増える中小企業の副業・兼業人材の活用

掲載日:2022年5月27日

新しい事業の成功には、優秀な人材の有無が成否を分けると言っても過言ではない。そのためには育成、採用が主たる人事施策であるが、今、注目を集めているのが副業・兼業の外部人材の活用である。

中小企業が新規事業を進めていく上で、「資金」と「人材」が大きな障壁となる。政府はその資金面をバックアップするために、「事業再構築補助金」や「ものづくり補助金」など、補助金制度を整備している。補助金は、企業がモノ(設備・システム)へ積極的に投資することを促進し、企業の生産力を高め事業拡大につなげてもらうことが主旨であった。特に、「ものづくり補助金」はその側面が強く、ここ10年で本制度を利用して印刷機やシステムへ投資する印刷会社も多い。

人材は育成と採用
一方、右肩上がりの経済環境であれば、設備投資をするだけで生産量がアップし売り上げ拡大を見込めたが、コロナ禍の日本経済、印刷業においてはそう簡単ではない。いくら補助金を活用して、新たな設備やシステムを導入し生産力が向上しても、その分の仕事(投入)がなければ売り上げ拡大は見込めない。それどころか設備負担か重しになり収益性を損なう可能性がある。つまり、新設備を導入するのであれば、それを活かした新たな事業やサービスを構築し仕事を創注する必要があり、それを実現する「人材力」が成否を分けるといっても過言ではない。人材への投資手段として大きく、「既存社員の育成」「外部の人材採用」に分けられ、以下それぞれの特長がある。

●既存社員の育成
 【メリット】
  ・新たな人件費によるコスト増がない
  ・育成対象になった社員の士気向上
  ・会社の理念や風土を理解している
 【デメリット】
  ・即効性がなく時間を要する
  ・自社の固定観念に縛られ、新たな発想やアイデアが生まれにくい

●外部の人材採用
【メリット】
  ・専門性や高い経験値を活かせる
  ・即効性が高い
  ・新しい発想やアイデアが注入される
 【デメリット】
  ・人件費がアップする(正社員採用の場合は固定費が膨らむ)

増える外部人材の活用
育成、採用、どちらか一方ではなく、それぞれの特長を捉えて上手く活用することが望ましい。ただし、採用に関しては、中小企業が優秀な人材を正社員で確保するには、知名度や待遇面から採用ができない。できたとしても人件費(固定費)増加による一時的な収益性の悪化等、そのハードルは高かった。しかし、2020年以降は、テレワークの浸透、企業の副業・兼業の容認の機運が年々高まり、雇用に縛られない外部人材の活用に注目が集まっている。「中小企業白書2022」によると、既に外部人材を活用している中小企業は2~3割程度にまで増え、今後活用したいと回答した企業まで含めると5割を超えている。そして、外部人材を活用したい分野として、「営業・販売促進」「IT導入」「新規事業開発」「マーケティング」が上位を占めている。つまり、企業としては、仕事を創注することが重点課題と認識し、そこに外部人材をプロジェクト単位で投入することが効果的であると考えている。

勿論、外部人材は正社員と比べるとコミットメントは低くなるが、人件費を固定費ではなく、プロジェクト単位の変動費で扱えるため、経営リスクを低減できる。また、案件ベースで人材を流動的に動かすこともできるため、費用対効果、組織活性化の点ではメリットが大きい。また、「事業再構築補助金」「ものづくり補助金」は、設備投資をメインとした補助金制度ではあるが、専門家経費も補助対象に加わり、外部人材の活用に対しても後押しをする姿勢を見せている。

コロナ禍において、新しい事業を推進していくには、設備投資をするだけでは難しく、仕事づくりとセットで考える必要がある。そのためには人材が重要であり、今までの内部人材の育成、外部からの正社員採用と共に、副業・兼業の外部人材の活用も新たな選択肢に加えることも一考である。

JAGAT 塚本 直樹

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