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『印刷博物誌』
※本記事の内容は掲載当時のものです。
書評:『印刷博物誌』
発行所 凸版印刷株式会社 印刷博物誌編纂委員会
本体5万円。
「印刷博物誌」は、凸版印刷が創立100周年記念事業の一環として、6年の歳月と4億円規模の事業費を投じて編纂を進めてきたもので2001年7月に発刊された。
印刷技術とともに文化が発展してきた歴史をまとめたもので、印刷が社会において果たしてきた役割や印刷の技術的発展の学問的考察検証など、印刷とコミュニケーションに関するあらゆる事象をまとめ、緻密な検証と考察を加えた世界に類を見ない一書である。
本書は国内外の多彩な研究者、専門家など約120人の執筆陣が参加し、図版2500点を掲載した1200ページに及ぶ学問的にも新機軸をひらく価値ある文献資料で、2001年11月に一般販売された。印刷関係者にとって古代から現代まで、全世界の印刷文化の歴史を一覧できる内容で、好事家にとって垂涎の的といえる書である。
本書の特徴は第1部から第4部に分かれ、印刷技術発明の前史、石器時代の壁画に描かれた絵文字から始まる。4大文明の文字を始め、モンゴル文字や契丹文字、ハングルなどのアジアの歴史も紹介している。
第1部は「印刷文明の考察」として韓国梨花女子大学校碩学教授の李御寧(イー・オリョン)氏の執筆で、西洋より約200年前に朝鮮半島で金属活字が使われていた事実を指摘している。第2部は「印刷の文化と社会」、第3部は「印刷の科学と技術」、第4部は「資料編」で構成されている。20世紀の印刷を集大成した印刷百科事典といえるものである。
(プリンターズサークル2002年1月号「Book Review」より) 澤田 善彦
(2002年10月30日)
(印刷情報サイトPrint-betterより転載)
『真性活字中毒者読本』
※本記事の内容は掲載当時のものです。
書評:『真性活字中毒者読本』
発行所 柏書房
小宮山博史/府川充男/小池和夫著
「活字中毒」という言葉のイメージは読書家、濫読家などを思わせる。よく通勤電車のなかでも、旅先でも、また家の中でも手元に本がないと落ち着かないという人がいるが、これは強度の「本依存症」であろう。
はしがきにも書かれているように「活字中毒」をインターネットで検索すると、数えきれないくらいの「活字中毒……」「……活字中毒」が出現してくるのには驚いた。ここでいう活字の意味は活版印刷の金属活字ではなく、文字全般を表しているわけである。
この本依存症も活字中毒の現象に包含されるのかもしれないが、ここでいう「真性活字中毒者」の症状とは、活字書体そのものに中(あた)っている人達を意味している。活字といっても狭義の金属活字や木活字などにかぎらず、写植やデジタルフォントを含む広義の活字のことを指している。
本書は「日本語組版を考える会」の講演資料や座談会などの内容を、第1章から第7章にまとめているが、今日のDTP時代でも参考になるのが第1章「日本語組版の歴史」と第7章「印刷史研究と電子組版の往復運動」であろう。
そして第4章の「明朝体の歴史とデザインを考える」では、長年本文用書体に明朝体を使っているが「なぜ明朝体なのか」をあらためて考えさせられる。この著者のグループは「印刷史研究会」のメンバーであるが、いつもながら豊富な史料を基にした解説は楽しい。
(プリンターズサークル2002年1月号「Book Review」より) 澤田善彦
(2002年11月11日)
(印刷情報サイトPrint-betterより転載)
『DTPの智慧袋』
※本記事の内容は掲載当時のものです。
書評:『DTPの智慧袋』
発行所 毎日コミュニケーションズ
井上明著 B5変型 本体価格2200円(税別)
本書は「印刷とは何か」,手作業の時代の仕事を振り返り,DTPがどの部分を便利にしたかを噛み締める,という主旨で編集したとある。アプリケーションやバージョンに依存しない「DTPの智慧袋」をまとめ,DTPのおいしいところだけを使いこなす技を紹介する。
