もうだいぶ前になるが、ある印刷会社の創業社長と打ち合わせで別の印刷会社に同行したときのことである。
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コミック同人誌と広色域印刷
広色域印刷とは、一般的なCMYK4色のプロセス印刷を越えた色域を再現することである。昨今、デジタル印刷機を用いた広色域印刷が「RGB印刷」と呼ばれており、利用が広がっている。
多色プロセス印刷による広色域再現
オフセット印刷では、早くから多色プロセス印刷による高彩度・広色域印刷の取り組みが行われてきた。
例えば、「ヘキサクローム」は、1995年に米国Pantone社が特許取得した6色プロセス印刷方式である。高彩度のシアン・マゼンタ、蛍光顔料を含むイエロー・オレンジ・グリーンインキなど6色を使用する。各国のインキメーカーが、Pantone社のライセンスを受けてこれらのインキを提供している。また、Pantone社は、専用の6色分解ソフトウェアを提供している。ヘキサクロームは、Adobe RGB相当の色域をカバーし、Pantoneの特色の約90%を再現可能としている。
また、ハイデルベルグ社でも、CMYK+RGBの7色プロセス方式による広色域印刷、「Hi-Fiカラー」や「Super Fineカラー」を提供している。通常の4色プロセス印刷は、CMYKの掛け合わせでRGBを表現するため、濁り成分が発生する。RGBインキに置き換えることで、濁りの少ない高彩度・広色域を実現するという。
このような多色プロセス印刷が可能になった背景には、CTPによって版の品質や見当精度が向上したこと、FMスクリーニングによってモアレの少ない多版印刷が可能となったことが挙げられる。
しかし、版数が増え、専用インキを使用するため、通常の4色プロセス印刷より割高となる。多色分解であるため、校正や印刷も調整が必要となる。このような制約があるため、大部数を前提とするパッケージ分野以外では普及していない。
広色域インキによる4色印刷
その後、広色域のCMYKプロセスインキも提供されるようになった。代表的なものが、東洋インキのKaleido(カレイド)である。4色だけでオフセット広色域印刷を実現し、Adobe RGBの大半をカバーすることが可能である。
ICCプロファイルが提供されており、モニターやプリンターのRGB表現をオフセット印刷で再現することが容易となっている。UV対応などインキの種類も増えており、対応する印刷会社が増えつつある。
6色、または7色プロセス印刷と比較すると、手間や調整、コスト面でもメリットが多い。ただし、オフセット印刷であるため、大部数でなければ採算が取れないという課題は残されている。
デジタル広色域印刷とRGB印刷
現在、コミックやCG・イラストの多くはパソコン上でデジタルデータとして制作されている。そのため、モニター上で表現される鮮やかな色彩を印刷物で再現できないかという要請は、年々増えている。
近年では、広色域印刷に対応したインクジェット印刷機や多色プロセス印刷が可能なトナー方式デジタル印刷機などが提供されている。これらの機器では、広色域のRGBデータをJapan Color 2011 Coated(オフセット枚葉印刷・コート紙における標準)の色域に圧縮することなく、再現することができる。デジタル印刷であるため、小ロットでもリーズナブルな価格設定であり、実用性が高い。校正・本機の区別もない。
ネット通販型の印刷会社では、これらの機器を利用して広色域を再現する方式をRGB印刷、ビビッドカラー印刷という名称でアピールし、コミック同人誌やCG・イラストなどの分野で利用が増えている。これらはRGB入稿を前提とし、RGBの色域の多くを再現できることから、「RGB印刷」と呼ばれるようになった。
コミック同人誌の市場と動向
コミックマーケット(通称コミケ)は、同人サークルが自作のコミック作品を持ち寄る同人誌即売会であり、1975年に始まった。2010年代には1回に50万人以上が集まる規模となった日本のオタク文化を代表するイベントである。近年は、海外からの来場者も増えている。
矢野経済研究所が2023年に実施した「『オタク』市場に関する調査」によると、同人誌の市場規模は、消費金額ベースで1,000億円規模(2023年)と予測しており、年々拡大している。
このような同人誌の印刷を受託しているのは、主にネット通販型の印刷会社である。オフセット印刷、またはデジタル印刷で製作し、イベント会場に納品することが多い。ただし、同人誌のほとんどは、数100部以下の少部数である。
昨今は、RGBの印刷データを入稿し、デジタル印刷機で広色域・ビビッドカラーで印刷するRGB印刷サービスが拡大している。
(JAGAT研究・教育部 千葉 弘幸)
印刷技術と素材が生きるギフト商材
9月4日〜6日に開催された「第98回東京インターナショナル・ギフト・ショー秋2024」から、印刷と紙素材を生かしたデザイン製品の出展を紹介する。
設備投資から人材投資へ、非印刷事業の拡大を目指す
2023年度の「JAGAT印刷産業経営動向調査」によると非印刷事業の拡大志向が明確にみられた。
