DTPエキスパート」カテゴリーアーカイブ

グローバルな知識が物作りの源泉

株式会社アスカネット フォトパブリッシングラボ部 次長 八田次郎

最初はふらち、後から本気でDTP

ある日わが社で「DTPエキスパート」取得者には特別資格手当が出るという告知が発表されました。それに呼応して挑戦者が3名現れ、迷った揚げ句申し込み最終日に私も参加することにして大急ぎで写真を撮り申し込みをしました。体験するだけでもいいじゃないかという消極的な参加意識と、あわよくば資格手当ももぎ取ろうというふらちな思いからでした。
私の会社では、オンデマンド印刷機を使って、写真集を1冊から製作販売する仕事をしております。製作の責任者としてはお客様から来たデータから繰り広げられるスキャニング、組版、印刷そして製本という一連の流れを理解しておかなければなりません。もともと編集者でしたので、大まかには知っている「つもり」でしたが、出版と印刷とは似て非なるもので、専門的な知識はほとんどないに等しかったのです。問題集には今まさに欲しい知識が満載されていたので、良い機会だと思い参考書と首っ引きで勉強を始めました。

始めは時間切れで大失敗

参考書を2冊と問題集、そして直近に出た模擬問題を手に勉強を始めました。参考書は一から十まですべてに目をとおし、問題集は問題を覚えるくらい何度もやりました。残業で帰ってから食事を取ってから夜にできるだけ詰め込み、参考書で意味を取りながら理解を深めていきました。良い成績を残すには結局問題に当たるしかないので、朝の始業時間前にも問題集を開きました。ただし、時間をあまり気にせずにやっていたのが最後に仇(あだ)となりました。
試験当日、大阪会場の多くの受験生に気後れしながら試験を受けました。これは知っているという問題が頻出していましたが、問題集に当たっていた癖で全部の問題を「読んで」しまっていました。前半の時間内に後20問くらい残して時間切れ。時間配分を間違えてしまったのです。後半は何とか全問答えたものの、前半のショックで気分もなえてしまいました。
課題試験のほうは社員たちと議論しながら一緒に課題を提出するのはなかなか面白い体験でした。しかし結果は全員が不合格。これは侮れないぞというのが最初の受験の感想でした。

印刷に関わる範囲の広さに目を見張る

不合格したとは言え、印刷に関わる者にとって必要な情報を得ることができ、新しい企画を立ち上げる際には非常に役に立ちました。何よりも一緒に受験した社員たちとは同じ「言語」で話ができる土台ができたことが大きな収穫となりました。若い印刷や製本の社員たちがこのような知識を得てくれれば現場の活性化になり、またより高度な仕事を任せられるのではないかという思いを新たにしました。特にプリプレスからポストプレスまで満遍なく出題されるのも今のわが社の業態にマッチしており、自部署以外とのやり取りにも役に立つことが分かりました。これはまず自分が「パス」しなければ社員は付いてこないぞと再挑戦を心に決めました。

2度目にようやく「パス」

前回の受験で時間切れとなってしまったことで問題集を解くにも時間を意識して勉強を始めました。新しい模擬問題を手に入れたほかは同じ教材を一から勉強し、ほとんどの問題は覚えてしまっていました。最後のほうはマークシートに印を付ける練習までしていました。ペーパーテストはいけたかなとは思いました。実技には時間を掛けて、ちょっとした仕様書の文言まで気になってしまい提出する前日は徹夜となってしまいました。
そのかいがあってやっと「合格」通知をもらうことができました。

エキスパートとしての自覚

合格はうれしかったのですが、6名の受験者中受かったのは2名ということで非常に狭き門でした。
合格したとは言え付け焼き刃の問題集だけの知識では申し訳ないと思い、合格後は印刷、製本の専門書を読みあさりそれなりの知識を補充してきました。現場で印刷をしているわけではないので、印刷機は回せませんが、理論的なことは分かります。製本でも分からないところは自分で模型を作ってみて本を作って理解しました。わが社では「人のやっていないことをやろう」という社風をモットーとしています。そこでまず、「人のやっていることを知ろう」としたわけです。より良い製品作りをするには今われわれが置かれているレベルを知らなければなりません。仕事の中でそれを知ろうとすることは当たり前なのですが、「DTPエキスパート」であるという自覚があってこそ続けて勉強もできたのだと思いました。

