グローバルな知識が物作りの源泉

掲載日:2007年2月28日
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株式会社アスカネット フォトパブリッシングラボ部 次長 八田次郎

最初はふらち、後から本気でDTP

ある日わが社で「DTPエキスパート」取得者には特別資格手当が出るという告知が発表されました。それに呼応して挑戦者が3名現れ、迷った揚げ句申し込み最終日に私も参加することにして大急ぎで写真を撮り申し込みをしました。体験するだけでもいいじゃないかという消極的な参加意識と、あわよくば資格手当ももぎ取ろうというふらちな思いからでした。
私の会社では、オンデマンド印刷機を使って、写真集を1冊から製作販売する仕事をしております。製作の責任者としてはお客様から来たデータから繰り広げられるスキャニング、組版、印刷そして製本という一連の流れを理解しておかなければなりません。もともと編集者でしたので、大まかには知っている「つもり」でしたが、出版と印刷とは似て非なるもので、専門的な知識はほとんどないに等しかったのです。問題集には今まさに欲しい知識が満載されていたので、良い機会だと思い参考書と首っ引きで勉強を始めました。

始めは時間切れで大失敗

参考書を2冊と問題集、そして直近に出た模擬問題を手に勉強を始めました。参考書は一から十まですべてに目をとおし、問題集は問題を覚えるくらい何度もやりました。残業で帰ってから食事を取ってから夜にできるだけ詰め込み、参考書で意味を取りながら理解を深めていきました。良い成績を残すには結局問題に当たるしかないので、朝の始業時間前にも問題集を開きました。ただし、時間をあまり気にせずにやっていたのが最後に仇(あだ)となりました。
試験当日、大阪会場の多くの受験生に気後れしながら試験を受けました。これは知っているという問題が頻出していましたが、問題集に当たっていた癖で全部の問題を「読んで」しまっていました。前半の時間内に後20問くらい残して時間切れ。時間配分を間違えてしまったのです。後半は何とか全問答えたものの、前半のショックで気分もなえてしまいました。
課題試験のほうは社員たちと議論しながら一緒に課題を提出するのはなかなか面白い体験でした。しかし結果は全員が不合格。これは侮れないぞというのが最初の受験の感想でした。

印刷に関わる範囲の広さに目を見張る

不合格したとは言え、印刷に関わる者にとって必要な情報を得ることができ、新しい企画を立ち上げる際には非常に役に立ちました。何よりも一緒に受験した社員たちとは同じ「言語」で話ができる土台ができたことが大きな収穫となりました。若い印刷や製本の社員たちがこのような知識を得てくれれば現場の活性化になり、またより高度な仕事を任せられるのではないかという思いを新たにしました。特にプリプレスからポストプレスまで満遍なく出題されるのも今のわが社の業態にマッチしており、自部署以外とのやり取りにも役に立つことが分かりました。これはまず自分が「パス」しなければ社員は付いてこないぞと再挑戦を心に決めました。

2度目にようやく「パス」

前回の受験で時間切れとなってしまったことで問題集を解くにも時間を意識して勉強を始めました。新しい模擬問題を手に入れたほかは同じ教材を一から勉強し、ほとんどの問題は覚えてしまっていました。最後のほうはマークシートに印を付ける練習までしていました。ペーパーテストはいけたかなとは思いました。実技には時間を掛けて、ちょっとした仕様書の文言まで気になってしまい提出する前日は徹夜となってしまいました。
そのかいがあってやっと「合格」通知をもらうことができました。

エキスパートとしての自覚

合格はうれしかったのですが、6名の受験者中受かったのは2名ということで非常に狭き門でした。
合格したとは言え付け焼き刃の問題集だけの知識では申し訳ないと思い、合格後は印刷、製本の専門書を読みあさりそれなりの知識を補充してきました。現場で印刷をしているわけではないので、印刷機は回せませんが、理論的なことは分かります。製本でも分からないところは自分で模型を作ってみて本を作って理解しました。わが社では「人のやっていないことをやろう」という社風をモットーとしています。そこでまず、「人のやっていることを知ろう」としたわけです。より良い製品作りをするには今われわれが置かれているレベルを知らなければなりません。仕事の中でそれを知ろうとすることは当たり前なのですが、「DTPエキスパート」であるという自覚があってこそ続けて勉強もできたのだと思いました。

後進への指導と協力

社内では受験についての告知および問題集などの貸し出しを一元化するために事務局を作りました。受験ガイダンスと銘打って受験勉強の方法、課題の考え方など、実際に体験したことを解説しました。
役職者として部下指導がこのような形でできるというのも「資格」の強みだと思いました。合格までの最短距離を狙ってほしいとの思いをくんで26期には4名が受験し2名が合格という実績を残せました。初受験の社員が一発で合格という快挙もあり、喜ばしい結果となりました。

グローバルな知識が物作りの源泉

入社前にPhotoshopやIllustratorを学校で習ってやってきますが、実際には印刷入稿も組版も分からないという人が大勢います。レイアウトやレタッチの部署で仕事は覚えても周辺的な知識は自分で勉強するしかないのが現状です。写真集を作っている会社ですが、若い人たちが専門書やデザインについての「本」をあまり読んでくれていません。ルーチンワークを無難にこなしてはくれるのですが、危機感があまりないようです。
私自身も出版社にいたから「本作りや印刷やいろいろなこと」を知っているだろうということで採用されたのですが、仕様書一つ満足に書いたことがない状態を何とかしようとしてエディタースクールの専門書と首っ引きで勉強しました。特にわが社のような新しい分野を広げていくような活動を求められると「経験」がかえって邪魔になって考えをスポイルすることがあり、一生懸命勉強した新鮮な知識のほうが現場に役に立つことが多いのではないかとも思っています。本作りや、それに付随したいろいろな技を知ることが工夫や改善につながるのだと思います。

姿勢が人間を作るのではないか?

これまでDTPエキスパートを受験した社員たちは多かれ少なかれ部門のリーダー的な存在となっている人ばかりでした。始めは資格手当目当てで始めた受験勉強もやってみればなかなか歯が立たない問題も多いようです。それをあえて挑戦しようという者たちですから優秀な人が多いのは当たり前です。社員であっても勉強していく人と、しない人との差は歴然とあり、その「姿勢」が私の立場から見ればよく分かります。試験を受けてみようという思う心が大事なのだと思います。コツコツと着実に問題を物にしていく、そういう姿勢が人間をはぐくむのではないでしょうか? 私は努力できる人がやがて報われるというような職場を作っていきたいと思っております。そういう中でこの「DTPエキスパート」試験はいい意味での試練を与えてくれる契機となっています。

(JAGAT info 2007年2月号)
※本記事の内容は、2007年2月掲載当時のものです。