カラーに関する基礎知識にも触れているが,組版・レイアウト・フォントなどに主眼を置いた日本語DTPのバイブルといえる。日本語組版は,漢字・平かな・片かな・数字・記号・欧文などを使い表現する,世界一難しい組版といわれる。
第7章の「システムとフォント環境のチューニング」では,最近のDTPのフォント環境について,知っているようで知らない知識について平易に解説されている。全体的にDTPの上位を目指す中級ユーザクラス向きといえる。
サブタイトルに「ぽろりと,目からウロコが落ちる」とあるが,「DTPのギョーカイ用語」の章で,ページ物に使われる用語解説がされている。これらはDTPのギョーカイ用語というよりは印刷業界用語で,アナログ時代からの組版・製版用語である。これらを知らないと,お互いにコミュニケーションが取れないことになる。
DTP時代になって,これらの単語や意味が通用しない層が増えている。「DTPの智慧袋」という以上,もう少しプリプレス関連用語を取り上げてほしかった。「DTPありき」から育ったDTPオペレータの多くは,これら用語の意味を勉強する必要があるからだ。
しかし技術革新の今日,かつて使われた専門用語は死語になり,新しい言葉が登場し入れ替わることは世の常である。なにも古い言葉に固執する必要はないであろう。
(プリンターズサークル2002年10月号「Book Review」より) 澤田善彦
(2002年11月21日)
(印刷情報サイトPrint-betterより転載)
『JIS漢字字典増補改定』
※本記事の内容は掲載当時のものです。
書評:『JIS漢字字典増補改定』
発行所日本規格協会
芝野耕司著 A5判 本体5500円(税別)
とかくJIS漢字が社会問題化して,長年の間,実用面でいろいろな批判と議論を呼び起こしてきた。その批判に対して積極的に規格の公開,普及を目指して出版されたのが初版の「JIS漢字字典」で,本書は1997年に出版された初版の増補改訂版である。
それぞれの文字を利用する際に,必要とする情報が掲載され,現代日本語を表記し,符号化するために十分な情報が提供されている「日本文字字典」の性格をもつ,他に類を見ない漢字字典で偉業ともいえる。
JIS漢字コードの正式名称は「情報交換用漢字符号系」で1978年に制定以来,1983年,1990年の改正作業を経て,1997年に制定されたのが「JIS X 0208:1997」である。漢字は第1水準2965字,第2水準3390字,非漢字524字,合計6879字となっている。
2000年に,JIS X 0208を補完する4344文字を定義し制定されたが,これがJIS X 0203で一般に第3水準・第4水準と呼ばれるものである。文字数は第3水準漢字1249字,第4水準漢字2436字,非漢字659字,合計4344字である。
本書の内容は,漢字が第1・第2水準に加え,第3・第4水準まで合計10040字,非漢字は1183字に拡大され,それぞれ「確かな用法が確認されている情報」とともに,各種文字コードや字形例が示され,加えて後見返しには「包摂基準一覧」が添付されているので,多目的に使いやすい字典といえる。
(プリンターズサークル2002年10月号「Book Review」より) 澤田善彦
(2002年11月29日)
(印刷情報サイトPrint-betterより転載)
『印刷に恋して』
※本記事の内容は掲載当時のものです。
書評:『印刷に恋して』
発行所 昌文社
松田哲夫著 A5判変型 本体2600円(税別)
本書は,本の文化(印刷文化)からコンピュータ文化(デジタル文化)への移行過程の問題について,編集者の立場からルポルタージュしたもので,「季刊本とコンピュータ」に連載された内容をまとめたものである。
著者は,編集者の立場から印刷技術の勉強のためにルポしたと書いているが,印刷プロセスに対するアナログ時代の印刷技術と現代のデジタル技術を明確に捉えている。活字組版からCTSへの移行,オフセット製版・印刷,グラビア印刷まで,印刷現場の設備機械やシステムに加えて,現場の苦労話なども含めた技術的な解説をしている。