後進への指導と協力

社内では受験についての告知および問題集などの貸し出しを一元化するために事務局を作りました。受験ガイダンスと銘打って受験勉強の方法、課題の考え方など、実際に体験したことを解説しました。
役職者として部下指導がこのような形でできるというのも「資格」の強みだと思いました。合格までの最短距離を狙ってほしいとの思いをくんで26期には4名が受験し2名が合格という実績を残せました。初受験の社員が一発で合格という快挙もあり、喜ばしい結果となりました。

グローバルな知識が物作りの源泉

入社前にPhotoshopやIllustratorを学校で習ってやってきますが、実際には印刷入稿も組版も分からないという人が大勢います。レイアウトやレタッチの部署で仕事は覚えても周辺的な知識は自分で勉強するしかないのが現状です。写真集を作っている会社ですが、若い人たちが専門書やデザインについての「本」をあまり読んでくれていません。ルーチンワークを無難にこなしてはくれるのですが、危機感があまりないようです。
私自身も出版社にいたから「本作りや印刷やいろいろなこと」を知っているだろうということで採用されたのですが、仕様書一つ満足に書いたことがない状態を何とかしようとしてエディタースクールの専門書と首っ引きで勉強しました。特にわが社のような新しい分野を広げていくような活動を求められると「経験」がかえって邪魔になって考えをスポイルすることがあり、一生懸命勉強した新鮮な知識のほうが現場に役に立つことが多いのではないかとも思っています。本作りや、それに付随したいろいろな技を知ることが工夫や改善につながるのだと思います。

姿勢が人間を作るのではないか?

これまでDTPエキスパートを受験した社員たちは多かれ少なかれ部門のリーダー的な存在となっている人ばかりでした。始めは資格手当目当てで始めた受験勉強もやってみればなかなか歯が立たない問題も多いようです。それをあえて挑戦しようという者たちですから優秀な人が多いのは当たり前です。社員であっても勉強していく人と、しない人との差は歴然とあり、その「姿勢」が私の立場から見ればよく分かります。試験を受けてみようという思う心が大事なのだと思います。コツコツと着実に問題を物にしていく、そういう姿勢が人間をはぐくむのではないでしょうか? 私は努力できる人がやがて報われるというような職場を作っていきたいと思っております。そういう中でこの「DTPエキスパート」試験はいい意味での試練を与えてくれる契機となっています。

(JAGAT info 2007年2月号)
※本記事の内容は、2007年2月掲載当時のものです。

DTPエキスパート奮闘記

日経印刷株式会社 第二営業部 部長 久保田 哲司

 

DTPエキスパートって何?

日経印刷は創業42年、東京飯田橋に本拠地を置き、デザイン、制作から製本まで一貫生産している総合印刷会社です。ページ物を主体に商業印刷物など幅広く営業部員74名と管理部門30名、制作・製造部門約200名で日夜対応しています。
社員研修に力を入れ、新入社員研修、階層別研修、管理職研修、個別外部セミナーへの参加、外部コンサルタントと一緒に改善活動を実行しているNPS活動など、会社主導の一般教育は充実していますが、印刷業界全般の幅広い知識を網羅したものはなく、営業の印刷知識教育と言えば、社内の制作部や営業企画部主催の勉強会を適宜開催する状況でした。

