『印刷に恋して』

掲載日:2014年8月20日

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『印刷に恋して』 
発行所 昌文社
松田哲夫著  A5判変型 本体2600円(税別)

 

本書は,本の文化(印刷文化)からコンピュータ文化(デジタル文化)への移行過程の問題について,編集者の立場からルポルタージュしたもので,「季刊本とコンピュータ」に連載された内容をまとめたものである。

著者は,編集者の立場から印刷技術の勉強のためにルポしたと書いているが,印刷プロセスに対するアナログ時代の印刷技術と現代のデジタル技術を明確に捉えている。活字組版からCTSへの移行,オフセット製版・印刷,グラビア印刷まで,印刷現場の設備機械やシステムに加えて,現場の苦労話なども含めた技術的な解説をしている。

しかしよくある印刷技術関連のハウツウ書ではなく,印刷技術の歴史的変遷とともに現場的知識が得られるようになっている。しかも要所に機械や現場のイラストが挿入されているが,そのイラストが素晴らしい。単に写真で見るよりは詳細が理解できる。

肝に銘ずべきいくつかのフレーズがある。「レタッチはまさに絵描きの世界である」という。これはDTPのカラー処理に生きる言葉である。また組版や製版をDTPがやってくれる時代になったというが,では「印刷所の独自性はどこに」という課題を投げかけている。

印刷知識がある印刷人でも,興味深く楽しめる本である。印刷技術者が書いたものではないことが,内容を面白くしているのではないだろうか。特にDTP関係者に購読を薦めたい本である。

(プリンターズサークル2002年4月号「Book Review」より)       澤田善彦

 

(2002年12月10日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)