グラフィック(視覚表現)は、文字と並んで、情報伝達の重要な要素である。統計データや物事の相関関係などを伝えたい時、事細かに文章で説明するよりは、グラフやチャートを一つ提示した方が、はるかに伝わりやすい。 続きを読む
「デザイン」タグアーカイブ
タイポグラフィの広がり
文字は、デザインの要となる要素である。タイポグラフィはデザインのあらゆる分野に必要とされ、メディアとともに発展している。 続きを読む
戦略的デザインで、ものづくりの未来をひらく
東京都内のものづくり中小企業とデザイナーの恊働によるビジネス創出を目的とした「東京ビジネスデザインアワード」の実績から、中小企業におけるデザイン活用のあり方を考える。 続きを読む
デザインとブランドのパワー
グッドデザイン賞と日本デザインの変遷
2016年に60年目を迎えたグッドデザイン賞は、時代の変化に対応しその仕組みを柔軟に変化させてきた。その歩みを辿ることで、日本のデザインがこの60年でどのように進化してきたのかが見えてくる。 続きを読む
グッドデザイン賞と印刷
2016年度グッドデザイン賞の大賞ほか各賞が10月28日に発表された。多様な分野を対象とするこの賞は印刷とも無縁ではない。今年度の受賞と印刷会社の関わりについて見てみたい。
現代社会のスタンダードを発見する賞
グッドデザイン賞は公益財団法人日本デザイン振興会(会長:川上元美)が主催する日本で唯一の「総合的なデザイン評価・推奨の仕組み」である。
デザインの優劣を競うのではなく、くらしや社会を豊かにするという視点で評価を行う。また審査を通じて現在の社会におけるクオリティスタンダードや次なる社会への可能性を発見するという目的も持つ。 1957年に始まり、通算の受賞件数は4万件以上にのぼり、2016年に60年目を迎えた。
受賞すると、その証として「Gマーク」を使用することができる。また、グッドデザイン賞受賞展への参加、オンラインギャラリー、受賞年鑑への掲載などにより、受賞作が広くアピールされるため、販売促進や新たな事業展開の契機となるなど可能性は広がる。
グッドデザイン賞の応募カテゴリーは有形無形を問わず、極めて多岐に渡る。製品はもちろん施設や地域開発などの空間設計、メディア・コンテンツ、ソフトウェア・サービス・システム、教育や地域・コミュニティづくりなどの分野までカテゴリーが用意されている。
2016年度は4085件の審査対象作から1229件が受賞し、その中から「グッドデザイン・ベスト100」が選定され、さらに「大賞」のほか「金賞」や各種特別賞が選定された。
受賞した印刷・関連企業
2016年度グッドデザイン賞を果たした印刷・関連企業、また受賞に貢献した企業の一部を紹介したい。
株式会社ウイル・コーポレーションは、紙製品(広告宣伝) [ハサミも糊も要らない「魔法のペーパークラフト」]でグッドデザイン賞を受賞。
低学年の子供をターゲットに、安全・安心とローコスト、エコロジーをコンセプトに販促ツールとしてスタートし、現在では知育販促物から企業販促物まで幅広く展開しているという。
株式会社相互は、宿 [八寿恵荘]でグッドデザイン賞を受賞。
同社の事業部「カミツレ研究所」が運営する、自然素材にこだわり安心して過ごせるホテル。アメニティはもちろん、料理には有機栽培の野菜を使用したり、内装材にも自然素材を多用するなど、心地よい空間が作られている。 印刷業にとどまらず新たなビジネス領域への展開を図る相互の、多彩な取り組みの一つだ。
グッドデザイン賞を支える印刷技術
2016年度グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)は「世界地図図法 オーサグラフ世界地図」(慶応義塾大学 政策・メディア研究科 鳴川研究室+オーサグラフ株式会社)だ。
オーサグラフは、メルカトル図法よりも正確な地球の全体像を示す四角い世界地図を描く図法だ。大きさと形に歪みがない、世界のどこもが中心になれる、時間の流れが表現できるなどのメリットがある。
オーサグラフは既に日本科学未来館で採用されるなどの実績があり、関連商品も幾つか販売されている。香川県の株式会社マルモ印刷による地理・地形・地球をテーマにしたインテリア紙製品ブランド geografia(ジオグラフィア)もその一つだ。
