コロナ禍の新卒採用に効果的なデジタル×紙の考え方

掲載日:2020年12月15日

採用市場は売り手優位から潮目が変わりつつあるものの、優秀な学生の採用が容易になったわけではない。自社の存在を知ってもらうには「デジタル×紙」の採用戦略が重要である。

 

中小企業の多くは大企業と比べて知名度が低い。採用活動のスタートは自社を認知してもらうことから始まり、事業内容の理解を促し入社したいと思ってもらうことで採用に至る。つまり、認知から入社までの採用プロセスと学生とのコミュニケーション手段を上手く設計できるか否かで採用の成否が決まる。では、印刷会社は新卒採用において何を重視しているのか、調査結果からひも解いていきたい。

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■データで見るコロナ禍で印刷会社が考える新卒採用のポイント
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新卒採用活動で利用している媒体・機会について調査したところ以下の結果となった。

 

Q.新卒採用活動で利用している媒体・機会

 

マイナビ、リクナビ等の、就職ナビサイトの利用率は64.2%と最も高い。企業が学生と接点を持つうえで利用しやすい媒体であり、マスアプローチによる自社の認知度を高めるには王道な採用手法である。ただし、企業の認知度を高めることができても、そこから会社説明会や面接へ誘導できなければ意味がない。そのためには、他には見られない自社の独自性とどこにも負けない魅力を学生に訴求する必要がある。就職ナビサイトは、各社横並びのフォーマットで情報を発信するため、他社との差別化を図りにくいため、就職ナビサイトの利用だけでは採用の成果を見込むことが難しい。

 

そこで近年注目されているのが、採用オウンドメディアである。就職ナビサイトとは別に自社独自の採用Webサイト、パンフレット、SNSを駆使しながら、就職ナビサイトだけでは伝えられない採用情報を学生へ訴求できる。結果として、自社の価値観に共感した学生からの応募を得やすくなる。家具の販売で有名なニトリは、採用オウンドメディア「ニトリン」を2020年から始めている。小売業のイメージが強い同社ではあったが、オウンドメディアを通して、ニトリで働く人の姿や、社員のリアルな声、小売には縛られない先進的なビジネスへの取り組みを伝えることで、小売業だけではない新たなイメージを学生に伝えることができ共感を呼んでいるようだ。

 


■  採用が成功している企業の特長はデジタル×紙を効果的に活用


印刷会社は、自社の魅力を発信する媒体として、自社の採用Webサイトを展開している企業が44.4%にも上る。一方、採用パンフレットの利用率は19.8%に留まり、学生へ広くアプローチし認知度を高め、応募につなげる手段として採用Webサイトを重視している傾向にある。
本調査では、採用に「満足」した企業と「不満足」の回答企業を2群に分けて、新卒採用活動で利用している媒体・機会の取り組みの比較を行った。その結果、満足グループは、不満足グループと比べて、「自社の採用Webサイト」は17.7ポイント「採用パンフレット」16.7ポイントも利用率が高い。デジタルと紙それぞれの特長を生かして、効果的に使い分けている企業が採用において優位性を発揮している。そのことからも、企業と学生の接触率を高めるためには、「デジタル×紙」の両立が不可欠である。
学生は、まず企業を探す際の入り口として就職情報サイトを利用し、そこから企業の採用Webサイトを閲覧してエントリーをするか否かを決める。採用Webサイトが充実していなければ、学生のエントリーは望めない。

 

会社説明会や面談など、リアルな場での学生との接点においては、紙(冊子型)の会社案内が効果を発揮する。マイナビ「2020年就職モニター調査6月」によると、71.1%の学生が冊子の会社案内を重視している。手にとって見ることで、記憶に残りやすい、じっくり読むことができるなどがその理由である。採用ツールにおいても紙メディアの有用性は高く、学生の生活シーンに応じたデジタルと紙の使い分けが求められる。
ただし、前出の通り、印刷会社の採用パンフレットの利用率は19.8%に留まっているため、学生のニーズとギャップが生じている。特に、印刷会社の場合は、採用パンフレットは紙媒体であり、コンテンツ、デザイン、紙、加工にこだわることで、その媒体を通して、直接的に印刷の仕事の魅力を伝えられるし、他業界の企業が作るものより説得性が高いツールになる。ぜひ、印刷業界として、採用パンフレットの利用率も高くなることを期待する。

 

コロナ禍で業績が厳しい企業も多く、採用抑制の動きは強くなると予想される。だからこそ、中小企業にとっては、今が、優秀な人材を確保するチャンスにもなる。本調査を通して、印刷会社の新卒採用の動向をとらえるとともに、採用戦略のヒントになれば幸いである。
最後に改めて回答企業の皆様にはお礼を申し上げたい。

 

JAGAT 塚本直樹

 

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