イノベーティブな人材と異業種連携との関係

掲載日:2024年1月26日

働く人の低賃金や人材の非流動性を解消し、事業の再構築や新事業の展開、DXの促進を図るため、国や自治体においても人材の育成・確保に関わるさまざまな支援事業が行われている。印刷業界でもイノベーティブな価値を生み出す創注人材が求められる中、人材育成のための異業種との連携や越境学習について考える。

印刷会社は営業人材強化を志向
 印刷業界のキーワードとしてJAGATが2022年から掲げているのが「創注」であり、国が目指している方向性と近い。印刷会社では営業職および製造職が印刷ビジネスの中心を担う職種であるが、77社の経営者や人事責任者に調査したところ、40%を超える企業が営業人材不足だと捉えている。
その一方で、不足と強化のギャップ(乖離値)は、営業職が+6.5%であるのに対し、製造職は−18.2%である。創注人材は顧客接点が多い営業職寄りであると考えると、その領域の人材を強化していく意思が感じられる。
他方、印刷会社に入社した新入社員240名に対して入社した決め手を聞いたところ、30名が「挑戦できる環境がある」と回答している。昨今の新入社員は安定性など保守的な考えを持つケースが多いが、ビジネスを創造する気概のある若手が一定の割合で印刷業界に仲間入りしていることは頼もしい限りだ。

人材育成の方法として注目される越境学習
 研修を受ければ、価値を生む創注人材が育成できるというわけではない。新サービスを開発する、改善活動をするなど、企業は研修後に実践に結び付ける機会や仕事を提供する必要がある。ただし、創注人材に求められるのは、新たな発想力、固定観念からの脱却のマインドである。新たな価値を創造するためには、社内常識にとらわれ、既知の人間関係の中で仕事をしてもイノベーティブな考えは生まれにくい。特に日本は欧米諸国に比べると就社の考えが強く、人材が固定化する傾向にある。つまり、企業は社外交流できる教育機会を与えることが必要だ。そして研修だけではなく、ビジネスの実務レベルで関われる交流が望ましい。

そこで、創注人材の育成手段として注目されているのが「越境学習」である。普段勤務している職場を離れ、異なる環境で学ぶことで新しい知識や視点を得る学習方法である。異なる環境で実務を経験することで、リーダーシップ、自律性、イノベーティブな創注人材に必要な素養を本質的に鍛えることができ、越境学習を取り入れている企業は増えている。


越境学習のために、一定期間自社の社員を別企業に出向させる側にとっては、社員への直接的な教育効果がある。別企業の社員を自社に受け入れてプロジェクトを一緒に行う側にとっては、社外人材と既存社員の交流を通して新たな視点の導入による教育効果を得られる。国も越境学習を推進しているが、そのキーワードは異なる企業との「連携」である。


例えば、経済産業省は「中堅・中小企業とスタートアップの連携による価値創造チャレンジ事業」として、成長意欲のある中小企業とスタートアップ企業とのマッチング機会を設け、事業創出サポートを行っている。東京都が運営する国内外の広域展開に挑むスタートアップのための支援事業「NEXs Tokyo」では、スタートアップ企業と行政や企業とのマッチングや「連携事業創出プログラム」と題した6カ月間の支援プログラムを提供している。アイデアと可能性を持つスタートアップをレガシー企業と連携させることで、新たな価値創造を生み出す狙いがある。

新たな価値創造のための異業種との連携
印刷会社の事例では、十一房印刷が社内の意識統一を図る目的でMVV(ミッション・ビジョン・バリューで構成される企業の経営方針)の策定を検討した際、大手HR(ヒューマン・リソース)企業のマネージャーを副業人材として受け入れている。結果、MVVを策定できただけではなく、その過程で既存社員と一緒に考えていくことで、意識向上とイノベーティブな発想が生まれ、社員の能力やスキルの底上げにつながった。


JAGATでも狭義の越境学習に取り組んでおり、「印刷発注者×印刷会社」として発注者の販促課題について複数の印刷会社が徹底討論する研修や、「印刷会社×印刷会社」として各自のビジネス課題を同業他社同士で意見交換する場を設けている。双方の研修機会について、参加者からは社内にはないリアルな他社の意見が参考になるとの声が上がり好評である。
最近では、画像生成AIサービスや、レシートデータの購買予測分析AIツールを開発しているスタートアップ企業から、印刷業界とのビジネス連携の可能性を模索する相談もあり、「スタートアップ×印刷会社」を新たな価値創造の機会として、マッチングや越境学習を考えていきたい。
 

印刷業界は、収益を維持していくだけでも従来のやり方だけでは難しく、新たなチャレンジが必要になる。従来の枠組みを超える考え方が必要であり、イノベーティブな創注人材の採用や育成が不可欠だ。そのためには、異なる企業とのビジネスや人材交流による新たな視点や刺激が必要であり、「創注」のための「連携」が必須のキーワードになる

(JAGAT 塚本直樹)

【関連イベント】
page2024展示会  ~テーマは連携 
page2024セミナー「異業種共創と新事業開発」
JAGAT「新入社員セミナー2024学び放題」