続きを読むWebページでのPDF参照が好ましくない理由
PostScriptとPDFの違い
PC上で文字や画像をレイアウトするDTPが発展したのは、ページ記述言語(プリンター制御言語)であるPostScript技術という基盤があったからこそである。
単一のレイアウトデータからモノクロやカラーのプリンター、またはフィルムセッターへの分版と用途や解像度に応じて出力できること(デバイス・インディペンデントと呼ばれている)は、文字通り画期的であり、その後の印刷技術の革新に繋がったといえる。
PDFは、PostScriptからプログラミング要素を取り除き、ジョブ単位ではなくページ単位で扱えるように変更したものである。電子ドキュメントフォーマットとして誕生した。
フォント埋込みが可能であり、レイアウトを完全な形で維持できるという特徴がある。汎用的な電子ドキュメントのフォーマットとして、Webでの情報発信・交換が日常的となった現在でも、広く利用されている。
印刷データ交換におけるPostScriptは、その後、PDFに置き換えられた。出力デバイスの方式・解像度に依存しないという利点はそのままで、ページの入れ替えやフォント埋め込みが容易という機能が追加された。そして、ワークフローRIPと呼ばれるPDF-RIPが普及したことで、さまざまな印刷トラブルが激減し、信頼性が向上したといえる。
つまり、現在のPDFは電子ドキュメントとして世間一般に広く利用されている一方で、印刷業界では、印刷データ交換技術として重要な役割を果たしている。
詳細情報がリンク先のPDF
少し前、ある印刷系のイベントで、数多くのセミナー開催が予定されていることを聞いた。その内容を確認しようとWebサイトを見てみた。
しかし、Webページにはセミナーの日時・場所・タイトル・講演者・内容・申込方法などの掲載がなかった。リンク先のPDFを参照せよということであり、そのURLが記載されていた。
そこには、パンフレットとして配布したと推察される冊子のPDFがリンクされており、これを表示すると、何ページ目かにこれらの情報が掲載されていた。
近年は、このようにWeb掲載(つまりHTMLベースでの情報発信)を省略して、PDFだけで済ましてしまう例は少なくなった。しかし、残念ながら、官庁自治体のドキュメントや1部の広報物では、このような例が残っている。
Web上のPDF参照が好ましくない理由
第1に、検索エンジンがPDFの中身を適切に評価せず、検索できないことが挙げられる。
現在、多くの情報がWebサイト上で見つけられ、閲覧されている。そのために、ほとんどの人はWebブラウザー上のGoogleやBingなどの検索機能を利用している。
これらは、ロボット型検索エンジンとも呼ばれている。簡単にいうと、世界中のWeb上のページ情報をWebクローラーというロボットが自動で収集し、あらかじめデータベース化しておく。ユーザーが入力した検索キーワードをもとにデータベースに登録されたページをランク付けし、上位ページを表示する仕組みである。その結果、われわれは必要な情報に瞬時にアクセスできるようになっている。
検索エンジンがランク付けする際、Webページの内容に応じて重要度が反映される。例えば、HTMLの見出し項目になっているかどうか、他のサイトからの被リンクが多いかなどである。
リンクされたPDFの中身については重視されず、検索結果の上位に残らないことが多い。
第2に、PDFはモバイルフレンドリーではないことである。現在、Webを閲覧するデバイスの比率として、スマートフォンは80%に達するといわれている。企業向け・ビジネス向けの内容であれば、PCの比率がやや多くなる。とはいえ、スマートフォンなどのモバイルデバイスが主流であることは確かである。
さて、スマートフォンでPDFを表示するとどうなるか、いうまでもない。ページサイズがA4程度のPDFをスマートフォン上で全体表示しても、ほとんどの文字は読めない。一部分だけを選択し、拡大表示すると、その部分の文字は読めるが、全体はわからない。多くの人は、途中で読むことを断念してしまうだろう。
Webの世界では、レスポンシブWebデザインが定着している。つまり、PC画面とスマートフォンのように、デバイスごとに表示を最適化する技術のことである。デバイスや環境によって表示が左右されないPDFとは、相反する考え方だといえる。
第3に最新情報が反映されにくいことが挙げられる。WebでリンクされたPDFの多くは、チラシやパンフレットとして制作される印刷物を元にしている。印刷物は、一般に企画・制作から校正まで何重にもチェックを行ない、丁寧に作られているため、信頼性が高いとされている。
しかし、印刷物であれば、制作時以降の修正・変更を反映する機会はほとんどない。結果として、リンクされたPDFに最新情報が反映されることは期待できない。
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電子ドキュメントとしてのPDF、および印刷データ交換のためのPDFは重要な技術であり、大きな役割を果たしている。
しかし、Webページに印刷用PDFを貼り付けても利用されにくいこと、存在を認めてもらえない可能性があることは、改めて周知されるべきだろう。
