新入社員の受け入れ凖備は万全か

掲載日:2015年11月24日

印刷企業の大卒新採用は増加傾向にあって、特にパッケージ、シール・ラベル分野が目立っている。若者から「選ばれる企業」であり続けるには魅力ある仕事、活力ある企業でなければならない。印刷に興味や魅力を感じてもらうための情報提供も大切である。

就活解禁大幅繰り下げの影響が広がる

2016年度入社予定の大卒就活解禁が8月1日(高卒は9月16日)と従来に比べ大幅に遅くなったことから、大企業、中小企業ともに様々な混乱があったようです。それでも今年度の採用状況は既に報じられているように、10月1日現在で、昨年とほぼ同水準の内定率といわれています(リクルートキャリア調べ)。8月解禁は経団連加盟の大企業のことで、非加盟企業や中小企業では3~4月にスタート、また、大企業もインターンシップ制度を活用して早くから接触があったようです。とはいえ例年に比べ、10月1日の内定式の開催率は下がり、学生、企業ともに評判は芳しくなく、来年からは新たなルール作りとなる公算が強いようです。世の中の動向がどうあろうとも、企業にとって次世代を担う人材の確保と育成は大変重要なことです。ことに中小企業の経営者にとっては後継者育成とともに最大の仕事といえましょう。

10月末現在での印刷会社の大学新卒採用の状況(注)を、大手就活サイト「リクナビ」と「マイナビ」から見ると、印刷事業を主業務とする企業は、リクナビで78社、マイナビで127社の掲載がありました(以下の数字は10月29日現在のもの。また一部企業はグループでの採用が含まれ、グループを1社と計算)。リクナビでの新卒募集掲載企業数は1万3966社で、そのうち印刷企業は78社(0.55%)、マイナビは1万6962社で、印刷企業は127社(0.75%)で、両サイトへのダブリ掲載を除くと、193社の募集企業が掲載されています(上場企業は16社)。これらの企業はサイト情報から、少数の例外を除くと、複数年連続して大卒者を採用していることがうかがえます。193社のうち、昨年か今年のどちらか、または両年とも6人以上の大卒の新卒採用を行った印刷企業は、79社、約4割ありました。11人以上の複数の採用予定または採用(昨年)企業は33社(17.1%)となっています。
注:ここでの大卒者とは、専門学校、高等専門学校、短大、四大、大学院の卒業予定者で、原則、高卒採用は含まれていない。ただし、企業側が高卒採用人数を表示している場合はその数字を考慮した。

パッケージ、シール・ラベル分野が元気、新卒採用を増加

6人以上新卒採用の79社のうち、昨年より採用を増やした企業が28社、採用を減らした企業が11社、昨年並みが17社、若干名が11社、未定表示が6社となっています。ただし、若干、未定の大半は過去の採用実績からほぼ例年並みと考えてよいでしょう。いくつかの企業は既に追加採用の人数になっていて、昨年との直接対比ができませんでした。
大手の総合印刷業(大日本印刷、凸版印刷、共同印刷)は別にして、24社が主力事業をパッケージ、シール・ラベル分野としています。うち20社は昨年より採用人数を増やしています。よって採用増の企業28社のうち、71.4%がパッケージ、シール・ラベル企業であり、いかにこの分野が堅調かを物語っています。また、昨年に対して10人以上の採用人数を増やしている企業が3社見受けられます。その筆頭は、毎年20%超の成長を続けている印刷通販企業で、新しいビジネスモデルに切り替えて13年、今後は100万人ユーザー(現在65万人)を目指して、各部門のリーダー育成に力を入れているようです。他の2社は開発製品がメーカーに採用され、それがヒット商品となっている、ビジネスフォーム、パッケージ企業で、ともに企画開発に力を入れています。
昨年の採用実績より採用を減らした企業は11社ですが、大半が微減で、5人以上減らした企業は昨年度に例年以上の多くの新卒を採用した企業であることがわかります。

企画・提案力を重視、厳しくなる選考プロセス

内定までのプロセスでは、エントリーシートによる応募から始まりますが、その後は、企業により様々な採用試験が行われています。共通しているのが適性検査、面接などですが、5~6回もの試験、面接を準備している企業もあります。また、適性検査だけでなく、一般常識の筆記試験やプレゼンテーション、デザイン、企画制作系では、作品の提出や実技試験を実施する厳しいところもあるようです。グループディスカッションを取り入れているところも増えています。採用については、人事・総務部が中心に進められるのが普通ですが、営業部門が面接をするというユニークな企業もあります。
初任給については20万円前後の表示が多くみられましたが、いくつかの企業では、かなり高額な初任給も見受けられ、低い企業との差が5万円も開きがあります。職種別では、総合職・営業職が高く、技術職、制作・デザイン職の方が低いようです。その背景としては、総合職・営業職のほとんどが大卒採用で、現場職には高卒・専門学校卒が多いことがあるのかもしれません。厚生労働省調査の学歴別初任給の最新(平成25年大卒)情報では、平均19万8000円(対前年比0.8%減)と平成23年の平均20万2000円から連続で減少していますが、今年の状況はまだわかりません。18歳、22歳人口の減少等で人材確保が厳しい時代に入ったといわざるを得ません。若者から「選ばれる企業」であり続けるには初任給のみならず、魅力ある仕事、活力ある企業でなければなりません。

新年度まで5か月を切った現在、今年の採用ピークは過ぎたものの、まだまだ奔走している企業も多いことでしょう。内定者に向けては研修計画・準備を始めなくてはなりません。入社までのこの時期は、これから始まる仕事への「夢」を育む大切な期間ともいえます。今までより以上に、印刷に興味や魅力を感じてもらうための情報提供が大切です。内定者の中には就活を終えた「安堵」の一方で、「本当にこの仕事で良かったのか」「あの会社で良かったのか」と不安がよぎる時期でもあります。これから入社までのこまめな対応が大切なことは言うまでもありません。選び、選ばれた「互いの縁」を大事にしましょう。

(JAGAT CS部 杉山慶廣)

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