しかしよくある印刷技術関連のハウツウ書ではなく,印刷技術の歴史的変遷とともに現場的知識が得られるようになっている。しかも要所に機械や現場のイラストが挿入されているが,そのイラストが素晴らしい。単に写真で見るよりは詳細が理解できる。
肝に銘ずべきいくつかのフレーズがある。「レタッチはまさに絵描きの世界である」という。これはDTPのカラー処理に生きる言葉である。また組版や製版をDTPがやってくれる時代になったというが,では「印刷所の独自性はどこに」という課題を投げかけている。
印刷知識がある印刷人でも,興味深く楽しめる本である。印刷技術者が書いたものではないことが,内容を面白くしているのではないだろうか。特にDTP関係者に購読を薦めたい本である。
(プリンターズサークル2002年4月号「Book Review」より) 澤田善彦
(2002年12月10日)
(印刷情報サイトPrint-betterより転載)
『活版印刷人ドラードの生涯』
※本記事の内容は掲載当時のものです。
書評:『活版印刷人ドラードの生涯』
発行所 印刷学会出版部
青山敦夫著 四六判 本体2000円(税別)
本書は,天正遣欧使節の従者として印刷術を学び,日本に初めて西欧生まれの「活版印刷」キリシタン版をもたらしたコンスタンチノ・ドラードの生涯を描いた伝記である。
世界的に見て,印刷は宗教文化に支えられてきた。つまり印刷術の必要性は教化,教義のための経典を作ることにある。このことは仏教もキリスト教も同じであろう。
活版印刷術がグーテンベルクにより1450年ころに発明されたが,日本における活版印刷といえば1870年ころ本木昌造により電胎母型と金属活字が開発され,近代活版印刷として生まれたことを思い浮かべる。
しかしその280年前の1590年ころ,コンスタンチノ・ドラードという日本人修道士が母型や活字,印刷機を日本に持ち帰り,島原の加津佐において日本で初めて金属活字の活版印刷を始めている,ということはあまり知られてはいない。その後秀吉,家康のキリシタン弾圧により,日本に芽生えた活版印刷が跡形もなく消滅した。つまり本木昌造まで約400年の空白期間がある。
それを掘り起こしたのが本書である。
著者は国内の長崎,島原,天草,そして海外は天正遣欧少年使節がとったコースを丹念に回り,詳細に取材している。ドラードがリスボンで印刷技術を習得する過程を克明に描写しているが,印刷に深入りしないで人間「トラード」の信仰と印刷に懸ける情熱を通しての生涯を描いている。著者の情熱をも感じさせられる書である。
(プリンターズサークル2002年7月号「Book Review」より) 澤田善彦
(2002年12月12日)
(印刷情報サイトPrint-betterより転載)
『日本語のデザイン』
※本記事の内容は掲載当時のものです。
書評:『日本語のデザイン』
発行所 美術出版社
永原康史著 B5判 本体2500円(税別)
「日本語はもともと文字をもたない言語である」といわれている。この本は単なるフォントデザイン解説書ではなく,「日本語をデザインする」ことを考えたグラフィックデザイナーの思考の跡である。
著者は,日本語の文字組みの基本は「ベタ組み」といわれているが,それは情報の大量生産,大量消費のための組版システムであるという。そして組版をデザインの問題として考えるならば,基本としてのベタ組みは既に役割を終えて再検討の時期にきているという。
第1章から第6章で構成され,どの章も含蓄のある内容であるが,なかでも第3章「女手の活字」,第6章「文字産業と日本語」が興味深い内容である。「女手」とは仮名のことであるが,第3章の「女手の活字」では,日本語のデザインを語る上で重要な要素に仮名の「連綿」と「散らし」があるという。
「連綿」とは「つづけ字」のことで,「散らし」は「散らし書き」の意味で現代の「チラシ」に通ずる。「連綿文字」による組版は活字時代には困難であったが,写植文字盤で印字可能とし,その後デジタルフォントにより連綿体組版が可能になった。
