事業再構築の成功を高める組織マネジメントと人材

掲載日:2021年6月11日

事業再構築の成功には、組織マネジメントと人材が重要になる。印刷会社の取り組み現場からわかった成功する企業のポイントを紹介する。

 

印刷会社の新規事業開発を支援することを目的に、2011年から「印刷ビジネス開発実践コンサルティング」を実施し、約10年様々な印刷会社のビジネス開発に触れてきました。
パーソナライズオリジナルマグカップの製品開発と博物館のお土産や幼稚園、保育園の卒園記念品等の販路拡大。冊子印刷に特化した印刷通販サイトのビジネスモデル構築を支援し、3年で20倍弱の売り上げまでグロース。ほんの一例ですが、新規事業や新サービスの開発は、その案件の規模に関係なく0から生み出すので、頭をフル回転し、何度も考え直しながら、悪戦苦闘したことを今でも思い出します。

 

新規事業には「経営資源」×「組織体制」の両輪が必要


さて、事業再構築補助金の第2回公募が始まり、新規事業開発の熱が高まっています。ただし、成功するのは容易ではなくリスクも伴うことであり、大胆さと慎重さの両方を兼ね備えながら取り組んでいく必要があります。

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新規事業を取り組むうえで、独自性や強みが多いこと、投資資金に余裕があることは大きなアドバンテージです。しかし、それよりも重要なポイントは、経営戦略のなかで新規事業の位置づけが高いかどうかです。当たり前と言えば当たり前ですが、とりあえず新規事業を社員の誰かにやらせてみる位のレベルと、会社としてバックアップする体制を整えたうえで取り組むのでは、その熱量に比例して結果も変わります。経営資源に加えて、それを効果的に生かすためには組織体制の再構築が必要であり、その両輪がうまく回る印刷会社の新規事業が成功しているケースが多いです。

 

 

まずは新規事業に取り組みやすい組織を考える

10年間さまざまな印刷会社を支援していく上で、新規事業を取り組み印刷会社に共通する点として、以下の3つの点を意識した組織マネジメントを行っているのが特長です。

 

1 アイデアを出しやすい組織風土
管理職や部門間の連携
人材育成と外の視点

 

アイデアを出しやすい組織風土

新規事業の始まりにはアイデアの種が必要です。そのアイデアは仕事で気づいたことや、同僚との会話、クライアントの声など、日頃の何気ないことから生まれることも多いです。ただ、その多くは社員の頭の中で生まれては、外にでてこないでいつの間にか消えていく。会社としては気づかない内にアイデアという財産を失っているのです。先日、取材をさせていただいた印刷会社は、そうした機会損失をなくすために毎月1回、社長あてに共有する仕組みを作っています。社長はそのひとつひとつに目を通して、良い発信には評価や報奨金を出すまでを制度化しています。社員の方に聞くと社長がしっかり見ているようで、サボれない面もあるようですが、ひとつひとつにしっかり反応してもらえるのは社員にとってやりがいを感じるようです。

 

管理職や部門間の連携

新規事業を進めていく過程で直面するのが、直属の上司との軋轢です。社長からの勅命でプロジェクトを任された場合によく起こります。その経緯や活動内容の共有が不足し、直属の上司の頭を超えて取り交わされてしまい、「あいつは何をやっているんだ」と感情論に陥いり、思うようにことが進まないシーンを多々見てきました。メールやグループウエアで進捗状況を報告、共有することは重要ですが、その根本的な原因は、対話不足による感情的なものが大きいです。結局は人と人が協力して築き上げますので、会社と新事業開発メンバーとその上司が、プロジェクトスタート前に目的と目標、実施期間についてしっかり話し合うことが当たり前のようですが重要になります。部門間の連携も同様で理解の促進が重要になります。また、プロジェクトメンバーの選定においては、特定の部署や社員だけで編成するのではなく、各部門から選抜することでそのコミュニケーションが円滑になります。

 

人材育成と外の視点

中小企業白書でも言及されていますが、新規事業を展開するうえで課題となるのが人材です。印刷会社の多くは、必要な技術やノウハウ経験を有している人材が豊富ではないため、外から採用するか育成するかの2択になります。ただし、経験豊富な人材は獲得競争も厳しくそれなりの待遇も求められるため、資金が潤沢にない限りは難しいのが現状です。社内人材の育成が現実的な選択としてあげられます。
新規事業開発に適した人材の育成方法としては、「共有」「実践」「社外」がキーワードになります。実践としては、その事業に適した必要な知識を学ぶことは当然ですが、得た知識を実際に取り組んでいる新規事業案件に重ねていくことが重要になります。

 

[ 共 有 ]
新事業メンバーが定期的に社内勉強会を行い、講師として他のメンバーに教えながら共有します。そして、知識を共有することで二つのメリットがあります。

(メリット1)
勉強したメンバーが他の人に教えることで、知識の再定着化が進み学習効果が高まること
(メリット2)
チーム全体の知識力が高まるだけではなく、メンバー間に共通言語が生まれるため新規事業を進める上でコミュニケーションが図りやすい

[ 実 践 ]
社内勉強会の際はお勉強で終わらせないために、学習した内容について今手掛けている新規事業ではどうなのか?どう生かせるのか?についてチーム内で徹底的にディスカッションしていきます。それにより新規事業に生かせるだけではなく、机上の空論ではない体験価値の高いレベルで学べるため学習効果は確実に高まります。

[ 社 外 ]
新規事業を進める上で、課題のひとつになるのが「先入観」です。どうしても、社内だけで考えているとこの状態に陥ります。JAGATで行ってきた新規事業開発支援は、5~6社の印刷会社を同じ時間、同じ場所で行うグループコンサルティング形式で行っていました。その形式のメリットとして、参加される方々から良く言われるのが、他の印刷会社の参加者からのアドバイスが社内では得られない貴重な情報が得られることです。社外目線のため、その企業の風土やしがらみ、特長や強み、新規事業に対する先入観がないため、客観的な視点でのアドバイスがもらえるのです。その社外の視点は非常に重要であり、参考になるものは積極的に取り入れるの姿勢を持つ印刷会社が成功しています。ある印刷会社では、新規サービスのサービス名を考えていたところ、他社のメンバーが「そのサービス一言でいうと●●ですよね」とぽろっと言ったことがきっかけで、それがそのままサービス名となり世の中にリリースされました。それくらい外の視点は重要なことです。

 

これら3つの視点は、新規事業を行ううえで重要な組織マネジメントであり、設備に比べれば投資資金も少なくアイデア次第で、自社の風土にあった制度と運用を築くことができます。事業再構築に挑戦するうえで、ビジネスモデルだけではなく組織体制についても改めて考える機会にしてみてはいかがでしょうか。

 

JAGAT CS部 塚本 直樹

 

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