社内で「DTPエキスパート認証取得」を目指す動きが出たのが2005年初頭でした。私は「DTPエキスパート」の名称は知っておりましたが、何となく「DTPオペレーターが取得するもの」でその具体的中身に関しても一切知りませんでした。それがどうして急に弊社で取得を目指すことになったのかは、よく分からないところもありましたが、業界動向それもDTPオペレーターばかりでなく、営業が取得しているという事実などから、必要であると判断したものと思われます。
チャレンジ決定後の動きは早く、今後数年掛けて対象者全員取得、対象は営業職課長以下全員と制作部の選抜者と決まり、営業企画部が具体的方策を検討し、外部講師選定、講習スケジュール、受験、取得までの流れができました。社内に外部講師を招いて集合教育式で勉強していくことになり、期間はゴールデンウィーク明けの5月より7月までのDTPエキスパート総合講座と8月以降の直前対策講座、本試験、9月上旬の課題制作まで、毎週土曜日8時半から18時まで、マシン台数の制約やその他事情を考慮し、営業は半分ずつ受験しようと35名プラス制作部より8名、合計43名が初年度受講生となりました。

余裕のスタート、それが……

私はオブザーバーという立場で初回講習より参加をしていきました。狙いはどんな教育をするのかという興味と皆の応援の意味合いです。このスタートの段階では一応20年以上この業界にいますのでそれなりの自信をもって望みました。
しかし、模擬試験(本試験の約半分の時間とボリューム)をやってみると全然時間が足りない、全体の半分を超えた分くらいしか進まない。自分では分かっているつもりで自信をもって解答しても設問が意地悪?で間違えている個所も多々あり、初めての模擬試験は惨たんたる結果で、恥ずかしくて部員に見せられるシロモノではありませんでした。かなりショックを受けながらも、実機(Mac OS XでInDesign CS2使用)講習では、2人で1台だったので先輩F氏と勝手にいじくり講師の手をかなり煩わせながら、和気あいあいに楽しんでおりました。

本気、必死の受験勉強

和気あいあいとした実機講習を経て、いよいよ8月より直前対策講座が始まりました。これはひたすら過去問題をやり、答え合わせ、その解説を行うという、週休2日制に慣れた身体には5月からの疲れも重なり、精神的にも肉体的にも結構きつい講座です。この段階で今年は受験しないメンバーも出て、営業21名、制作8名の合計29名が受験までの本番モードに突入しました。私はと言えば、今さらオブザーバーうんぬんとも言えず、ついに受験メンバーとしての登録をいたしました。
ここからはひたすら暗記・過去問題の日々が続きます。しかし、実務を離れて10年以上たつと、なかなか頭に入ってこない。スピードにも付いていけない。イライラが募る中、土曜日は講座、日曜日は朝から会社の会議室にこもり、時間を計りながら過去問題をやる、でもとにかく最後の問題まで時間内にたどり着かない日々が延々と試験当日昼まで続きます。

開き直りの心境と奮起

「あーあ、最後までやっぱり時間内に全部できない」とあきらめなのか開き直りなのか複雑な心境で試験会場である東京渋谷の青山学院大学に到着。会場についてみてまず圧倒されたのは人の多さです。「こんなにいっぱい受けるの?」が率直な印象。皆若いのにがんばるなー(まるで他人事?)一応わが社の社員が皆来ているのを確認した後、校舎の外でタバコをふかしていると私より年配の方(50歳代)が必死にテキストを見ている姿が…。ガーン!
みんな私より若いしと弱気になっていたのに急に気合いが入りました。でもドラマのようにはうまくいかず、気合いと知識は別物で、最後の問題までたどり着けずに相当数を残して終了と相なりましたが、筆記試験の出来とは関係なく、すぐに課題制作に入り何とかかんとか苦しかった「DTPエキスパート受験期間」が9月中旬やっと終了。

結果発表

10月末になってそろそろ忘れたころに結果発表があり、日経印刷からは受験者29人、合格者18人、そのうちわが第2営業部からは8人中5人合格しました。制作部はさすがに8人中7人の合格者を出し、うち1名のO君は今回の受験者1829人の中で1位の成績であったそうです。かくいう私も何という強運なのか、年配の方を見て奮起したお陰か最後まで解けなかったのに合格しました。ヤッター。

