第10期クロスメディアエキスパート認証第2部試験「与件:農作物加工・販売」
状況設定
わが社
販売促進に使われる、印刷物やDVD、Webなどの制作をしている従業員25人の会社で、都市圏の中堅商業印刷会社の子会社である。別の子会社にデザイン会社がある。
プロジェクト
以前に印刷物を企画制作した顧客に、農作物の加工・ネット販売をしている株式会社アグリエイブルがある。同社のホームページの一部もわが社で手がけたことがある(参考資料1参照)。
営業担当者から、アグリエイブルが今までとは違う新たな方向性を検討しているという話を聞いて、何かこのクライアントを手伝えることはないかと相談をもちかけられた。
そこで、アグリエイブルのことを調べ直してみると、サービスの見直しを考えていることがわかったので、営業と制作の何人かで提案プロジェクトを作り、私がリーダーを務めることになった。
提案時期
社内のプロジェクトでアグリエイブルの状況についてまとめていた時点で、わが社のライバルがWebやケータイ販促での提案をしようとしているという情報が入った。そこで営業に様子を探らせた。
アグリエイブルは真剣にサービスの見直しを考えていて、そのヒントとして自由に社外からも優れたアイディアを多く得たいので、数社でコンペをして事業のプロモーションや業務改善、タイアップなど、かなり柔軟に検討したいとのことである。細木社長自身がこの件には意欲的で、来月半ばには社長宛にプレゼンをおこなうように各社に要請するようだ。
ということで、社内においてこの1週間のうちに自主的な提案書を作成して、コンペに耐えられるよう一度揉んでおかなければならない。まず、このプロジェクトのリーダーをしてきた私が、プレゼンテーション(PowerPointを予定)に使用する提案の骨格を作成する。
沿革
アグリエイブル設立
社長・細木信行の実家は、埼玉県深谷市にて江戸時代から農業を生業としている。父親の代に都市近郊型農業として、ブロッコリー、ほうれん草、きゅうり、ねぎなどの栽培を始め、都市への供給量が増えるにつれて順調に売上が伸びた。
細木信行は地元の高校を卒業後、東京の中堅大学(国際食料情報学部)に入学し、アジアやヨーロッパの食料問題・食品産業問題について学び、在学中は中国やベトナム、フランスで実地研修を受けた。卒業後、農家・建築向け資材やDIY商品、園芸用品を扱うホームセンターに就職。練馬店舗で、肥料や農薬、田畑用品・ハウス資材、種子販売などを担当した。しかし、近隣スーパーの生鮮売り場には海外からの輸入野菜が多く並んでおり、矛盾を感じていた。
2005年2月、父親が突然病に倒れ、実家に戻り農業を継ぐことになった。その際に感じたことは、農家の意識は昔から変わっていないということだった。同時期に一斉に同じような農作物を作り、収穫し、旬の時期に出荷する。その結果、値崩れが起きることも頻繁だったため、大学で学んだマーケティングの視点で都市近郊型農業の見直しを始めた。
同じ時期に、農作物のネット販売を行っている農家が中心となり活動しているサークル「農家の若衆会」のメンバーと知り合い、農家の課題やネット通販などについて情報を得た。そのことで、従来通りの農作物を育てJAへ卸したり、直売所で販売したりという形だけではなく、自主的な販売網を持つことが大切なのだと考えるようになった。2005年8月、同級生の農家3人で共同出資し、周辺農家や「農家の若衆会」に所属する農家から農作物を集め、契約顧客へネット販売する株式会社アグリエイブルを設立した。
アグリエイブルの成長
設立当時、世間では無農薬野菜・有機農業・スローフードなどへの関心が高まりつつあり、直売所では無農薬野菜に人気があった。そこでネット販売の案内チラシを置いたところ、直売所で商品を購入した顧客や、近隣の市町村に住む顧客から注文が入るようになった。当初はWeb制作なども家族による試行錯誤で売上比も低かったが、もっとネット販売を伸ばしていきたいと考えていた。
そこで2006年には、日常よく使う素材をリーズナブルな価格で年間12回届けるパック商品「いちねんパック」や、初回限定の「お試しセット」を始めた。味の良さはもちろん、素材の新鮮さ、品質管理面、返品に対する迅速丁寧な対応が評判となり、1ヵ月に1000件の注文を得るようになった。
2007年に入り、菓子メーカーや料亭、食肉加工業者などの食品偽装問題がマスコミで大きく取り上げられ、食の安全性への関心が一気に高まった。アグリエイブルでは、設立当時から農作物に「○○さんがつくりました」という生産者の写真や産地、収穫日などを記載したシールを貼って販売していた。そのため顔の見える安心・安全さが口コミで拡がり、顧客数が伸びた。また、スローフードブームの到来や、「農家の若衆会」が雑誌に取り上げられたこともあり、順調な直売所もあわせて売上は急拡大。9億円を超えた。その後、出荷体制を整えるため以下のような20名体制にし、2008年は売上が10億円を超えた。この時点で売上構成比はJAへの供給・直売所・ネット販売がそれぞれ5:3:2の割合となった。
生産→5名/仕入→2名/ピッキング→4名/出荷→3名/Web運営→1名/本部→5名
多角化
順調に売上げを伸ばす一方で、他の事業にも進出を試みた。地元名産の花をスーパーに直卸する販路を開拓したり、Webサイトでねぎなどの特産物を用いたオリジナル加工食品を公募・開発した。また、地域おこしと協賛してスローフードをテーマにした食堂をオープンした。食堂を訪れる人からは「家族間のコミュニケーションが生まれた」「本来の食卓の意義を思い出した」など、好評を得た。
