印刷発明物語 まえがき

掲載日:2014年8月11日

※本記事の内容は掲載当時のものです。

印刷発明物語(発行:社団法人日本印刷技術協会,1981年)は社団法人日本印刷技術協会刊行の「プリンターズサークル」(月刊)の、1977年7月号から81年2月号まで、26回にわたって連載されたものを、一冊にまとめたものである。

この連載の間およびその後に、多くの知見を得たので、原文に加除訂正の斧鉞を加え、大はばに書きかえを行った部分や、削除した章もあって、原文とはかなり異なったものとなっている。誤りはできるだけ訂正して正確を期したつもりであるが、私の不勉強からまだ多くの過誤が含まれているかもしれない。

 この本は体系を組んだ歴史書ではない。思いつくままに、一つ一つの主題について、その発明のいきさつを述べたものであるから、時系列からみての前後撞着があり、一貫した印刷技術の史的変遷を展望するのには役立たない。そのことははじめから承知のうえで、とりかかった仕事である。

しかし、一般に技能者や技術者が軽視しがちな、歴史にかれらをなじませ、その理解がけっして徒事ではないことを悟らせたいという願望から、私としてはできるだけ興味をそえる努力をはらったつもりである。

また、これまでわが国で刊行されている印刷技術史書に見出される不当な記述や、誤解されている事実についての訂正にも留意した。

読者対象を印刷関係者として書いたので、いきおい技術の枝葉末節に入りこんで、煩瑣な事項を収録しすぎたことが気になる。もっと思いきって剪定作業を行うべきであったと思う。もし印刷に無関係な奇特な方が、この本をお読み下さるばあいは、無水平版、カラースキャナ、フォトレジスト、PS平版プレートの各章はとばして頂くとよい。

世の慣習にしたがって、文中人名に敬称を省略した点おわび申しあげる。

 ハウツーもののように、読んですぐさま何かの役にたつ種類の本と違って、この本はいわば閑時の書、無用の用といった性質の本である。したがって大きい需要があるとは思えない。にもかかわらず、あえて一書にまとめて出版を企画された協会と、煩瑣な仕事に携わられた同協会編集部の厚意に対して、心から謝意をあらわしたい。

著者 馬渡 力

1981年7月21日

(2002/09/04)(印刷情報サイトPrint-betterより転載)