体験して

やはりあっと言う間にドンドン忘れていきます。「範囲が広すぎる=日常業務との接点がないことも多い=すぐ忘れる」となりますので、自分で実践に生かすか、より深く掘り下げていく努力を継続するしかありません。
印刷業界はコンピュータ、ネットワーク、アプリケーションなどを活用、組み合わせ、応用することで効率化、差別化、受注促進につながることは、既にさまざまな形で実証されています。お客様の課題解決に向けて、何を切り出して何を組み合わせ改良してどう強調アピールしていくか?を印刷営業職こそ実践していく必要があると考えます。そのための基礎知識を習得する意味で「DTPエキスパート認証資格」を印刷営業職がチャレンジしているという流れは体験してこそ理解できるものでしょう(その大変さも)。

最後に

お客様の印刷会社を見る目の変化と言いますか、以前はお付き合いの度合いに応じて発注量もある程度読めましたが、もうそんな状況は大方消えています。特にここ数年は、「印刷会社はどこも変わらないから、これがいくらでできるのか?」と金額だけが関心事であることも増えています。また、作業工程についてもフィルムやプレートが出るまでは一緒に考えてくれることもありますが、それ以降の工程に関しては「できて当たり前」の感覚をもっている印象を強く感じます。
そんな環境下だからこそ、普段お客様と接している営業によって、その売り上げや利益が大きく変動していくチャンスでもあり恐れでもあります。「DTPエキスパート」の知識で直接お客様の課題解決につながることは少ないと思いますが、「こうすればもっと楽になるのでは? この方法は使えないか?」と気づく下地は十分に身に着くはずです。ぜひこの知識の下地に根を張って自らの実務に直結した分野の幹を太く高く伸ばし、お客様に喜ばれ、自らも充実感、達成感を味わってほしいと思っています。

(JAGAT info 2006年12月号)
※本記事の内容は、2006年12月掲載当時のものです。
 

DTPエキスパートに思うこと

株式会社トライペックス 取締役生産担当 大槻 辰弥

 
トライペックスは1996年に創立し、お陰さまで今年の5月で10周年を迎えることができました。
創立当初は、アナログ製版専業でスタートしたためCEPSを中心にしたワークフローで作業しておりました。その後、現在に至るまでにDTPの立ち上げ、制作部門の立ち上げ、ISO9001:2000の認証取得、高品位画像クリエイティブ事業の立ち上げ、ダミー制作工房の立ち上げなどに取り組んでまいりました。これらは従来のアナログ工程をデジタル工程に移行させ、さらに進化させ新たな付加価値を追求する取り組みでした。
DTPエキスパート認証試験も今回で第26回となり、DTPエキスパート認証制度も幅広く認知されるようになりました。
実際の仕事も、いつの間にか完全にDTPに移行し、最近では紙版下を見たこともない作業者も増えてまいりました。さらにパソコンのハードウエアの進歩、ソフトウエアの進歩により、DTPの技術もさらに進化し続け、新たな変革期が迫っております。

DTP導入時期とDTPエキスパート

弊社の創立当初は前述のようにCEPSで作業を行っており、手集版率をいかに下げるかを考えておりました。この当時は、Macの能力も低くMacを使用することによって逆に生産性が低下しコスト高になると認識しておりました。しかし、人間の心理とは面白いもので、まだ仕事では使えないと思いつつも、創業時点で最初に起こしたアクションは、秋葉原にMacを購入しに行きDTPの実験を始めたことでした。
実務でDTPを始めたのは、PowerMac9600のころからです。当時は、オペレーション的にも未熟な点も多く、毎日試行錯誤の繰り返しで作業を行っておりました。
当初は、ページ単位でDTPデータをネガ出力し手集版で面付けを行ったり、改訂版の改訂部分の文字をネガ出力して旧版にストリップ訂正を行ったりしておりました。まれに完全データと称するデータが入稿され、安易に作業に取り掛かると思わぬトラブルに巻き込まれ出力に何時間も費やすこともありました。
そのため弊社では、何とかDTPの技術レベルを向上させる必要がありました。その一環として、外部から講師を雇ってDTPの指導を受たり、DTPエキスパート認証取得を積極的に推進したりいたしました。
特に、DTPエキスパートについては社長方針により、会社が全面的に支援して取得を推進いたしました。また、社員はそれにこたえるべく努力して取得に当たりました。当時、自分の心情としても「何とか一人でも多くの社員にDTPエキスパートを取得してもらいたい」という思いから取得推進を行っておりました。その結果、現在では多くの社員がDTPエキスパート認証取得済みの状態となることができました。
そのころ自分は現場の進捗の仕事をやったり、次期導入する機材の情報収集や選定の仕事をやったり、ISO9001:2000の取得や維持管理の仕事をやったり、技術的に営業のサポートする仕事をやったりと、いろいろな業務を掛け持ちで行っておりました。そんな中、あるお客様との何気ない会話の中で「大槻さんってDTPエキスパートもってなかったのですか。てっきり、もっていると思っていました」と言われたことがあり、その一言がキッカケとなり自分もDTPエキスパートを取得することにいたしました。そのため、自分が取得したのは、かなり後になってからのことです。