(手元のプリンターで印刷するために印刷用PDFをリンクすることは有用である)
(JAGAT 研究・教育部 千葉 弘幸)
最先端の科学技術を身近に感じる展覧会
工場の業務項目の「見える化」~MES標準業務機能リスト
生産管理という言葉は印刷業界でも日常的に使われることが多いが、その言葉でカバーされる具体的な業務は何なのかは非常にあいまいである。業務範囲は会社によってさまざまであるし、明文化されていないケースも多い。
続きを読む拡がりつつあるEdTechサービス
「GIGAスクール構想」により小中学校に学習端末が整備され、ITを活用した教育基盤・環境であるEdTech サービスの利用が広がっている。
「GIGAスクール構想」とEdTechサービス
近年、教育分野ではデジタルトラスフォーメーション(DX)が進展している。
文部科学省の「GIGAスクール構想」は、全国の小・中学生に1人1台のタブレットやノートPCを配布し、ICTを活用した教育を実践する事業である。2019年から始められ、2022年度末時点では全自治体の99.9%においてこれらの学習端末が配備された。
EdTechとは、EducationとTechnologyを組み合わせた造語であり、ITを用いて教育を支援する仕組みやサービスの総称である。児童・生徒向けの学習支援システム、教師のための授業支援システム、英会話やプログラミングなどをインターネット上で学習するサービスや学校の内外で利用するSNSなども含まれる。経済産業省や総務省も、これらのサービス導入を促進する助成金制度を設立し、支援している。
野村総合研究所は、タブレットなどのハードウェアを含まない国内のEdTech市場を2021年度は2674億円と推計しており、2027年度には 36%増の3625億円に伸長すると予測している。
EdTechとして提供されている技術・サービスは、学校向け、塾向け、個人向けに大別される。さらに社会人向けのリカレント教育やリスキリング教育も、EdTechによってより活発化することが考えられる。
このようなインターネットを通じた技術やサービスによって、さまざまな分野の良質な教育コンテンツが有効活用され、機会均等や教育格差の解消が進む可能性もある。
EdTechサービスの広がり
学習ポータル・プラットフォームとしては、「まなびポケット」(NTTコミュニケーションズ)、「Classi」(クラッシー)、「L-Gate」(内田洋行)などがあり、学習コンテンツにアクセスするためのポータル機能のほか、教材管理、利用者管理や校内SNS などの機能がある。
また、大量の答案紙をスキャンして一括採点する採点支援ツールとして、「EdLog(エドログ)」や「リアテンダント」(大日本印刷)、「YouMark」(佑人社)などがある。教師が自作したテストでもPDF化して採点し、その結果を集計・分析することができる。
授業支援ツールには、デジタル教材と連携してプリント作成や授業プレゼンテーションをサポートする「Studyaid D.B.」(数研出版)がある。
「T-GAUSS」(東京書籍)は、教科書・問題集・参考書の問題、高校・大学入試問題が収録されたデータベースを利用し、プリントやテストを作成するデジタル教材ツールである。
「スタディサプリ」(リクルート)は、講義動画を中心とするサイトで、サブスクリプション方式のオンライン学習サービスである。小中高校生向け、大学受験講座、社会人向けの英語・英会話コースなどもある。また、「スタディサプリfor TEACHERS」は教師向けの学習管理サービスで、宿題配信機能や生徒の学習進捗を管理する機能などを備えている。
スタディプラスが運営する「Studyplus」は学習記録に特化したプラットフォームである。無料で登録・利用でき、どの教材を何時間・何ページ、また何を学習したかを記録することで、学習履歴を可視化し、他のユーザーと比較することができる。また、月額税込980 円で200点以上の電子版学習参考書が使える「Studyplusブック」も運営している。
ポプラ社の本と学びのプラットフォーム「MottoSokka!(もっとそっか)」は、児童書や一般文芸書など、34社約3700件(2023年9月現在)の電子書籍が読み放題のサービス「Yomokka!(よもっか)」と、同社の百科事典をベースとした調べ学習サービス「Sagasokka!(さがそっか)」で構成されている。
学校教育に加え、塾や予備校、通信教育、学習参考書など、あらゆる方面の教育・学習環境が、EdTechサービスによってボーダーレスになりつつあるといえるだろう。
(JAGAT 研究・教育部 千葉 弘幸)
印刷技術を拡張し、新たな表現を追求する
印刷博物館 P&Pギャラリーで開催された「GRAPHIC TRIAL 2024 –あそび–」を通じて、印刷表現の魅力と可能性を探る。
生成AIの導入率は20%強、導入意欲も高い
「JAGAT印刷産業経営動向調査」より新技術、サービスの導入状況、満足度、導入意向を紹介する。
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