2016年度グッドデザイン賞受賞展会場には、オーサグラフの仕組みがわかるgeografiaシリーズの地球儀「オーサグラフ・グローブ」も展示されていた。geografiaは「オーサーグラフ世界地図」の受賞を支えた存在といえる。
JAGATの会員誌「JAGAT info」2016年10月号では、マルモ印刷のビジネス展開について紹介させていただいた。
「geografia」は、国内はもちろん、海外でも約30カ国に展開しており、国内のメディアにも取り上げられている。これを機に、さらなる発展を期待したい。
グッドデザイン賞を俯瞰してみると、現代社会でデザインが扱う領域の広さに驚かされる。そのどの分野でも、印刷・メディアが必ず何らかの役割を果たしている。 顧客のアイデアを技術力で支える、あるいは、自身で新たなデザインを生み出すなど、デザインを意識した事業戦略を図ってほしい。
(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)
カラーイメージを広げる発想力トレーニング
イメージをビジュアル化し、配色センスをよりアップするトレーニング講座を新設します。DTPオペレータ、デザイナー、色の知識を身に着けたい営業の方、ご参加ください。 続きを読む
スマホが変えたWebデザイン
印刷物での読みやすいデザインは大きく変わることはないが、Web サイトではデバイスの変化や技術的な要因によって読みやすいデザインが変わってくる。 続きを読む
堤清二はいかに流通産業をデザインしたか
―ビジネスとクリエイティビティ―
セゾングループ創業者の堤清二氏が2013年11月25日に86歳で死去した。彼の流通産業における足跡を、企業デザインの視点で振り返ってみたい。
流通産業に文化を取り入れ、時代を拓いた
1970年代から1990年代初頭にかけ、西武百貨店、パルコ、西武美術館(セゾン美術館)などからなる生活総合産業セゾングループは、流通産業のみならず、さまざまなジャンルのカルチャーシーンをリードした。
しかし、堤清二が父堤康次郎から西武百貨店を引き継いだ当初は、そのような栄光から程遠い状況であった。三越、伊勢丹など伝統ある呉服店由来の老舗と比べ、新興の鉄道会社が開業した西武百貨店は三流と見られ、経営状況も芳しくなかったという。
事業を立て直し、ブランド力を強化すべく、彼は、エルメス、イヴサンローラン、アルマーニなど海外の高級ブランドをいち早く取り入れ、従来とは異なる百貨店像を形成していく。
また、百貨店内に文化施設を積極的に作っていった。現代美術に特化した「西武美術館(後のセゾン美術館)」、そのミュージアムショップであった美術書専門店「アール・ヴィヴァン」、先鋭的な品揃えを特徴とした書店「リブロ」などを展開し、消費と文化の融合を目指していた。
若者層をターゲットにした商業施設パルコの存在も大きい。1960年代末、池袋に1号店を開き、1973年に渋谷店がオープンしてから本格的にブレイク、渋谷パルコ周辺の一角を流行発信の街に変えた。パルコパート2に登場したブティック「イッセイミヤケ」「コム・デ・ギャルソン」などが斬新な売場編集を通じて新しい衣服デザインを提案し、セゾングループが放つクラブクアトロ、パルコミュージアム、パルコ劇場、シネクイント、パルコ出版などが次々とサブカルチャーの発信拠点となっていった。
これらをディレクションするために、時代を代表するクリエーターを多数起用した。
セゾングループのクリエイティブ・ディレクターを務めた田中一光のほか、アートディレクターの浅葉克己、石岡瑛子、小池一子、イラストレーターの山口はるみ、和田誠、インテリアデザイナーの杉本貴志、内田繁、コピーライターの糸井重里、日暮真三、建築家の菊竹清訓、写真家の石元泰博、坂田栄一郎、アーティストの大竹伸朗ほか数多くのクリエーターが、セゾン文化を形作っていったのである。
一見、イメージ先行にも見えるが、堤清二が目指したのは、物質と精神の両面から新しい価値を消費者に提示することにより、因習から解き放たれた自由で豊かな文化を商業分野から作っていくことであった。
西武百貨店がキャンペーンで用いた、糸井重里による「不思議、大好き。」「おいしい生活」というキャッチフレーズには、日常生活に見いだす心のときめきや充足感が表現されており、堤清二の思想が反映されている。
過剰消費社会に異議を唱える