DTPエキスパートのメリット

人からの聞いた話でなく、実際に自分でDTPエキスパート認証試験を体験することにより、その内容や難易度が正確に把握することができました。
初心者教育の一環並びにDTPの概要をマスターさせる最善の教材として、この認証試験を受けさせることは非常に効率的だと思っております。また、実務担当の方へは、前後工程の知識を概要的に把握する上で有用であり、営業の方にとっても広く浅くDTPの知識を身に着ける上で効果的なツールの一つだと思います。
個人に対するメリットだけでなく、企業としてお客様へ技術的な裏付けをアピールしたり、技術力に対する安心感を与えたりすることができたと感じております。

認証取得への環境

DTPエキスパートの取得は、ピーク時よりやや減少傾向ですが、それでもコンスタントに毎年3000名以上の方々が取得され、近年では非印刷関連企業の取得が30%を超えてきているようです。
DTPエキスパート認証制度は、単に認証試験があるだけでなく、問題集や解説書が充実しています。また、予算に応じていろいろな場所で試験対策講座などを受講することもできます。そのため、何をどのように勉強すればよいかが明確なので「よし、DTPエキスパートを取得するぞ」と心に決めた翌日から、筋道を立てチャレンジできます。
また、出題内容も毎回改訂され、DTPの発展に応じて時流に合った内容になっているため、陳腐化せずに生きた資格となっていることもDTPエキスパート認証制度の優れた点と言えるでしょう。
さらに、ひと口にDTPと言っても、印刷物には非常に幅広い用途や目的、要求品質が存在するため、各社が取り扱う製品により作業方法や基準がさまざまで、各社各様のハウスルールに基づいて仕事が行われているのが現実ではないでしょうか。それにもかかわらず、DTPエキスパート認証試験の出題は、極端に偏ることなく一般論としてバランスの取れた解答を正解としている点でも評価できます。

印刷業界の変革と当社の取り組み

時は移り変わり、作業環境が進化しPDF入稿が始まろうとしております。またアドビシステムズからPDF Print Engineが発表になりました。これは、今までのDTPのワークフローを覆す革命的な出来事のように思います。
現状では、まだネイティブデータでの入稿が大半を占めていますが、今後PDF Print Engineが実用化されることによって、確実にPDFデータをRIPすることが可能になると、PDF送稿が大幅に普及するでしょう。これにより、今までの製版の役割に終止符が打たれ、また一方で制作側にも下版に耐え得るデータ精度が要求されるでしょう。この環境変化への対応が企業存続のポイントになると思います。
弊社はこの10年間に、製版専業ではなく総合印刷企業として企画・制作から手がけられる会社に変革してまいりました。今後さらに、弊社のコアである画像処理技術を発展させ、今までの2D画像にとどまることなく3D画像や立体造形へのビジネス展開などの、勝ち進むための新たなビジネスの展開を模索しております。
私たちの仕事は、短納期対応のため出稿時間に追われる毎日を送っております。しかし、短納期・低価格・高品質については、今日に始まったわけではなく以前から言われ続けている課題です。毎年、1年ごとが勝負の年であり、企業が存続する限り延々と続くものだと肝に銘じて努力してまいりました。
DTPエキスパート取得のために学習したから仕事の業績が向上するというわけではありませんが、大切なのは「目標にチャレンジする心」だと思っております。チャレンジと言うと、無謀な大冒険をイメージしがちですが、可能なことを着実に積み重ねステップアップしていくことこそチャレンジだと思います。
 
