動画をひとつのコミュニケーションツールとして考える

掲載日:2018年3月9日

TV-CM以外の動画を訴求できる機会が拡大したことで、あらゆる分野での動画ビジネスは急成長している。

日本国内の2017年の動画広告市場は、前年対比163%の1,374億円に達する見通しであり、スマートフォン動画広告需要は前年対比190%の成長を遂げ、動画広告市場全体の約8割に達する。2023年には3,485億円に達し、うちスマートフォン比率は9割を占めると予測されている。(サイバーエージェント オンラインビデオ総研 デジタルインファクト調べ)
視聴デバイスの多様化、モバイル通信の高品質、高速化によりWeb動画を視聴する環境も急速に整っている。動画視聴の主流であったTVからWeb動画へシフトしていくことが推察される。

高まる動画ニーズ、整う動画ビジネスの環境

TV-CM以外の動画を訴求できる機会が拡大したことで、あらゆる分野での動画ビジネスは急成長している。家電製品、業務用機器のプロモーション動画、取扱説明書を補完する解説動画、地域ブランディング動画、人材採用促進のリクルート動画、社員教育やノウハウ共有などの社内報動画など、そのバリエーションと視聴者のニーズは豊富にある。

また、動画プロモーションに活用できる補助金も増えており、「地方創生関連」などの全国単位の補助金から「魅力発信動画制作」「企業PR動画支援」など地方自治体独自の補助金まで幅広く用意され、企業や地域が動画プロモーションを始めるきっかけに繋がっている。

動画ビジネスの環境が整うことでビジネスチャンスが生まれる一方、参入障壁が低くなることで大手広告代理店や制作会社だけではなく、動画制作を手掛ける中小企業や個人事業主まで競合が増加し、競争の熾烈さは増してくる。

紙メディア×動画の可能性

動画はコミュニケーションツールのひとつであり、紙メディアを中心に顧客のコミュニケーションを支援してきた印刷会社にとって動画との親和性は高い。印刷ビジネスにおける動画との連携は大きなビジネスチャンスだ。ただし、動画制作や動画マーケティングをメインにビジネスを展開している競合も多く、そうした企業と明確な差別化を図ったうえで、動画ビジネスに参戦できるかが大きなポイントとなる。
そのポイントのひとつにあげられるのが、「紙メディア×動画」だ。企業が求めるコミュニケーションツールは、何の媒体を使うかではなく、どのような効果が得られるかである。「カタログを止めて動画にしましょう。」のような「ゼロか100」の提案ではなく、各媒体の特長を捉え最適な相乗効果が生み出せるクロスメディア的な思考での提案が求められる。そこは、動画の専門企業と比べて印刷企業が培った経験やノウハウを活かせる可能性がある。

あるホームセンターでは「商品カタログ×動画」で展開している。例えば、文房具の商品名、価格、材料表示、製造国、メーカー名、納期などテキストデータで十分理解できる情報は、カタログのテキストデータとして掲載している。逆に、文房具の使い方や性能、耐久性など映像としてみることで理解が深まるものは動画を利用して表現している。特に最近の文房具は、いろいろな使用方法や独自性の高い機能があるので動画で表現することで、消費者に理解を深めてもらえるようだ。

動画視聴をロングテールで考える

同社はカタログに掲載している商品それぞれに動画コンテンツを用意している。一つひとつの動画の視聴数は多くはないが、各商品に興味のある消費者へ訴求できるため(細かいターゲティングができる)コンバージョン率は高い。あくまでKPIは、個々の動画の視聴数ではなく商品購買アップのためその目的は達成されている。いわば動画コンテンツをロングテールの戦略として考えている。
一方、100を超える動画を制作するため、1本1本の動画に大きなコストをかけることはできない。動画はスマホで撮影して30秒程に編集した簡易的なものを制作している。目的は芸術的でハイクオリティな動画を制作することではなく、購買率をアップすることである。そのために必要なシーンとして、文房具の使い方や耐久性など必要な撮影カットがあれば、十分足りるクオリティとして成立する。紙メディアと動画を連携した一つのケースである。

動画のクオリティ基準を持つ

動画ビジネスにおいて動画コンテンツの目的を考える必要がある。成果目的として、ブランディング、CVR、イベント告知、来店促進、採用促進、社内報などがあるし、撮影する商品・サービスや見込み客の特長は何か。それぞれの状況に応じて、必要な動画コンテンツの内容やクオリティは変わってくる。要するに、必ずしもハイクオリティな動画を制作する必要はなく、その目的に応じて「必要にして十分」なクオリティ基準を持つことが重要である。
その基準を持てば、ホームセンターの例のように、動画のクオリティだけではなく「紙メディア×動画」のクロスメディア提案でクライアントの販売力アップの支援できるチャンスが印刷企業だからこそ生まれる。
また、印刷企業の視点では、カタログやDMのような紙メディアに動画を加えることで、レスポンス力向上など効果が高まるため、紙メディアの価値も高まる。結果として、印刷物の受注力も高まるのではないだろうか。

 

JAGAT 塚本直樹