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グラフィックデザインの最先端を知る展覧会

日本グラフィックデザイン協会(JAGDA)の年鑑掲載作品の中から「第27回亀倉雄策賞」および「JAGDA新人賞 2025」の各受賞者の作品を紹介する。

JAGDA発行の『Graphic Design in Japan 2025』掲載作品の中から、最高賞である「第27回亀倉雄策賞」および若手デザイナーを対象とした「JAGDA新人賞 2025」の各受賞者の作品を紹介する展覧会「2025 JAGDA 亀倉雄策賞・新人賞展」がギンザ・グラフィック・ギャラリーで8月27日まで開催された。本稿では、各受賞者による展示作品の概要を紹介する。

JAGDAはグラフィックデザインの振興と文化や産業の発展を目的とした公益社団法人で、出版・展覧会・セミナーなどを通じた情報発信、学生向けの公募展などを通じた人材育成、デザイナーの活動支援や権利保護などに取り組んでいる。現在の会員数は、個人で入会する正会員および企業・団体として入会する賛助会員合わせて約3000人である。
1981(昭和56)年より発行を続けている年鑑『Graphic Design in Japan』は、正会員を対象として過去1年間に手掛けた仕事・作品を募集し、正会員の互選で選ばれた選考委員によって選出された入選作品を収録したものである。最新の2025年版では出品作品約1800点から、29名の選考委員によって約560点の入選作品が選出された。

本展はその中から「第27回亀倉雄策賞」「JAGDA新人賞 2025」に選ばれたデザイナーの作品を紹介するものである。

亀倉雄策賞はJAGDA初代会長を務めた故・亀倉雄策氏の名前を冠した賞で、応募作品の中から、年齢やキャリアを問わず、最も輝いている作品とその制作者に贈られる。今回は林規章氏による教育機関の学生募集ポスター「女子美術大学大学院/3年次編入/短大専攻科 学生募集」が選出された。

JAGDA新人賞は年鑑出品者の中から39歳以下の有望なグラフィックデザイナーに贈られる賞で、今回は対象者127名の中から城﨑哲郎、サリーン・チェン、松田洋和の3氏が選出された。

以下では、受賞者および展示作品の一部を紹介する。

第27回亀倉雄策賞

(受賞者:林規章

▲亀倉雄策賞を受賞した林規章氏の作品の展示

林氏は音楽番組・美術展の告知物やブックデザインなどのクライアントワークを手掛けながら、女子美術大学・大学院教授として後進の育成に当たっている。また、同校の学生募集に関わる告知物や女子美アートミュージアムの展覧会カタログなどの制作にも携わってきた。受賞作は、20年にわたり制作してきた学生募集ポスターの2025年度版である。そのデザインは、造形研究に向き合う学生の姿をJOSHIBIの「J」の形を複数組み合わせて表現したもので、審査会では「一貫して独自の幾何学的なスタイルを続けながら、その中で表現を研ぎ澄ませてきた」「女子美術大学のイメージと自身の造形とを、見事に結びつけた」などの点が評価された。

▲第27回亀倉雄策賞受賞作「女子美術大学大学院/3年次編入/短大専攻科 学生募集」ポスター(林規章)

会場では受賞作のポスター2点を壁面に展示。また新作として、受賞作品のデザインに用いられたパーツを再構成したポスター作品と、女子美術大学の工房で、教え子でもある助教や助手の先生方と共に制作したシルクスクリーン印刷による作品を展示。その他、学生募集ポスターの構想を練るために長年書きためてきたスケッチの一部を紹介するコーナーもあった。スケッチは小型の方眼紙に、直線と曲線を組み合わせたさまざまな形態で描かれたものだ。

▲受賞作を再構成した新作のポスターの一部(林規章)
▲シルクスクリーン印刷による新作の一部(林規章)
▲学生募集のポスターのスケッチ(林規章)

JAGDA新人賞 2025

(受賞者:城﨑哲郎サリーン・チェン松田洋和
会場は3名それぞれの展示コーナーに分けられ、年鑑収録作品および近作が展示された。

▲写真2 城﨑哲郎氏、サリーン・チェン氏、松田洋和氏の作品の展示

城﨑氏は広告・パッケージ・ウェブ・ブランディングなど幅広い分野のデザインに携わり、東京を拠点としつつ出身の九州をはじめ各地方にも活動の場を広げている。多くの作品でイラストレーションを自ら手掛けており、繊細で緻密な表現が特徴である。会場では日本料理店「やまめ山荘」のポスター・カタログ・各種グッズ、ジュエリーブランド「JEWELRY & HOLIC」のために、3Dペンを用いて制作した立体ドローイングなどを展示した。

▲日本料理店「やまめ山荘」のグッズ 左:オリジナルコーヒーの箱、右上:包装紙、右下:コースター(城﨑哲郎)
▲ジュエリーブランド「JEWELRY & HOLIC」のための3Dペンによる立体ドローイング(城﨑哲郎)

チェン氏はデザイン事務所「キギと創造」に所属し、同社が運営するギャラリー&オリジナルショップ「OUR FAVOURITE SHOP(以下、OFS)」のイベント告知物のデザインなどに携わりながら、個人としてZINの制作なども行っている。手書き文字やイラストを生かした柔らかで心地よいイメージの表現が特徴である。会場では、OFSの企画展「Crystalline」や展示販売会「UNIQUE PRODUCTS」のポスター・DM・グッズなどを展示した。

