『活版印刷人ドラードの生涯』

掲載日:2014年8月20日

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『活版印刷人ドラードの生涯』 
発行所 印刷学会出版部
青山敦夫著 四六判 本体2000円(税別)

 

本書は,天正遣欧使節の従者として印刷術を学び,日本に初めて西欧生まれの「活版印刷」キリシタン版をもたらしたコンスタンチノ・ドラードの生涯を描いた伝記である。

世界的に見て,印刷は宗教文化に支えられてきた。つまり印刷術の必要性は教化,教義のための経典を作ることにある。このことは仏教もキリスト教も同じであろう。

活版印刷術がグーテンベルクにより1450年ころに発明されたが,日本における活版印刷といえば1870年ころ本木昌造により電胎母型と金属活字が開発され,近代活版印刷として生まれたことを思い浮かべる。

しかしその280年前の1590年ころ,コンスタンチノ・ドラードという日本人修道士が母型や活字,印刷機を日本に持ち帰り,島原の加津佐において日本で初めて金属活字の活版印刷を始めている,ということはあまり知られてはいない。その後秀吉,家康のキリシタン弾圧により,日本に芽生えた活版印刷が跡形もなく消滅した。つまり本木昌造まで約400年の空白期間がある。

それを掘り起こしたのが本書である。

著者は国内の長崎,島原,天草,そして海外は天正遣欧少年使節がとったコースを丹念に回り,詳細に取材している。ドラードがリスボンで印刷技術を習得する過程を克明に描写しているが,印刷に深入りしないで人間「トラード」の信仰と印刷に懸ける情熱を通しての生涯を描いている。著者の情熱をも感じさせられる書である。

(プリンターズサークル2002年7月号「Book Review」より)       澤田善彦

 

(2002年12月12日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)