文字を通じて社会に貢献

掲載日:2014年8月21日

※本記事の内容は掲載当時のものです。

事業紹介インタビュー:文字を通じて社会に貢献

 

株式会社モリサワ 専務取締役 営業本部長 森澤彰彦氏に聞く

 

 モリサワは、世界でも初めてという画期的な写真による文字=写真植字を発明して以来、一貫して「文字の未来」を見つめて研究・開発を続け、「文字」をデジタルフォント、「組版」処理を自動編集ソフトとして開発し、時代に対応した製品を提供し続けている。


―貴社の特色を含め、これからの方向性について伺いたい。

森澤 まず、モリサワは2つの顔を持っている会社だということを説明させていただきたい。伝統的な組版を継承して提供できる数少ない会社・フォントメーカーという、印刷に関わるソフトウエアメーカーとしての顔が売り上げの3分の1で、残りの3分の2はMacやWindows、CTPやオンデマンド印刷機など、感材を含めた印刷機材の販売となっている。
印刷業界は今、大きく頭を切り換えなければいけない時期に来ていると思う。広告なりカタログなりはいったいだれが読むのか、どのようにしてその情報を得ようとしているのか、どういう情報が必要なのかを、今まで以上にクライアントと一緒になって考えていくくらいの提案力を持たなければ、将来生き残っていけないだろう。モリサワは2つの特色を持った会社として、文字に関するあらゆるニーズにこたえられる提案を行っていきたい。

―最近の文字に対するニーズは?

森澤 参入障壁があり他業界からの参入が難しかった電算写植機の時代は、出力機にだけ書体を入れておけばよかったが、いまやパソコンのフォントは品質が良い悪いは抜きにして容易に作成することができ、安いものもある。MORISAWA PASSPORTもパソコン1台年間約5万円出せば買えるようになった。参入障壁が下がったことで、今後さまざまな業種の方にご利用いただける機会が増えていくだろう。ニーズとして具体的には、テレビのバラエティ番組ではポップ調を多用したいのでそのバリエーションを増やしてほしいとか、出版社などではトラディショナルな明朝体を増やしてほしいなどの要望が出ている。業界が違えばニーズも違うので、モリサワではこれらの要望にこたえられるよう、ラインナップを拡充していこうと考えている。

―紙へのニーズとは違う?

森澤 初めは違うと思っていた。ある携帯電話メーカーで、われわれの提案したフォントとは違うフォントを採用されたケースもあった。ただ、だんだんそれに見慣れてきてデバイスの精度が上がれば上がるほど、最終的には印刷の書体とほとんど変わらない書体がいいと要望が変わってきている。

―Webのデザインも、表現能力が高くなると、ほとんど紙のデザインと似たような形になってきた。

森澤 まさにそうである。MORISAWA PASSPORTのユーザーでも、Web業界は非常に多い。その中のMORISAWA PASSPORTを多く利用していただいている会社での話だが、その会社では当初全くフォントというものにこだわっていなかったという。ところが、アクセシビリティや見やすさの問題などを突き詰めていくと、どんどん紙媒体に近づいていると自分たちで感じたそうだ。その流れで、では「紙媒体にはどんな文字が使われているのか、どういう書体が人気があるのか」と調べていくうちに、モリサワというキーワードが出てきた。社内にはWebデザインだけでなく、紙のデザインの経験者もいたので、モリサワを使うべきだろうということで、多くの契約を頂くことができた。Webには明らかに有利な点があるが、紙がWebに負けないために、紙に何の付加価値を付けるかは、本当に考えなければいけないだろう。Webと紙をどう連動させるかという一つのパターンだと思う。

―モリサワが持っている業界に対するアドバンテージについて、改めて伺いたい。

森澤  一つは、モリサワは北海道から鹿児島まで営業所を持っているので、主要な都市はほぼカバーできるサポート体制が整っている。もう一つは、ソフトウエアの自社ブランドを除くと独立系の商社なので、ユーザーのニーズによって自社製品とセットで提案するメーカーをいくつも変えることができるのが大きい特徴だろう。メーカー系の販社は、自分のところの商品を売らなければいけないので、どうしても自社商品の良いところを中心に強調して説明しがちである。その点モリサワは、客観的にいろいろなメーカーの商品を判断できる立場なので、より良い提案を行うことが可能となる。
プリプレス分野に関しては、自社開発を行っているので、ユーザーのニーズに合わせたシステムを構築することも可能である。特にプリプレスの自動化はこれからの大きなテーマになるが、ここでモリサワは大いに力を発揮できるだろう。文字をハンドリングする技術は他社にはない技術である。

―先日学生向けに販売を開始した「Student Pack」についてお聞かせいただきたい。

森澤  学生がデザインを志しているのに、学校にフォントがないからという理由で、MS明朝やMSゴシックで平気でサンプルを作ったりしている。そこにクリエイティビティがないとまでは言わないが、非常に在り来りである。これで将来本当にデザインに携わる仕事について活躍できるのか甚だ疑問なところがあり、もう少し学生に使いやすい環境を整えたいという思いと、学校にもMORISAWA PASSPORTを導入しやすくしてもらいたいという狙いがあった。今のところ、間違いなく「Student Pack」は学生に浸透し始めている。MORISAWA PASSPORTを教室で利用してもらうのはもちろんだが、学生は学校で課題をやり切れず家に持って帰ってやっているようだ。これまでは家にはフォントがなくて作れないという問題があったが、「Student Pack」はその問題を解消している。

―人材育成を目指して取り組まれている文字組版の教室についてお聞きしたい。

森澤  モリサワでは、長年にわたり培われてきた美しい文字組版を継承するために、フォントや組版ソフトの品質向上に努めるとともに、美しい文字組版が行える人材の養成を目指して、業界の製作担当者、オペレーターを対象に「文字組版の教室」を開催している。これまで延べ2000人に聞いていただいた。今まではゼロだったということを考えれば、美しい文字組版への意識を持ってもらえただけで、一つの成果ではないか。今後はデザイン学校や専門学校との連携なども考えている。

―その他、今後の展開について。

森澤 これまでもそうだが、モリサワにとっては印刷業界がメインなので、印刷業界がどういう方向に向かっていくのかが、最大の関心事である。 印刷業界で今後大きな伸びを期待できる分野としてオンデマンドがあると思うが、モリサワが持っている技術をどのようにオンデマンドマーケットに結び付けていくかということで始めた製品の一つが、オンデマンドプリンタ用可変印刷ソフトウエア「MVP(モリサワ・バリアブル・プリント)」である。可変データを利用したダイレクトメールや小冊子を体裁良く作成し、高速にプリントするための可変印刷ソフトで、これまでの欧米製の製品では苦手だった縦組みや日本語特有の処理に対応した高品質な組版と、面付け作業までを含む一連の流れを効率良く処理できる製品なので、今後の展開に期待している。 印刷業界に携わる人たちが、今までやりたいと思ってもやれなかったことを実現するための一翼を、モリサワが今後も常に担っていきたい。

株式会社モリサワ
TEL 06-6649-2151 / 03-3267-1231

 

(2008年8月)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)