デザインとすうがく

掲載日:2019年8月9日
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ネットワークによる情報量の増大と複雑化に伴い、大量情報の解釈に戸惑うユーザー(生活者)への提示方法の一つの解として、デザインの力に関心が寄せられている。

読み手に理解を促すためのデザイン

ネットワークによる情報量の増大と複雑化に伴い、大量情報の解釈に戸惑うユーザー(生活者)への提示方法の一つの解として、デザインの力に関心が寄せられている。
情報の視覚化にあたっては、視覚化の前段階として、それら情報をどのように整理し読み解くかという視点が重要となる。さらに得られる情報が多様化する現在、今まで以上に多岐にわたる情報の読み取り方や洞察力のような力は重要度を増すと予想される。

情報デザインに活きる「すうがく」

情報デザイン全般に共通して、情報を読み取るとき、数学の基礎的な概念を知らず知らずのうちに用いていることが多い。
数学にアレルギーを示す方もいらっしゃるかもしれないので、基本的な考え方とともに、日常的な思考の中に「すうがく」が用いられていることを教えてくれる絵本をご紹介したい。

安野光雅著『はじめてであうすうがくの絵本』(福音館書店刊)

作者は絵本作家・装丁家として数々の作品をもつ。『旅の絵本』シリーズなど、就学前児童向けの定番絵本としてご覧になったことのある方も多いかと思う。
本書の中では、未就学児から大人までを対象として、いくつかの数学の概念を示している。
●「なかまはずれ」:集合による情報整理
いくつものアイコンがならび、何かの理由で仲間外れになっているものがある。
グループ分けの理由によって、Aというアイコンが仲間外れになることもあれば、別の理由ではBというアイコンが仲間外れになることもありうる。どんなグループ分けの理由を見出すかは筋道さえ通っていれば自由に考えてよい。
これが数学なの?と思われる方もいるかもしれないが、これは明らかに集合の概念の基礎である。集合というと、部分集合だとか空集合だとかやっかいな記号を思い浮かべて辟易とされるかもしれないが、ベン図を用いた情報整理などは割となじみやすい図解であるし、また情報分類による階層分けなどにごく日常的に用いられている。こうした図解は自身の理解も深まるし、さらに的確にビジュアルで示すことで他者への説明にも役立つ。

●「せいくらべ」:単位換算による量の把握
遠く離れた場所に存在する者同士を比べて大小や多少を直接比べることができない場合、どのように比べたらよいかを、棒の長さや瓶の大きさなどの一定の単位に置き換えて比較する方法を示している。度量衡(つまりはかり)を学んでいるわけだが、日常生活やビジネスにおいても、実感しづらい統計値や日常扱う範囲を越えた物量について、腑に落ちる単位(東京ドーム一個分とか山手線一週分の長さなど)に置き換えて捉えることがある。さらにこれをビジュアルで示せると、訴求力のあるインフォグラフィックスコンテンツとして活用することもできる。

この絵本では他にも、「ふしぎなのり」というなんでもくっつけてしまう道具で、ものごとの関係づけということを学ぶ。この「ふしぎなのり」は、別々のものをくっつけたり、あるいはもともと1つのかたちであった図形を複数の形に切り分けたあと、並べ替えたりくっつけたりすることもできる道具なのだが、一見別物と思われる者同士を組み合わせたり、一つの図形だったものが様々な形に変化するさまは、掛け合わせることで思いがけない発見につながる可能性を想起させる。

情報デザインを手掛けるデザイナー、プランナーの方々のお話を伺っていると、情報の視覚化にあたっての表現方法の重要さは言うまでもないが、その根本にある「情報の切り口」と「それをユーザー視点でどのように伝えるか」という指針がポイントであることを実感する。そうしたお話に触れつつ、一見専門領域としては異なる分野と思われがちなデザインとすうがく(解に至るためのプロセス)のつながりに少し意識を向けてみると、新たな展開のヒントになるように思う。

JAGAT CS部 丹羽 朋子
-JAGAT info 2019年8月号より一部転載-