[印刷技術]3-9 デジタル印刷

  • デジタル印刷は無版の印刷方式である。版を使わずにコンピューター上で製作されたデータ(デジタルイメージ)を、電子写真方式やインクジェット方式により、紙やフィルムなどの原反に印刷する。色材はインクやトナーである。

  • 無版であることから、印刷版をつくる手間や材料、コストを省くことができる。また、大量複製だけでなく、少量印刷、可変(バリアブル)印刷にも対応することができる。

  • ページ単位で印刷内容を変更することが出来るため、書籍などのページ物では電子(自動)丁合が可能である。

  • デジタル印刷が実用化された当初、小ロット印刷サービスに有効であることから、POD(Print On Demand、プリントオンデマンド)、オンデマンド印刷とも呼ばれていた。

  • 近年ではデジタル印刷の機能が分化・専門化し、ビジネスフォームや軟包装、シール・ラベルなど、利用目的に応じた専用機種も開発され、普及しつつある。

3-9-1 バリアブル印刷

  • バリアブル(可変)印刷とは、無版という特徴を活かし、ページ単位で印刷内容を変更することである。共通のレイアウトに対し宛名や画像などを部分的に差し替える方法と、ページ全体を差し替える方法がある。特定の印刷方式やデータ処理方式を指しているのではなく、総称である。

3-9-2 パーソナライズ印刷

  • 特定の個人向けに編集した内容を印刷することをパーソナライズ印刷と呼ぶことがある。代表的なものとして、顧客情報に応じて内容を変えるDMやIDカード等がある。

3-9-3 バージョニング印刷

  • バージョニング印刷とは、地域や時期、配布対象などセグメントごとに異なる内容、デザインで印刷することである。

3-9-4 追い刷り方式

  • 大量印刷に適したオフセット印刷とバリアブル印刷が可能なデジタル印刷を組み合わせることを追い刷り方式と呼ぶことがある。例えば、DM、クーポン券や入場チケットのID番号・バーコード・二次元コードなどが代表的である。背景の固定イメージは予めオフセットで印刷(プレプリント)し、デジタル印刷機を使用して、可変データを追い刷りする方式である。

3-9-5 データプリント分野における一括印刷

  • 以前、ビジネスフォームや請求明細書などのデータプリント分野では、あらかじめオフセット印刷されたプレプリントに、データ部分のみを追い刷りする方法が多用されていた。近年では、プレプリントの在庫管理の手間やコストが小さくないこと、デジタル印刷機のスピードやカラー品質が向上したことから、白紙への一括印刷が主流となりつつある。

3-9-6 インクジェット方式

  • インクジェット方式のプリンターの構成は、インクジェットヘッドとインクおよびインク容器(インクカートリッジ)という3つの要素からなる。そして、インクジェットヘッドを左右の主走査方向に動かす機構と、紙を縦の副走査方向に送る機構が主となるシンプルなものである。内蔵されたインクをノズルから紙に吹き付けることで印刷を行う。

  • インクジェットプリンターのプリントヘッド方式を大きく分けると、サーマル(バブル)方式とピエゾ方式、コンティニュアス方式がある。

  • サーマル方式とは、インクをヒーターによって加熱することでインク容器内に気泡を作り、その膨張によってノズルから噴出する方式である。ヘッドの構造が比較的シンプルで、ヘッドの集積率を高めることや高解像度を実現できるという特長がある。

  • ピエゾ方式は電圧を変化させてピエゾ素子を膨張させ、ノズルから微小なインク滴を噴出する方式である。ドット毎にピエゾ素子を用意するため、ヘッド構造が複雑となり、解像度もあまり高くできないが、電圧でピエゾ素子を制御することで比較的容易にインク噴出量を制御することができる。