地元では、小学校や幼稚園などから依頼され、他の農業家と共に地域の子供に農業体験をさせている。最近では、東京のIT企業からの依頼で、週末農家体験用の講師もしている。
その他にも様々な企画を立て多角経営を試みたが、新規事業は売上げには結びつかず営業経費が膨れ上がるばかりで立ち上げは困難な面も多かった。社長も本業の契約農家の開拓や、新規商品企画などに十分な力をさけなかった。
Webサイトの実状
Webサイトのコンテンツは、会社紹介、社長の考え、アグリエイブルの特徴、生産者の紹介、ブログ、レシピ、購入ページ、お客様からの声の紹介、送料・発送日確認ページ、「農家の若衆会」サイトへのリンク、マスコミからの紹介記事、イベント案内などを用意している。
メールマガジンを始めたり、SEOやアフィリエイトも試してみたが、わりと費用と手間がかかっている。とりあえず一通りの体裁にはなったものの、現在のWebサイトがどれくらい効果的なのか、やり方によってはこれ以上伸ばすことができるのかについては、十分な検討をしきれてないところがある。
ネット販売では顧客から「こんな料理に合う農作物はないか」「日本の四季を感じられる旬の野菜を届けてくれるようなサービスは無いか」などの問い合わせが多くなったため、契約農家との共同企画商品として日本を横断する旬の盛り合わせパック商品「旬!おトクセット」を開発した。これが評判を呼び、今も人気の商品の一つとなっている。他には「送料が高い」「返品送料は無料にしてほしい」などの声が挙がっているが、検討する時間が取れておらず対応できていない。また商品には直売所の案内チラシのみを同梱しているが、他の通販会社のように色々紹介できるのではないかと考えている。
また直売所に比べてリピーターが少ないことも気になっている。価格競争では、単価は安くはないため、収穫が少量で市場に出せないものをパック販売に入れて売れ残りをなくし、同時にパックのお得感を高めることで、もっとパック販売を伸ばし、リピート率を上げたい。
直売所の実状
直売所では、ご当地食材を使った料理について顧客から「他にご当地ならではの食材はあるのか」「どんな食べ方がいいのか」という質問が増えていた。そのため農産物を加工した食品の販売も始めた。スローフードブームの波に乗りマスコミにも多く取り上げられ、休日は直売所に多くの人が訪れる時期もあった。
しかし、大型ネットスーパーの参入や消費者の節約志向、商社が外国で無農薬野菜の栽培に乗り出すなど、状況は変化し、顧客数・売上共に横ばいとなってきている。直売所では顧客とのコミュニケーション、顧客同士のコミュニケーションも発生するため、リピーターは確保できているものの、新規顧客の発掘が課題と感じている。
「農家の若衆会」と周辺活動
「農家の若衆会」メンバーとの交流は続いている。最近は若い就農希望者も現れるようになり、メンバーと共に就農の受け皿となる活動をしている。その他にもWeb会議や3ヵ月に一度の実地勉強会などにより、情報交換を行っている。勉強会の中では、農政やJAに頼っていては農業経営の発展はないとの意見も多い。より自主性を高める目的で情報を収集・集約するうちに、商品企画力や契約農家の開拓が進んだこともあり、この活動や勉強会を続けていきたいと思っている。また、この現状を広く紹介できないかとも考えている。
他にも、契約農家以外の農作物ネット販売業者に呼びかけ定期的な交流会を開き、農産物の収穫予定・収穫量の情報交換や、業務提携についての話し合いも始めている。
契約農家用に、各農家における契約農産物の収穫期や食べごろ期などを一元管理できる共有システムを作った。これにより品質や数量管理などを日々確認できるようになった。
農業生産者に対しては、情報交換をしながら昔ながらの歳時記に合わせた作物を提供してもらい、スローフードファンにコンスタントに提供していきたい。またその生産のプロセスをWebサイトでも紹介できるのではないかと考えている。
社長の想い
細木社長は、大学時代に感じた「食は文化を生み出す最大の要素である」ということを、現在の生産者と消費者の間に立つビジネスを通じて確信するようになった。社長ブログでも「農家の若衆会」でも、「安い・手っ取り早い・口当たりがよい」ものばかりが求められるようになり、それに沿って食品が供給され、日本全体が安直な食生活になっていくことを指摘した。
古来、日本において食事とは空腹を満たすだけでなく、家族で食卓を囲み、コミュニケーションを通して文化の継承をし、自然の恵みや作ってくれた人への感謝の気持ちを感じるものであった。
アグリエイブルの事業は、自然のものを手間をかけて調理することで、素材本来の味を知ってもらい、消費者に対して食生活の充実や、豊かな食文化の提供していくことを理想としている。スローフードは、経済効率が悪いように見えるが、IT活用で生産・流通・販売効率を上げて、充実した生活を提供しアグリエイブル・ファンを増やしていきたいと考えている。
今後の課題
今は一定のマーケットがあるが、今後は少子化も進み、海外の安い農産物など脅威は大きい。また、産直市場には健康食、高級指向、珍味志向、ネットスーパーなど多方面の参入が予想される。直近では売上は横ばい状態ということもあり、今までの無農薬→食の安全→スローフードという流れの特徴をさらに際立たせつつ、利益を伸ばしていくことが重要である。JA以外の直売所とネット通販には伸びる要素があると思っており、互いの連携によりリピーターを増やすことで売上を拡大させていきたい。
ご注意
本試験時点では上記文書のほか、「参考資料(Webページの抜粋、財務諸表)」などが配布されます。