マスター郡司のキーワード解説:グラビア印刷

掲載日:2025年7月10日

グラビア(凹版)印刷とは

JAGATでは、主催する新入社員研修が一区切りしたところだ。毎年、新入社員の個性には驚かされる。研修担当者が研修生に不具合や希望を聞いたところ、「椅子がカタすぎます」と言われたというのだ。真意は不明だが、緊張しているハズの新人研修でそういった発言ができるということ自体に、まずは驚きである。
私は日藝(日大藝術学部)で「写真印刷」という講義を受け持っている。お決まりの四大印刷方式(凸版・凹版・平版・孔版)から教えているのだが、教えていて凹版、英語でいえばグラビア印刷だが、「網点の大きさだけで階調を再現するのでは、豊かな写真階調を再現できなかったために、版の深さを変えてインク量を変化させるグラビア(凹版)印刷方式が開発されたのだ」と説明すると理屈は理解してくれるのだが、イマイチ納得していないと感じている。JAGAT関連の印刷会社は平版印刷(オフセット印刷)を主としている会社がほとんどだと思うので、今回は新入社員向けに、凹版印刷について簡単に説明してみたい。

単純化で印刷技術が発展

大前提として、「グラビア」なのか?「グラビヤ」なのか??という問題がある。印刷会社の社名でも、2種類の名前が存在するのだ。それぞれ蘊蓄とこだわりをお持ちであり、簡単には納得させられないので、社名の「ア」や「ヤ」を尊重するのが一番である。
さて、印刷が工業技術として発展するためには、“技術の単純化”なしには不可能である。つまり、階調を再現するのにインキの濃度や網点面積率、その他が複雑に関連していては不安定要素が多過ぎて、安定生産できないのだ。大量のカラー印刷物が普及した背景には、オフセット印刷の網点濃度が一定、ドットゲインも極小で安定、網点面積率以外は安定(一定)していることが重要だったのである。
昔々、金属凸版によるカラー印刷は「原色版」と呼ばれ、網点の周りが濃くなるマージナルゾーンという現象が起きた。すなわち、インキを盛れば盛るほどインキがハミ出してドットゲインも大きくなってしまう。しかし、これを逆手に取って、金属凸版は独自の味(迫力)があるといわれていたのだ。確かに初期のオフセット印刷はインキ濃度が足りず、階調再現性では「?」が付いてしまうほどの品質だった。しかし、インキ自体の改良をはじめ湿し水の成分改良、版の改良、紙の品質改良等々でオフセット印刷の品質改善は著しく進み、現在のオフセット天国につながったわけである。印刷の工業化には、オフセット印刷の技術が果たした役割は大きい。
しかし、前述のグラビア印刷では網点(グラビアではセルと呼ぶ)の大きさは一定であり、深さを変えてインキ量をコントロールする手法を採っている。これをコンベンショナルグラビア(俗称:コンベン)というのだが、連続調のフィルムからグラビアスクリーンを使用してメッシュ化し、カーボンチッシュと呼ばれる特殊な材料に焼き付け、そのカーボンチッシュは露光によって性質が変わるよう工夫されていた。すなわち暗部では腐食液を多く浸透させて深く腐食するように、一方で明部は腐食液をあまり浸透させずに浅く腐食するというものであった。カーボンチッシュを(銅)版に貼り付けたまま濃度の異なる腐食液で分割腐食させることで、理想的な階調を持った版製作が行われたのだ。金属凸版でも、ショルダー角調整のために腐食方法にはノウハウがあった。

グラビア印刷の現在

そして、深度で階調を表現するコンベショナルグラビアから(安定生産は難しい?ので)、腐食深度は一定でオフセット印刷のように網点面積率で濃淡を表す網(点)グラビアに進化して、現在は明部の網点は小さくかつ深度も浅く、暗部は網点が大きく深度も深いダルジャンと呼ばれる方式に統一されつつある(階調再現域は大きい)。一般的には、現在のグラビア印刷は網(点)グラビアであるといわれるが、暗部は深度も若干深くなっているようだ。
現代の製版方式は、腐食方式でもカーボンチッシュは使用せず、腐食液に対するレジストを版面に塗布しておき、レーザーでレジストを破壊後、腐食液に浸ける方式が多い。千葉県松戸市にあるシンクラボが腐食方式グラビア製版機器メーカーの代表格で、世界的にも有名である。もう一つが機械彫方式で、ヘリオクリッシュグラフ(ドイツのスキャナーメーカーであるDr.Hell社が開発)とオハイオ彫刻機が有名だ。
現在のグラビア印刷は紙よりも、被印刷体を傷つけにくいという理由で薄フィルムや軟包装グラビアが多い。また、印刷ロット数が多く、水を使用しないことから建材への応用も多いことが特筆される。

(専務理事 郡司 秀明)