セゾングループが消費者の支持を集めていくにつれ、グループ自身が権威になるとともに、過剰消費社会の一翼を担ってしまうという矛盾を抱えるようになった。
そんな課題を解決するべく、堤清二が田中一光とともに発案したのが「無印良品」であった。ブランドをつけないこと、品質や機能を必要最低限に抑えることによって適正価格の商品を実現できると考えたのである。
『無印ニッポン』(堤清二・三浦展著、中公新書)によれば、発案当初、堤清二は社内で「これは反体制商品」だと説明したが、なかなか理解が得られなかったという。
「反体制」の意図は「みんながアメリカ的豊かさを追っているときに、『それにはあまり賛成しないよ』と異議を唱える」ことであり「ファッションがあふれている時代に、ファッション性を追求せず、そしてそのことが結果としてかっこいいのではないかというメッセージ」だった。 最低限の機能とシンプルなデザインを提供し、使い方は消費者自身が決めるという消費者主権を目指したのである。
無印良品のアートディレクションは、当初田中一光が担当し、田中が亡くなる直前に、原研哉に受け継がれた。原研哉は、自著『デザインのデザイン』(岩波書店)の中でこう述べている。
「作者やデザイナーのエゴイズムを排し、最適な素材で最適な形を探る中で、もののエッセンスが顕在化するような、独創的な省略ができれば理想的だが、それは『省略』というよりもむしろ『究極のデザイン』と言うべきだろう。発足当初は『NO DESIGN』を標榜していたけれども、実は無印良品の思想を正確に実現するためには非常にレベルの高いデザインが必要であるということが徐々に判明してきたのである。」
経営に、ビジョンとクリエイティビティを
堤清二は一時代を作りながらも、結果的に経営者としては失敗した。バブル崩壊後の長期不況に備えた経営戦略を立てることができなかった。特に不動産・ファイナンスへの投資により多額の負債を抱え、セゾングループの解体を招いた。ワンマン経営の問題も指摘されている。彼の独走にしばしば社員は翻弄されたとも言われ、その思想は十分に伝わっていたとは言いがたいようだ。
しかし、経営主体が他社に移譲されたとしても、セゾングループの事業の多くが、堤清二の理念を内包して引き継がれている。例えば無印良品は、ユニクロなどの台頭にも関わらず今なお根強いファンを持つ。製品ラインアップは生活全般をカバーするに至り、環境保全やより良いくらしへのメッセージを送り続けている。
経営者は企業を維持するために、経営環境と自社の経営状況をシビアに把握し、地に足のついた事業活動を行っていかなければならない。一方、企業を発展させるためには、自社が何のために存在するのか、顧客は自社の製品・サービスの何に対して対価を払うのかを、常に自らに問い続ける必要がある。
顧客の要求に沿った製品・サービスを提供するのが事業の基本であるが、成長を持続的なものとするには、顧客の潜在的な要求を掘り起こし、ほかのどこにもない製品・サービスによって、顧客に驚きと感動を届けることが必要である。
そのためには、まず経営者自身が明確なビジョンを持たなければならない。そのビジョンを実現するために、ビジョンに見合ったプランナーやクリエーターを適切に選んで起用していくことが必要になる。
企業の持続的な発展のためには、経営者は自らのビジョンを社員に語り、共有しなければならない。社員のモチベーションこそが企業の永続性の鍵なのである。
堤清二の遺業はその栄光からも失敗からも、経営者が学ぶ点がまだまだあるのではないだろうか。
(研究調査部 石島 暁子)
参考文献・サイト
『デザインのデザイン』原 研哉 著/岩波書店 2003年
『無印ニッポン―20世紀消費社会の終焉』堤 清二・三浦 展 共著/中央公論新社 2009年
『セゾン文化は何を夢みた』永江 朗 著/朝日新聞出版 2010年
『戦後日本デザイン史』内田 繁 著/みすず書房 2011年
【寄稿】追悼・堤清二(辻井喬)さん ライター・永江朗 – MSN産経ニュース
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(2013年12月19日初掲)
デザインで重要なコミュニケーション能力を鍛える
「情報をグラフィック表現として再構築することがデザイン」との考えから、通信教育「考えるデザイン講座~説得力は企画力」では、コミュニケーションルールや分析手法を具体的に示している。 続きを読む