(JAGAT info 2006年9月号)
※本記事の内容は、2006年9月掲載当時のものです。

DTPエキスパートで自己変革

共同精版印刷株式会社 常務取締役 後藤義裕

 
印刷業界ではコンピュータの発達でデジタル化の波が押し寄せ,デジタルデバイスは広がるばかりです。実際の業務においてもお客様の知識も上がる一方,プロとしてこの変化に印刷人として対応していけるのかが,当社の課題でもありました。
そこで,業界・関連団体のセミナーに営業部門・プリプレス部門の対象者を受講させレベルアップを図ってきました。受講者は日々の仕事に役立てているものの,実際どれぐらいの知識が身に着いたかということについては把握し切れていません。そんな時,『プリンターズサークル』でDTPエキスパートのことを知りました。社内でも営業部門には紹介はしたものの会社としてどう取り組むか,以前取得した営業士とはどう違うのか。そこで,どんな内容なのか知るためにまず社内から2名挑戦してもらいました。予想どおりと言うか思ったより手強そうで時期が来れば社内に啓蒙していこうと考えていました。そんな時業界関連の商社では,社員の半数,営業のほとんどかDTPエキスパートの資格をもっていると聞きました。その話を聞いた社長は,決断が早く,当社も社員のレベルアップにつながるならば早速やってみようということでスタートしました。

当社では全社員対象に3年前からDTPエキスパートの認証試験を受けるよう勧めています。2年前から制度化し企業受験の体制を整えました。合格率が40%台ということでセミナーは1回,受験は2回まで会社で費用を負担することといたしました。それ以上は実費となります。現に2度目のセミナーを自己負担で受けている者もいます。
2年前は1名受験1名合格。一昨年は12名受験3名合格。昨年は5名受験し4名合格しました。全社員120名ですので8名ですと現状では取得率6.7%です。会社全体として25%まで上げたいと考えています。
当社では奈良本社・大阪支社の社員が受けるセミナーに奈印工組のセミナーを指定しました。東京支社は指定していません。一番仕事の落ちつく時でもある7月と8月の毎日曜日に行われます。それ故,セミナーを受講すると1年だけ夏休みがないような感覚にとらわれます。当社はこの時期は土曜日も休みですので,勉強するには良い環境とも考えました。ところが,この時期は意外と社員には不評で,夏休みがないと言う声もちらほら私の耳に入ります。20年ほど前には印刷営業士・営業管理士でも同様なパターンで資格を取得した経験があります。時代が変わると価値観も変わります。そんなにつらいのかなと,今回の私の受験動機は不純なもので,一度自分でやってみてそれからもう一度体験を基に全社員に勧めていくことを考え実行に移しました。

