[印刷技術]3-5 プレス

3-5-1 有版印刷

  • 印刷には4つの版式があるが、今日の商業印刷や出版印刷では、オフセット(平版)印刷が主流になっている。出版の一部および軟包装印刷ではグラビア(凹版)が使われる。凸版印刷の一種であるフレキソ印刷は、包装材料の印刷に使われる。

  • 扱う用紙が長巻(ロール紙)の印刷機を輪転方式、カット紙のものを枚葉方式という。

  • 平版は解像性・価格・生産性において、他の版式に比べて優れている点が多く、印刷版式の中で最も多く使われている。

平版

  • 水と油の反発作用を利用し平面の版を用いて印刷する。版の画線部は親油性でインキが着き、非画線部は親水性で水の皮膜で覆われることによりインキが弾かれる。

  • 水の代わりに、シリコーンゴムを用いてインキを反発させる版を使った水なし平版もある。

凸版

  • 版の凸部が画線部で、そこにインキをつける。もっとも古くから利用された版式で、活字、活版印刷のほか、シール、ラベル、段ボール、ビジネスフォームなどの分野で用いられている。大部数を発行するコミック誌は、古くからざら紙が使用されており、樹脂凸版を用いた活版輪転印刷が主流である。

凹版

  • 版の凹部が画線部で、版面全体にインキを付けた後、版の表面をぬぐい凹部に残ったインキが転写される。

  • 凹部にあたるセルの深さによって階調を表現しているコンベンショナルグラビアに対して、最近ではセルの大きさによって階調を表現する網グラビアが主流になりつつある。

孔版

  • 画線部が孔状になっており、その孔をインキが通過して被印刷物に転写される。

3-5-2 品質管理

品質管理では、印刷物製作における入力から出力までの工程をトータルに考えなければならない。

オフセット印刷と品質

  • オフセット印刷で適切なカラーバランスが得られるのは、印刷紙面上でインキ膜厚が1ミクロン前後で刷られている時である。

  • インキ膜厚が大きくなると裏つきなどのトラブルの原因となる。反対に膜厚が小さいと印刷物の色調にボリューム感が不足し、ベタのつぶれが悪くなる。

  • インキ膜厚は濃度と一定の関係がある。膜厚が増すにつれてカラー濃度も高くなる。印刷工場の実作業ではカラー濃度を測定してインキ膜厚の適正量を管理する。

  • 実際の印刷インキはCMYの色相が理想値とは少しずれているのでCMYの等量混合ではニュートラルグレーとはならず、少し赤みのグレーとなる。そのため50%付近の平網でCに対してMとYを10%程度少なくしたカーブで色分解をしておく。

  • カラー印刷物のシャドウ部は墨インキだけではつぶれが悪いので、墨ベタの下には色版の平網を入れることが行われる。通常はC60%程度の墨下を入れるが、黒の色味の調整のために必要に応じてMYを入れることもある。これをリッチブラックと呼ぶ。

印刷標準とJapan Color

  • ISOはオフセット印刷の標準として12647-2を規定している。ここでは印刷条件、用紙の種類、CMYKベタ部の基準、許容誤差、ドットゲイン量などが規定されている。

  • 各国では、12647-2に準じた上で、さらにその国の事情に応じた標準を作成している。米国ではG7(以前のSWOP/オフ輪、GRACoL/枚葉を統合)、ヨーロッパではPSO(Process Standard Offset)、日本ではJapan Colorがある。

  • これらの標準に基づく認証制度が実施されている。米国ではIDEAlliance、ヨーロッパではFogra、日本ではJPMA(日本印刷産業機械工業会)が実施している。

  • Japan Colorは、ISO/TC130国内委員会が中心になり、日本印刷学会の協力のもとに作られた印刷の標準である。1993年に設定されてから何度か改訂され、最新版は「ISO準拠 ジャパンカラー枚葉印刷用2011(略称:Japan Color 2011)」である。

  • Japan Color認証制度には、安定した品質の印刷物を作成できる工程管理能力について認証する標準印刷認証の他、デジタル印刷機で安定的に高品質の印刷物を作成する能力について認証するデジタル印刷認証などがある。

品質確認

  • DTPからCTP出力する際には、製版印刷の品質管理のために日付・担当・JOB名・刷り色・改版情報(バージョン名など)やカラーパッチ(カラーバー)、テストチャートなど必要な情報をトンボの外側に入れる。

  • 本機校正の品質管理にはカラーパッチを濃度計や色彩計などで計測する。

  • 品質管理上のカラーパッチの役割は、一般にインキの濃度をベタパッチで測り、ドットゲインが正常かどうかを平網でチェックし、CMYの色の偏りをグレーでチェックする。

  • 各版単独の色校正を分色刷りという。特に特色や補色が間違いなく印刷されているかどうかを確認できる。

検版

  • 検版目的は、企画デザイン制作時の修正箇所や修正ミスの確認、クライアントやデザイナーからのゲラ(プリント出力)と入稿データの比較、製版の面付け違いの確認、出力時の初版または一つ前の版との比較確認、印刷のためのプレートの出力状態または版面設計の確認などである。

  • プレート出力やデジタル印刷の前に、デジタルデータ同士を比較するデジタル検版システムがある。同システムでは、同一RIPによるRIP済みデータを使用して修正前後のデータを比較し、修正ミスや相違を識別する。

  • 検版結果は例えば初校と再校の差分は、ディスプレイで表示し確認するかプリンター出力して確認するのが一般的である。

3-5-3  プライマリー処理

  • プラスチックフィルムへの印刷やラミネート加工時の接着性を改善するプライマリー(下地)処理に注目が集まっている。

  • コロナ処理とは、コロナ放電のエネルギーで基材表面の分子構造を破壊することにより、接着性の改善を図る技術である。フィルムやラベルシールなどの軟包装材を扱う分野や、グラビア印刷やオフセット印刷、スクリーン印刷などでも広く利用される。

3-5-4 VLF

VLF とギャンギング

  • VLF(Very Large Format:大型枚葉印刷機)とは、A倍判、菊倍判、四六倍判など通常の倍サイズの枚葉印刷機のことで、同等の大きさの刷版を使用して印刷する。

  • 1つの版の中に複数印刷物を割り付けるギャンギングを行うことで、1回の印刷で複数のジョブを遂行することができる。生産性が高く、コストダウンを実現できる。

  • 欧州を中心に、より集中化した生産体制を目的に発展した。

  • 日本国内でも、多くの印刷ジョブを集めて効率よく生産を行うビジネスモデルを実践する印刷通販において、VLFを導入するケースが増えている。

3-5-5 広色域印刷

オフセット印刷では、早くから多色プロセス印刷による高彩度・広色域印刷の取り組みが行われてきた。

  • Pantone社のヘキサクロームは、専用の高彩度CMYKインキにオレンジ・グリーンを加えた6 色プロセス印刷である。AdobeRGBの色域の大部分をカバーし、Pantone Colorの90%を再現できるとされている。

  • 多色プロセス印刷が可能になった背景には、CTPが普及し刷版品質が向上したことや、版数が増えてもモアレが発生しないFMスクリーニングが普及したことが挙げられる。

  • 東洋インキが提供するKaleidoは、広色域のCMYKプロセスインキである。4色プロセスでAdobeRGBの色域をカバーする広色域印刷が可能とされている。

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