印刷会社と地域活性、その最新動向に関する考察2018

掲載日:2018年1月29日

工場見学で顧客を惹きつける、地場産業活性で新たな事業領域と販路を作る、観光地活性で訪日外国人を呼び込みまち全体を底上げする—。実績ある6地域の事例と議論から印刷会社の新展開を考える。

コトづくりからまちづくりへ、変わる印刷会社の事業領域

受注産業と言われる印刷業では長らくモノづくりからコトづくりへシフトする必要が論じられてきた。右肩上がりの時代は「原稿をいただく」受け身の営業姿勢で良かったが、需要減少の時代に受け身でいると仕事が減るのに身を任せる形になってしまう。原稿を探すのではなく新たな原稿が発生するように働きかける営業姿勢の有効性が強くなった。さらに近年はコトづくりからまちづくりへの方向性が見えてきた。原稿ではなく地域を中心に考え、地域経済に良い影響を与えることで恩恵を受けようとするスタンスである。

 

印刷経営者はまちづくりに関わりたい、その手法は連携は

『印刷会社の地域活性/地方創生アンケート2017(JAGAT)』の結果によると、印刷会社が地域活性化において取り組みたいのは同数で「商店街活性化」「地域ブランディング」が最多、「観光活性化」が3位であった。印刷受注とは直接に関係のないように思われるこの3つが圧倒的に多く、印刷会社の本業に近い「フリーペーパー」「地域紙誌」の制作発行などと10ポイント以上の開きがあった。直線的に印刷受注を得られるに越したことはないが、地域密着企業として単に印刷受注だけでなく、まちづくりそのものに関わりたい、との意向を強めていることが明白である。

 

訪日外国人の増加を取り込めない旅館業の場合

印刷と同様の伝統的産業に旅館業がある。旅館は2003年に約60000あったが2016年には約40000に減少した。その減少率は印刷業を上回る。団体旅行から個人旅行へのシフト、販売チャネルの旅行代理店からインターネットへのシフトなど時代の変化に対応しきれず、増える訪日外国人旅行者を取り込めないことなどが課題になっている。旅館が立地する温泉街の集客力低下とともに経営基盤を弱めるケースも多い。この場合、旅館1館だけを立て直しても温泉街全体の集客力はほとんど変わらないため、活性化には旅館とともにまち全体を立て直す必要がある。

 

静岡・大阪・熊本の事例からシティセールスと観光活性を考える

つまり地域の各プレイヤーと地域は相互に影響を及ぼし合うのであり、どちらかの改善だけによってまちづくりの活性化を進めることは難しい。地域経済が改善しないのに印刷会社の業績だけが良くなる構図は考えにくい。地域活性カンファレンス①「シティセールスと観光活性化への関わり方」では、温泉街の活性化に実績を持ち10%近い利益率を得るアイキャッチ(熊本)、静岡でフリーペーパーやラジオなど複数メディアを運営して地域活性化に取り組む共立アイコム(静岡)、堺で産学連携による地域活性化に取り組む真生印刷(大阪)、3地域の事例からシティセールスと観光活性への印刷会社の関わり方について発表と議論を展開する。

 

福島・新潟・東京の事例から地場産業活性を考える

地域活性カンファレンス②「地場産業活性化の手法と連携を考える」では、4日間の地域一斉工場見学で5万人を呼ぶ「燕三条 工場の祭典」でリーダーシップを発揮する玉川堂(新潟)、多摩の産学金による産業活性「志プロジェクト」を全国展開する実績を持つ弘久社(東京)、内閣府科学技術政策担当大臣賞<地方創生賞>を受賞(2017年)した産学官連携モデル「ふくいろキラリプロジェクト」に取り組む山川印刷所(福島)の3地域の事例から地場産業活性化の手法と連携について発表と議論を展開する。地域活性は産業活性に結びついて初めて意味を持つ、との観点から特に地場産業に焦点を当てる。

 

(公益社団日本印刷技術協会 JAGAT 研究調査部 藤井建人)

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・2月8日(木)13:00~15:00 地域活性ビジネス① シティセールスと観光活性化への関わり方
・2月8日(木)15:45~17:45 地域活性ビジネス② 地場産業活性化の手法と連携を考える