実際やってみて,驚きました,意外と難しい内容です。守備範囲がけっこう広いです。それ以上に自分自身の年齢による記憶力の衰えを痛感いたしました。既に取得済みの他社の方から「受けるなら50歳までが限界やで」とも言われていた49歳になっていました。1週間前に解いた模擬問題が答え合わせをしたにもかかわらず奇麗さっぱり数日後には忘れているのです。これは,毎日しないといけないと感じました。しかし,仕事などで夜遅く帰ってそこから模擬問題を1回分,解いて答え合わせをすると約2時間半,毎日日付が変わります。これは,翌日の仕事にこたえるなと。やはり週末しかない。その点,夏場は土日とも休みでしたのでこの2カ月,特に土曜日は近所にあります国会図書館に開館から閉館までまじめに勉強に通いました。過去3年の模擬問題を解いて回答しチェックを入れるサイクルにぴったりの時間です。どちらかと言うと,スポーツで汗を流すことが多かった週末の土曜日に勉強する習慣が付いたことは私にとっては収穫でした。
DTPエキスパートの内容の印刷関連部門は,25年の業界でのキャリアのお陰で基礎知識だけは身に着いていました。先輩からOJTで教えていただいたことが役立っています。ただ,結果だけが知識として身に着いており,なぜそうなるのかといったことがこの間の勉強で分かりました。業界に深くいればいるほど常識となっていることが理論立てて説明できなくなっています。私たちの世代は,先輩から知識を盗み取ることで学びましたが,結果しか身に着かなかったのが事実です。そういう意味では今の世代に教えるに当たって,結果よりはプロセスを中心とした内容を教えないと身に着かない,このプロセスを今回のDTPエキスパートの資格を取るに当たり不鮮明だったことがすべて明らかになり,自分の知識を理論立てて説明するのに多いに役立ったと言えます。私は,若い世代より,40歳代以上の世代に,社内の部課長たちに自分の経験と知識の確立を図るために多いに受験を進めたいと考えます。
コンピュータ関連の問題は,正直言って訳の分からないものも多かったです。この点については,繰り返し繰り返し頭と体に覚えさせました。理屈ではなく,結果がこうなのだと。それ故,これからじっくりこの部門については,再度勉強する必要があります。

自分が受験して,会社としてやはりこの資格を希望者には全員取ってもらうための環境を整えるのが私の役割の一つと考えます。また役職者には今後必須資格としていくことを検討しています。なぜなら印刷業界においては,仕事にも教育にも役立つからです。勉強して得た知識,学ぶことが習慣になったことも自分自身にも会社にもマイナスになることなどありません。プラスになることばかりであれば,どんどん皆に体験してもらいたいと考えて受験を奨励します。また,この年になって受験することでよい緊張感を味わえました。家庭においても,帰宅してから勉強している姿を子供が見て「お父さん何してるの」「難しい問題といてんのやな」とか,「私も隣で勉強するわ」など,親が勉強している姿は大学生や高校生の子供たちにも,今まで以上に会話を促進する副作用もありました。特に,試験日の朝,家族には高得点合格を目指すと宣言して出掛けたものの,難問にぶち当たって帰ってからの私の落ち込みようを見て,「あんなにがんばったんやから,いいやん」と逆に子供に慰められていました。コンピュータ関連の新規問題は,協会として受験生にもう少し範囲を知らせる方法を検討していただけたらと思います。全く理解できない問題で,私も含め今回受験した全員が未知との遭遇でした。

それ故,合格発表の日は朝からネットで何度も何度もアクセスし,自分の番号を発見した時の喜びは,心の中で叫んでいました,「やった」の一言でした。久しぶりの感激を味わえました,仕事に関連するものの,また違った一つの達成感です。
ところが,お客様の反応は,DTPエキスパートの認知度が低いせいか,それって何の資格ですかとか無関心の方もいらっしゃいます。ただ,パソコンの普及率から考えますとさすがにDTPという言葉も浸透しています。なかには,制度のことをご存じの方もいらっしゃり「けっこう難しい資格もっているな」と。私は今回,自分自身を追い込む意味でも,お客様も含めけっこう多くの方に自分が受験することやこの制度のことを話しました。自分にプレッシャーを掛けるとともにいろいろな方々にDTPエキスパートのことを知ってもらおうと,語り掛けました。DTPエキスパートに関心のある方は少なかったものの,デジタル知識を求められている方は多いなと感じました。われわれ印刷業に携わるものがリードしていかなくてはならないのではと感じました。

今,印刷業はデジタル化の流れの中で業態変革を迫られています。変革するための7Keysの中に営業戦略・生産戦略・IT基盤整備にデジタル化が当然含まれており,DTPエキスパートの資格をもつ人材が多いほど社内改革を進められ強い体質の会社を作れると確信しています。強い会社を作る人材に自己改革するために,自らを変革するためにもチャレンジされるのもよいのではないでしょうか。
 
(JAGAT info 2006年2月号)
※本記事の内容は、2006年2月掲載当時のものです。