「標準」の意味とその活用-改善の起点は標準設定-

掲載日:2015年3月17日

いまこそ「標準」を管理に活用しよう

DTP部門の原価把握

売上、収益性低下が続く印刷業界では、詳細に原価を把握し管理に活かしていこうと考える企業は増えてきている。しかし、DTP部門やデザイン部門の原価把握はどの会社にとっても悩みの種である。

PDCAに欠かせない「標準」

管理の基本がPDCAであることは、企業人なら誰でもが知っていることだろう。管理の目的は改善でありそのためにPDCAサイクルを回す、といわれる。ま ず計画(Plan)を作って、その達成を目指して実行し(Do)、その結果を点検して(Check)、さらなる改善策を施す(Action)。

ここで、管理の対象がたとえば生産性ならば、「計画」とは「目標値」になるはずである。単に「生産性を向上させる」というだけでは計画とはいえない。例え ば「10%アップする」あるいは「現在の準備作業時間を30分から20分に短縮する」というのが計画である。そして、ある期間の実績データをとって、その 結果として「5%アップした」あるいは「準備作業時間が8分短縮できた」といった事実を把握し、計画、つまり目標値と対比することになる。

この「目標」は 「標準」とも言い換えることができる。例えば、「現在の準備作業時間を30分から20分にまで短縮する」は、より正確に表現するならば「現在の『標準』準 備作業時間30分を20分に短縮する」となる。

軽視されてきた標準とその理由

しかし、印刷業界では「標準」というものが軽視、あるいは無視されることが多い。印刷物は1点1点製品仕様が違うから「標準などはありえない」、したがっ て、「『社内仕切り価格』(生産現場が営業に売り渡す標準価格)など不正確で意味が無い」、「標準工数などは使えない」という言い方が出てくる。

もしそうなら、営業マンが見積もりをするとき、あるいは請求金額を算出するときに、一点一点の仕事に対して算出した原価をもとに計算するのだろうか? 実 際にはそのようなことはできないから、ある製品仕様ごとに設定した単価に基づく料金表を作って、それを使っているはずである。

それでは、その単価は何なのだろうか? 設定根拠としては市況価格を反映する場合もあるだろうが、本質的な意味合いは、「標準」あるいは「目標」である。

「標準工数(標準時間)など無い」というのならば、工務担当者が日程計画を立てるとき、各仕事の予定時間はどのように設定するのだろうか?サイコロを振っ て決めている会社があるわけないし、何の根拠もなく担当者がひねり出したものでもない。その根拠は別にして、当然のことながら担当者の頭の中に蓄積されているデータを使っているはずである。担当者の頭の中では製品仕様がいろいろに分類されて、それぞれの括りごとに設定された時間、つまり「標準時間」があり、それを使っている。

以上のような実態にもかかわらず、「標準」という言葉を聴いた途端に拒否反応を示す業界人は多い。当然のことながら、それにはそれなりの理由はある。

「標準時間」についてみると、作業者への技能依存が高い仕事については、同じ仕様の製品でも作業者によって掛かる時間が異なってしまう。

標準が重視されなかったもう一つの理由として、大きなバッファの存在がある。例えば、印刷の工程日程として2日をとるといったように、各仕事の工程日程を あらかじめ設定しておいてその枠に入れることである。価格面で見れば、全体としての収益性が高かったから標準原価云々と言わなくても利益は十分に確保できた。つまり、ラフな運用が問題として表面化しにくかったということである。

また、「標準」を決めるために必要なデータ収集・分析にかなりの労力を要したことも大きな理由である。
以上を一言でいえば、標準データを使うことの費用対効果にメリットが感じられなかったということである。

いまこそ「標準」を管理に活用しよう

しかし、いまは生産設備の自動化が進み、パソコンとネットワークも安価に使えるようになって「標準」を有効に利用できる場面が大きく広がった。ITインフラの整備により少ない労力で精度の高い実績データを把握することが可能となり、標準と実績との対比も容易にできるようになった。

管理リサイクルにおける改善とは?

部門別原価データを下に標準価格を設定、実績データと付け合せて商品別、得意先別、さらに営業マン別など、より細かな単位で、「利益」を管理することができる。標準価格を社内仕切価格として設定、運用すれば営業と生産各部の利益を管理することができる。

標準価格を設定する基礎になるのが「標準仕様(項目)」ごとに設定された「標準手順」(どのような工程、設備で生産するのか)、「標準工数」(どれだけの時間がかかるのか)だが、それらの標準を使って生産計画や見積もりの「シミュレーション」を自動化することもできる。

管理の目的である改善をPDCAによって行なうとき、Pにあたる「目標」を順次高めて改善を継続していくことが管理の「サイクルを回す」ということである。「標準手順」「標準工数」といった「標準」の設定がその基盤となる

(JAGAT CS部 花房賢)