  • コンティニュアスとは、ノズルから連続的に吐出したインク滴を帯電させ、偏向電極で曲げて印字面に吹き付ける方式である。偏向されなかったインクは回収口を経てタンクへ戻り、再利用される。印字をしないときもインクは連続的に吐出されているためコンティニュアス方式と言われる。構造が大がかりで小型化が難しく、産業用インクジェットプリンターとして利用されている。

3-9-7 インクジェット方式のインク

  • 染料インクは、発色がよく色の階調を再現しやすいという特長があるが、耐水性・耐侯性はあまりよくない。

  • 顔料インクは、光沢は出しにくいが、にじみの少ない印刷が可能である。染料と比較すると耐水性・耐侯性に優れているが、溶液としての安定性は低く、耐摩耗性も高くない。

  • 紙以外の媒体への印字には、主に油性インクが用いられている。さらには、これらのインクを加熱して溶融状態で塗布するソリッド(固形)インク、付着したインクに電磁波を照射してインクを固まらせるUV硬化インクなどがある。

  • 屋外広告など耐候性が求められる大判プリンター分野では、有機溶剤系のソルベントインクが用いられる場合もある。ラテックスインクは、水性顔料に水溶性ポリマーを溶解、硬化させる方式である。対候性が高く、非コート塩ビやターポリンのようにインクが染み込まないメディアにも印刷することができる。

3-9-8 電子写真方式とトナー

  • 電子写真方式とは、帯電した感光体(ドラム)の表面に印刷イメージを露光し、イメージの部分にトナーを付着させる。これを紙に転写し、熱を加えて溶融定着する印刷方式である。このプロセスをCMYK、4回繰り返すことでフルカラー画像が得られる。

  • トナー(toner)とは、電子写真方式のプリンターなどで使用されるプラスチック粒子に顔料等の色粒子を付着させたミクロサイズの粒から成る粉である。

  • 静電気を利用して紙にトナーを転写し、熱によって定着させることで印刷する。通常は、カートリッジと呼ばれる専用の容器に入れられ、それをプリンターに挿入して使用される。

  • 紛体トナーの製法には粉砕方式と重合方式がある。

  • 粉砕トナーは、プラスチック樹脂を繰り返し粉砕することでパウダー化したものであり、粒子の大きさや形状にバラツキがある。

  • 重合トナーは、プラスチックの元となる樹脂粒子と着色剤粒子などを化学反応で結合させて粒子を作る。一定の大きさ、形状の粒子を作成することができ、流動性・帯電の均一性に優れるといった特性がある。

  • 電子写真方式のデジタル印刷機の中には、液体トナーを使用するタイプもある。

3-9-9 デジタル印刷による多色・広色域印刷

  • 新たなトナーやインキなどの開発が進み、金・銀・クリアインキ(トナー)などによる多色印刷や広色域印刷を実現している機種も存在する。

  • 広色域トナー・インクを使用するデジタル印刷機では、RGBの色域を活かしてビビッドなカラーを演出し、モニター画面と遜色ない色再現も可能である。RGBデータ入稿を前提とすることからRGB印刷と呼ぶこともある。同人誌印刷やイラストなどで利用されることが多い。

  • デジタルの広色域印刷は、小ロットでも割高となることが少ないため、今後さらに普及する可能性がある。

3-9-10 デジタル印刷機のキャリブレーション

  • デジタル印刷機では、日常のメンテナンスとして定期的なキャリブレーション(色味や濃度の制御・調整)が必要である。近年では、自動測色・キャリブレーション機能を搭載する機種も増えている。

3-9-11 Japan Colorデジタル印刷認証

  • Japan Colorデジタル印刷認証とは、デジタル印刷を用いて、オフセット印刷標準のJapan Color2011を再現する運用能力を認証する制度である。

  • デジタル印刷認証の審査では、従来のCIE1976(L*a*b*)色差式ではなく、より人間の知覚に近いCIEDE2000(⊿E00)色差を採用している。

DTPエキスパートカリキュラム第15版Home