▲OFSの企画展「Crystalline」のポスター(サリーン・チェン)
▲OFSの展示販売会「UNIQUE PRODUCTS」のお買い物バッグ(左)とアクリルキーホルダー(右)(サリーン・チェン)

松田氏は書籍、音楽メディア、テレビ番組のビジュアルなどのデザインを中心に活動しており、タイポグラフィーを生かした表現が特徴である。また、イラストレーターの田渕正敏氏と共にアート・デザイン・印刷・造本の活動「へきち」を展開している。会場では、過去に携わったブックデザインを記録した書籍『松田洋和のブックデザイン』、CD・LPレコードのジャケットなどを展示。そして、会場の一角にモニターを設置し、自らの製本作業を記録した動画と、これまで制作してきたモーションロゴの一部を上映した。

▲『松田洋和のブックデザイン』(松田洋和)
▲映像作品より 上:展示施設 「調布スペース」のモーションロゴ 下:製本作業の動画(松田洋和)

グラフィックデザイン界を牽引する林氏と今後の活躍が期待される城﨑・チェン・松田の3氏。世代は違えども、さまざまな技法を用いて新しい表現を探究し続ける姿勢は共通しているといえる。

なお、両賞を含む入選作品全てを収録した『Graphic Design in Japan 2025』が発売されており、全国の書店やネットストアで購入することができる。

(JAGAT 石島 暁子)

2025 JAGDA 亀倉雄策賞・新人賞展

会期:7月15日(火)~08月27日(水)
ギンザ・グラフィック・ギャラリー ウェブサイト 

会員誌『JAGAT info』 2025年8月号より抜粋改稿

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日本の季節と色と形(4)

会員誌『JAGAT info』の表紙のデザインは、印刷文化を語る上で欠かせない、色と形をテーマにしており、現在は「日本の形シリーズ」として、本誌の発行時期の歳時や風物をモチーフを主体にして、季節感と日本情緒が感じられるようなものとしている。

参考:『JAGAT info』バックナンバー 

では最近のバックナンバーから、表紙に描かれたモチーフについて解説し、制作手法を紹介しよう。

2025年2月号 「タンチョウ」

タンチョウはツルの仲間の中でも大型の種である。一時は絶滅したと考えられていたが、大正時代に再発見された。現在は環境省第4次レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類(VU)(絶滅の危険が増大している種)に登録されており 、また国の特別天然記念物に指定されている。現在は釧路湿原などに生息しており、国の特別天然記念物に指定されている。
タンチョウを漢字で書くと「丹頂」。これは頭頂部(頂)に羽毛がなく皮膚が露出しているため、血管が透けて赤色(丹)に見えることによる。
冬場に繁殖期を迎えると、雄と雌が互いに頭を掲げて翼を広げたり飛び跳ねたりと、ダンスをしているような姿が見られるが、これは求愛、あるいはつがいの絆を深める行動だと考えられている。
つがいができると春に湿原の中に巣を作り産卵する。

制作に当たっては、タンチョウの絵を色鉛筆で描いてスキャンし、Phtoshopでバックのテクスチャーと合成、文様はPhtoshopで描いた。
バックの大きな輪は雪輪文様で、その中に季節の植物である南天、椿、梅の絵をあしらった。

2025年3月号「桜餅」

お彼岸にちなんで、関東風の桜餅と、道明寺と呼ばれる関西風の桜餅を並べて描き、桜の枝と緑茶を添えた。

関東風は小麦粉の生地をクレープのように薄く焼いてあんを巻いたもの。江戸時代に向島(現・墨田区向島)の長命寺の門前で売り出されたのが始まりだという。
一方、関西風はもち米を原料とする道明寺粉を蒸してあんを包んだものである。
いずれも桜の葉の塩漬けを巻いているので、春らしい香りを楽しむことができる。この独特の香りは塩漬けしている間に生成される「クマリン」という成分によるものである。
なお、塩漬けに使われる品種はオオシマザクラである。

制作に当たっては、色鉛筆で描いてスキャンし、photoshopで色調などを調整した。

2025年4月号 「ツバメ」

JAGAT info 2025年4月号表紙

春になるとよく見かけるツバメをテーマにした。
ツバメは春に東南アジアなどの南方から日本に渡り、子育て後、夏にまた南方に帰る。日本では複数の種が見られるが、身近でよく見るツバメは、喉と額が赤茶、背が黒で、民家や駅などの建物の屋根の下に巣を作ることが特徴である。人のいる場所に巣を作るのは、外敵から身を守るためであると考えられている。
浮世絵や着物の柄などでは、しばしば初夏の情景として柳と組み合わせて描かれてきた。

制作に当たっては、さまざまなポーズを組み合わせて色鉛筆で手描きした後、スキャンし、ptohoshopで色調を調整した。


表紙絵を担当していると、日本文化の歴史や他国との関係などを知ることができ、対象となるものを観察することで思わぬ発見もある。今後もさまざまな題材を通じて、日本の風物の魅力を伝えていきたい。多忙な日々を送る読者の方々が、本を手に取る一瞬にホッと一息ついていただければ幸いである。

(『JAGAT info』制作担当 石島 暁子)

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