トヨタ生産方式と人が働く工場改善と多能工化

掲載日:2021年10月19日

人を育てる、現場に寄り添う改善活動

業務改善で大事なことは、人を育てることである。トヨタイムズ(2020年5月27日トヨタ自動車株式会社)によれば、コロナウイルス感染拡大に自動車産業としての取り組みとして、老舗雨ガッパメーカーが医療用防護ガウンの生産に乗り出し、生産量を100倍にした改善活動の取り組みが紹介されている。大正10年に創業した名古屋の老舗雨ガッパメーカー、船橋株式会社は、これまで培ってきた雨ガッパの経験をいかして防護ガウンを作ることに挑戦していた。そんな中、経済産業省から想定をはるかに超える量の防護ガウン作りを依頼される。そこに、トヨタ自動車の改善の現場から生産調査部の高橋智和氏、グローバル生産推進センターのベスト技能推進室主査である鈴木浩氏と保全マネジメント室室長の古井一彦氏が駆けつけ、当初は1日500枚だった防護ガウンの生産量は、他の有志連合(防護ガウン受注する会社)を合わせて1日5万枚にまで増えたという。可能にしたのは、トヨタ生産方式による改善活動支援だった。トヨタスタッフの改善活動の指導は、TOYOTAロゴの入った作業服を脱ぎ、現場の生産工程に入り、現場の人々の声を聴き現場の人に寄り添うことから始まる。ここが、カイゼンの第一歩になるという。重要なことは、動くのは人であり、現場のやる気が鍵を握るということだ。

カイゼン活動は、驚くほどシンプルである。

改善は、現場をよく観察し、働く人の意見を抽出し、「誰でも同じ作業ができるようにする」とうことの取り組みだ。例えば、防護ガウンの素材生地を広げてカットするための延反台では、素材をカットするラインに紙管を設置し、誰もがわかりやすく同じ位置でカットする手順を決めたり、机の表面を黒に変更し、透明な素材が目視し易くするなど数々の細かい改善が進められていく。さらに、ハサミの置き場も作り、常に同じ場所にハサミを戻すことを徹底したという。誰もが同じようにできる、標準を作るということになっていく。カイゼンは、こうした一見地味で小さな工夫の積み重ねで成り立っているのだ。

標準をつくる印刷工場の多能工化と改善活動

作業標準をつくることは、印刷工場でも重要なことだ。受注生産で多品種少量化が進む中、計画的な製造管理や受注管理が難しく、工程や個人のスキルによるムリ、ムダ、ムラによる生産性の低下は、働き方改革への妨げにもなっている。その課題解決策のひとつが多能化だ。多能工化は、トヨタ生産方式から生まれたアイデアともいわれている。複数の異なる作業や工程に従事する技術や業務を身に付けた社員を育てることが必要になる。例えば、印刷工程では、一人の社員が印刷機と断裁機にまたがり従事することや複数の印刷機を操ることなども考えられる。実は、トヨタ生産方式のジャストインタイムと人偏のついた「自働化」に欠かせないことが多能工化である。何故かと言えば、製造ラインにおいてのボトルネックは、各工程での仕事量のバラツキだからだ。部門や工程ごとの平準化をしなければ生産性は上がらない。例えば印刷工程では、印刷が早くできても断裁や後加工で詰まってしまえば納品はできない。特に単能工のラインでは、担当者が病欠などの急な事情で製造ラインがストップしまう場合がある。さらには、外注先を使うことにより利益を圧迫することにも繋がる。

多能工化と改善活動はセットで取り組むことで効果が上がる。

多能工化への課題は何か。 過去の感や経験での製造工程や現場教育では難しいことを再認識しなければならない。 改善活動には付きものの抵抗勢力が現れることもあるだろう。 肝心なことは、改善活動や人材育成をしくみ化する意識を強く持つことだ。改善活動は個人的なことではない。組織としての意思である。改善をマネジメントするリーダーを決めたら徹底的に支援、信頼し、リーダー自身は、現場や人に寄り添うことだ。人財育成がカギを握る。

CS部 古谷芸文

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