【マスター郡司のキーワード解説】特定色域の選択

掲載日:2024年2月26日

発注者の望む画像について重点的に講義

これからは生成AIを利用して、レタッチのやり方も大きく変わっていくだろうと予想されている。だが、現時点でのAIレタッチのレベルを考えると、塗り足しなどは100%問題ないが、高度なモノになると人間の判断がどうしても必要になってくる。現在の生成AIの能力を考えると、文章生成は比較的簡単に行えるが、誰でも判断できるため点数は辛口になるようだ。それに対して画像生成は、コンピューターが描き出す写真品質なので驚きの方が勝るようである。
さて、私が大学で教えているレタッチだが、生成AIレタッチを見極めるまでには至っていない。そのため、今期は簡単にできる「10秒レタッチ」だけにとどめて、どのような写真(レタッチも含む)を発注者が望んでいるのかについて実例を挙げながら重点的に講義することにした。藝術学部というのは自分の満足がいく作品を制作することを目的としているので、発注者が望むものとは一致しないことが多々あるのだ。

レタッチの理論を知っておく

個人的に多用するPhotoshopのコマンドは「特定色域の選択(プルダウンメニューのイメージ→色調補正→特定色域の選択)」である。私がカラースキャナーを熟知していることも大きいのだが、オペレーションはCMYKチックなのにもかかわらず、中身のデータハンドリングはLabであり、RGB画像にも問題なく使える。ここが大きいのだ。
カラースキャナー時代は、やり過ぎると反転などの問題が起きてしまったが、Labハンドリングなので大胆にやっても問題にならない。そしてオペレーションが減算混合的なので、人間の感性に近いのも助かる。例えば画像1(肌モノ)だが、少々暗く濁っているのをCyan in Redを選び、肌色の反対色であるシアンを抜くと健康的に見えるという具合だ。肌色は基本的にRedでコントロールできるが、Yellowの方がよりイフェクティブな場合もある。その辺は適宜組み合わせて使えばよい。そのオペレーション画面が画像3だが、その結果は画像2となるので、比較してもらうとよいと思う。なお、差を分かりやすくするために、“やり過ぎ”なのはご了承いただきたい。

画像1 暗めの肌モノ
画像2 キレイめの肌モノ
画像3 オペレーション画面

それぞれのイフェクティブカラーに関した必要色と不必要色を、表1に掲載しておく。

例えば野菜などの緑色はMagentaが反対色なのでM in Greenをマイナスにすれば濁りが消え、プラスすれば古くさいイメージになる。そのように修正した肉と野菜の画像が、画像4(新鮮なイメージ)と画像5(古くなった)である。

画像4 新鮮な生肉と野菜
画像5 古めの生肉と野菜

肌モノの濁りを取るくらいなら、10秒もかからず5秒レタッチで何とかなってしまうが、他の色にも効果的である。例えば空をスッキリさせるにはY in Blueを抜けばよいし、海のエメラルドグリーンはY in Cyanをプラスすればよい。これを意識的に行えば、空と海の差がより出やすくなる。このようなレタッチも「何となくこんなイメージで」というプロンプト(命令文)で行ってしまうAIソフトに発展していくと思うのだが、当面は知っておいて損はないと考える。

(専務理事 郡司 秀明)