第6章「文字産業と日本語」では「明治の混乱と組版」と「戦争と組版」が面白い。戦時中の1940年に,政府統制下で文字組版における書体の使い方,活字サイズ,行間などの組版様式が制限されたと記されているのが興味深い。 読者の参考のために,高島俊夫著の『漢字と日本人』(発行所 文芸春秋)の併読を薦めたい。 澤田善彦
(2002年12月20日)
(印刷情報サイトPrint-betterより転載)
『原弘と「僕達の新活版術」』
※本記事の内容は掲載当時のものです。
書評:『原弘と「僕達の新活版術」』
発行所 DNPグラフィックデザイン・アーカイブ
川畑直道著 A5判 317P 本体3333円
原弘は,著名なデザイナーらと共に戦後デザイン界をリードした大家の一人である。しかし本書で描いているのは,既に名を成した後の原弘の姿ではない。著者は原弘という人物の研究を志して,その生涯と足跡を余すところなく描いている。最初に本のタイトルを見る限り,グラフィックデザイナーの原弘と「新活版術」の意味が理解できなかった。
「新活版術」は「ニュータイポグラフィ」の意味で活版印刷術のことではない。「デザインは芸術ではない。結果として芸術と見るのはよいが,芸術は自己表現である。デザインはあくまでも目的を果たすものだから。」これが原弘の生涯を貫いたデザイン観である。
1930年代は印刷メディアそのものが大きく変容した時期といわれているが,DTPによるグラフィックアーツにおける変化の面では現代にも当てはまることである。
原弘はグラフィックデザインだけではなく,ブックデザインの装幀にも優れた才能を発揮した。そして欧文タイポグラフィにおける内的構成として,基本書体はサンセリフ書体を推奨していた。1920年代に生まれた欧文活字のサンセリフ体「フーツラ(futura)」が,原弘により1960年以降の日本において流行したことは印象的である。
原弘の残した足跡は数知れないが,特に印刷関連では欧文印刷研究会の活動である。欧文印刷研究会は1940年2月に結成されたが,戦後の欧文書体や欧文印刷の品質向上に貢献し,欧文タイポグラフィの境地を開いた先達者として原弘の存在は忘れられない。 澤田善彦
(2002年12月27日)
(印刷情報サイトPrint-betterより転載)
『印刷屋の若旦那コンピュータ奮闘記Part2』
※本記事の内容は掲載当時のものです。
書評:『印刷屋の若旦那コンピュータ奮闘記Part2』
発行所 印刷学会出版部
中西秀彦著 B6判 183P 本体1200円(税別)
本書は,1999年に発刊された『印刷屋の若旦那コンピュータ奮闘記』の続編となるPart2である。「印刷雑誌」に1998年5月号~2001年12月号まで連載された,44回分のコラムを収録し単行本化したもので,Part1同様に分かりやすい用語解説とイラストが楽しい。
Part1は1999年4月号のBook Reviewで取り上げたが,その時代は1995~1998年の間における自社の変動と印刷業界を観察したもので,いささか古いトピックスもあった。
今回の連載時期は,CTPやオンデマンド印刷,オンライン・ジャーナルといった,21世紀の印刷業を方向づけるような新技術の導入された時期にあたる。しかも印刷業界が不況のあおりを受けた社会的背景もある。
新しい読者のために改めて紹介すると,著者の中西印刷は120年以上の歴史をもつ著名な印刷会社である。Part1の時もそうであったが,印刷とコンピュータを巡る実際の状況が捉えられるようになっている。
いずれの章も興味深く一気に読み下せる内容であるが,なかでも「終点・CTP」「出発・CTP」や,「ITばあさんが行く」「DTPは印刷会社からなくなるか」などは,コンピュータから逃避しがちな印刷屋の経営者にとって示唆に富む内容であろう。
印刷業界の技術的問題や展望だけではなく,不況で暗くなっている業界の現状をユーモラスに明るく語り,印刷の将来に夢と希望をもたせながら印刷業界に警告を与えている。 澤田善彦
(2003年1月14日)
(印刷情報サイトPrint-betterより転載)