円

 

本書は400年の歴史を誇るフランス国立印刷所と、そして日本国内で200年の古い歴史のある明朝体活字の精華である「秀英明朝体」の伝統を伝えようとする大日本印刷の活版印刷と、文字の東西をつなぐ写真集である。フランスと日本、それぞれの活版印刷の違いが浮き彫りになっている。

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世界で最も古い印刷所の一つで、活字の発展にとって、またタイポグラフィの歴史の上で重要な役割を果たしてきたのがパリ・フランス国立印刷所である。19世紀までに制作・収集された活字類は、ガラモン体に始まるアルファベット書体を始めとするヒエログリフ、ギリシャ、アラビア、ヘブライ、チベットそして漢字、仮名などが保存されている。しかし、活版印刷の終焉(しゅうえん)とともに2006年に最後の幕が閉じられている。

グーデンベルグ以降の西欧の活版印刷技術を伝承し、近代から現代に至る活字書体に大きな影響を与えてきた。国立印刷所に収集されている「文字の母たち」は、直接鏨(たがね)で彫刻された多くの父型(パンチ)類である。なかでも漢字の活字制作方法がユニークで「分合活字」と呼ばれる、部首を別々に作り組み合わせる手法を採用したものである。文字数が多い漢字の活字を制作するには効率的な方法と言える。

日本でも、最近まで「直彫り(じかぼり)」と呼ばれる活字制作手法が用いられ、名人と言われる職人(中河原勝雄)が最後の彫り師として紹介されている。本書はパリと東京で撮影を重ね、活字に凝縮された東西文明の交流と最後の職人たちの姿を見事に写し出した類のない壮大なフィールドワークである。全ページ秀英明朝体で組版されているのが印象的である。

 
(2007年8月30日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『デザイン・ルールズ「文字」』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 

書評:『デザイン・ルールズ「文字」』 

伊達千代・内藤タカヒコ共著
エムディエヌ B5変型判 160ページ 2415円

 

「文字とデザインについて知っておきたいこと」を副題としてまとめているが、グラフィックデザインにおける文字の重要性を説いている。文字について知りたい人、またデザインを学びたい人のための、文字とタイポグラフィの基礎知識である。

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今までフォント関連の図書では、書体やデザインを主とした解説書が多いが、本書のようなユニークでグラフィカルなフォント(書体)解説書は少ない。

グラフィックデザインと言えば、グラフィカルなもので画像が主に取り上げられるデザインを思い浮かべるが、本書のエディトリアルデザインは文字を主体にした内容でありながら、細かいところに気が配られあか抜けしている。

文字がコンピュータ化され、文字を使う側が安易に文字を扱っている感があるが、昔はレタリングと呼ばれる手法で、活字や写植以外は手書きで処理してきた。つまりレタリングができないデザイナーは、デザイナーの資格がないと言われたものである。

本書は文字に関する諸要素を5つのステップに分類し、それぞれ分かりやすくコラム解説を付けている。

特に「ステップ1」の中での「欧文書体のマナー」については参考になる。つまり日本人の欧文フォントに関する審美感は、優れているとは言い難いからである。加えて「ステップ4」の「文字をグラフィックスとして扱う」などは、エディトリアルデザインの見地から説得力のある解説である。

文字をデザインすると言えば、タイプデザインだけと思われるが、文字のもつ可能性を広げるもので、タイポグラフィやエディトリアルデザインにおいては、内容と書体の関係が重要である。

 

(2007年9月3日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

澤田善彦氏 書評(2002年~2007年)

本ページは、澤田善彦氏が2002年から2007年にかけて、小会発行月刊誌『プリンターズサークル』や機関誌『JAGAT info』に執筆した印刷関係の書籍に関する書評です。