印刷技術とメディアの変遷(その四)

掲載日:2017年7月19日

DTPまでの歴史を述べてきたが、昔は新技術につれて新しいメディアが生まれてきた。現在、そして未来は必要(デマンド)によってメディアが生まれてくると言えるのだ。

DTPが台頭して、最初はスピードが遅いとか、機能が足りないと言っていたのだが、Mac(PC)のスピードが飛躍的に速くなり、その能力に比例して難しい組版やレタッチ機能も可能になったので、いつの間にか誰も文句を言う人がいなくなってしまった。

従ってDTP=安い電算写植、安いCEPSとしての役割はここに完結したと言えるのだが、業界自体も再編の波に揺られて、大きく変わってしまった。これが現在のような下向き成長の経済状況だったら、こんなにすんなりはいかなかったと思う。なんだかんだ言って日本経済、印刷業界の底力は大したものだと思ってしまう。・・・今日この頃である。

さて、では必要がメディアを産むとはどういう事なのだろうか?一言で言えばマーケティングを背景としたメディアであり、デジタルマーケティング、特にMA(マーケティングオートメーション)とリンクしたパーソナルDMなどが代表例なのだが、パーソナルといっても、昔は「大きなお世話」的なお仕着せ情報が多かったが、今は本当に興味のある情報を選別できるようになってきた。

もちろんデジタルマーケティングの技術やDBが進歩したというのが大きなポイントであるのだが、読者の方のデジタル親密度が大きく異なっており、普段の生活から24hrs.デジタルどっぷりなので、個人情報がバッチリ取られているし、あえて自らデジタルメディアに飛び込むので、情報の正確度が格段に上がっていくということになる。

例えばTSUTAYAのTカードで考えたって、若い人の情報は手に取るように分かるはずだ。この人は何曜日と何曜日は渋谷のこの辺りにいて、こんなものを食べて、こんな買い物をして、こんな本を読んでいるという具合だ。かつては丸井のカード、そしてTカードと変わってきたが、それに続こうと楽天はじめ皆さん必死だが、世の中GPSとリンクしたSNS等が生活の中心になっていくと、キラーコンテンツというか、キラーアプリがSNSになっていくのだろう。

私のような年配者になると、SNSはfacebookくらいしか使わないが、孫の写真や情報等でのけ者にされてしまうので、私にとってもLINEは必須だ。家族同士のコミュニケーションにはLINEが使われるので、孫の写真共有のためにもLINEチェックは大事なのだ。こういう人も少なくないと思うが、そのうちLINEはターゲットを高校生からおじいちゃんおばあちゃんにシフトするかもしれない(それくらい需要は多いと思う)。

Shufooに代表されるスマホチラシでも、膨大なパーソナル情報からパーソナルDMを作ることなど容易いわけで(簡単ではないと思いますぅ。言葉の綾)、チラシのデジタル化は紙をPDF化して、電子配信するところから始まったのだが、現在はスマホファーストで、そこからより深くグサッと顧客に刺さるためにパーソナルDMを作成して訴求するというのが、これからのメディアと言える。

昔の印刷技術というのは「高精細」「広色域」だったり、「高級感」だったりしたのだが、これからはマーケティング情報と如何に上手くリンクしているか?が、商業印刷物品質になっていくのだろう。ただ単にリンクしているだけではなく、益々デジタルマーケティングにリンクするような仕組みが重要になってくるかということである。

先日、凸版さんのイベントで養命酒の取り組みについて語られていたが、スマホで自撮りした写真を送ると漫画化して漫画の主人公としてメディアが出来たり、お酒のラベルがパーソナルで印刷出来るというものである(→「フルーツとハーブのお酒」キャンペーンサイト)。

養命酒は押しも押されもしないブランドだが、余りにイメージが出来上がっているために若者にアピールするために本当に苦心しているようである。セミナー時の様子も含めて大変魅力的なコンテンツであった(写真はセミナーの様子。講師は養命酒の鳥山氏)。

同様な例として名前入りコカコーラなどもあるし、いまやっている世界で一つのキシリトールガムキャンペーンがある(→ロッテのリリース)。HPのモザイクというアプリケーションでデザインや色使いを自動で変化させて世界で一つを実現するものだが、正直な質問として、「私にとっては例えば吉永小百合さんがデザインしたキシリトールガムなら欲しいが、サイケデリックなデザインのパッケージが世界で一つといわれても?」と質問してしまったら、若い人はSNSで発信し合い、インスタ映えのする写真を撮れるキャンペーンだと、話題が話題を呼んで、盛り上がるのです。と冷静に説明されてしまい、確かに年齢差を感じてしまった次第である。

デジタルマーケティングの一環として紙メディアを作るのだが、その後のPRにもデジタルメディアをフル活用して、情報を一人歩きさせて盛り上げるという、最新のマーケティング手法なのだ。

(JAGAT専務理事 郡司秀明)