製品開発は確かな方向性を常に意識した視点で

掲載日:2014年8月21日

※本記事の内容は掲載当時のものです。
 
事業紹介インタビュー:製品開発は確かな方向性を常に意識した視点で

 

三菱重工業株式会社 紙・印刷機械事業部 副事業部長 吉川俊郎氏に聞く

 

三菱重工業は、色合わせを短時間に完全自動化できる「MAX DIAMOND EYE」を搭載した商業輪転機を「IGAS2007」で発表し、ブランド名を「DIAMOND」に変えた新型枚葉機を市場に投入した。活発な事業を展開している紙・印刷機械事業部の副事業部長の吉川俊郎氏に、印刷業界の市場動向と同社の戦略を伺った。

――印刷市場をどのように捉えているか。

吉川 大手新聞社は紙面のカラー化に力を入れていて、地方紙でも設備投資が進む。地方紙ではページ数は少ないがオールページカラーもある。今後は、地方での新聞印刷の競争は一段と激しくなるだろう。
印刷物そのものの絶対量は、統計的に見てもあまり減っていない。しかし日本国内でも徐々に電子印刷、オンデマンド印刷が増えてきた。一方、グラビア印刷など有機溶剤を使う印刷が減っている。オフセット印刷は、ほぼ横ばいで推移していくのではないか。 フリーペーパーの需要が増え始めた2003年ごろから商業輪転機の出荷台数が増え、国内で年間70台前後だったものが、100台超で推移した。A系列が増えB系列も後から少し増えたが、今年は以前のレベルに戻った。また、新聞輪転機でも、資材や紙の白色度、平滑度を選べばかなりのレベルのカラー印刷ができるため、一部の新聞印刷工場ではフリーペーパーを新聞輪転機で印刷している。

――アジアなど海外の動きはどうか。

吉川 急成長しているBRICsの中でも、中国の印刷物の伸びは大きく、枚葉機の数が急増している。欧州通貨が高いため、ドイツより日本メーカーが有利で、距離的にも近いことから好機だと思う。
中国は紙の生産量と消費量が非常に増えたが、新聞の発行部数は意外に伸びていない。従って、新聞輪転機もそれほど急激には納入されていない。また輪転機の設備計画の動きが遅いので、当面は枚葉機ではないか。インドは、まだ圧倒的に枚葉機だが、輪転機も増えていく時期が近々来て、今の中国より伸びるのではないか。

最近、日本では商業輪転機の小ロット化に対抗する差別化の狙いもあって、枚葉機では両面印刷、厚紙や特殊原反(プラスチックのフィルム)への印刷、さらにニスや箔押しなどの高付加価値印刷をワンパスで行う機械が増えている。従来の枚葉機のような標準仕様で販売しているのは中国くらいで、インドもコーター付きの機械が多い。アメリカ、ヨーロッパでは、いろいろな自動化装置の付いたものが標準的になっている。
昨年、北京に合弁会社を作り、菊半裁枚葉機の現地生産を始めているが、仕様は標準仕様の中国向けの機械だ。昨年は12月までに3台出荷し、今年は年末までに45台出荷する予定である。来年はもう少し増やす計画にしており、自動化や高機能化のオプションも付けていく予定だ。

――国内向けの取り組みは。

吉川 「IGAS2007」に出展した商業輪転機で、デモのプレゼンテーションを担当した女性が、自分でアナウンスしながら「私が運転します」とやったくらい、簡単に操作ができることを披露した。それができるのは、「MAX DIAMOND EYE」という全自動色調管理装置で、製版の画像データを基準に濃度を合わせてしまう。新聞輪転機用に開発した装置で、既に各新聞社に相当数納めているが、それを商業輪転機用にバージョンアップした。製版の画像データを基準に、その画像データの画線率に基づいて各インキキーがインキ量を自動的に調整するので、刷り出しの起動ボタンを押すだけで正紙が出てくる。カラーパッチが不要のオンライン全自動色調制御は、世界初の画期的な装置だ。

――枚葉機に掲げた究極の目標値に対して、今、どのくらいのところまで来ているのか。

吉川 「IGAS2007」で披露した枚葉機「DIAMOND300」の開発では、印刷スピードをどうするかを一番議論した。枚葉印刷は小ロット化がさらに進み、生産性向上にスピードが寄与する効果は少ないと判断、スピードより機械が止まる時間を短くすることで、生産性を向上しようという発想で開発した。

1号機を導入した印刷会社では、従来1時間に2ジョブだったものが、DIAMOND300では3ジョブ入れられる。全色同時全自動版交換装置を搭載しているので、ユニット数が4色でも8色でも12色でも、最短75秒で全色版交換できる。
印刷機開発で一番基本的なところは、絶対に印刷品質を落とさないことだ。印刷物の網点のツキや再現性、見当精度、ダブリが出ない、そういう基本的な性能は、従来機より上げても下げないことが基本だ。コストを絞りたいからといって、そのへんの手を抜くことは絶対にやらない。

――これから実現していきたいことは。

吉川 商業印刷の場合は特に顧客が儲かる機械でないといけない。用紙代が印刷コストの中でかなりの部分を占めるので、紙を無駄にしないことが重要だ。それには、例えば輪転機では刷り出し時間が早いことが大切で、MAX DIAMOND EYEのように、全自動かつ短時間で色が合うことや断裁寸法も合うことが、当面の目標になる。その結果、オペレーターの数を減らせるので、商業輪転機で2~2.5人必要なところをワンマンでオペレーションできるものを開発していて、ほとんど完成している。

一番の関心事は環境保護だ。三菱重工には、さまざまな環境対策の技術やノウハウが蓄積されているので、これらの技術を応用することで、印刷産業の環境保護の動きに適した、優れた機械を開発して提供していきたい。

――新聞印刷はビジネスモデルが変わっていくだろうか。

吉川 日本でも、これからの新聞はセクション分けして、その人が必要とするセクションだけを配っていくパターンや、細かい区分の地域版などが出てくるのではないか。現状では、チラシの配布を含めた宅配制度が日本の新聞業界を支えているが、新聞輪転機で印刷していると思われるタブロイド版のフリーペーパーもあることから、この宅配システムをさらに有効活用する方法が開発されるのではないかと思う。

後は、やはり紙である。通常の新聞用紙では線数を上げてもにじんでしまうので、最近の新聞には白色度の高い、厚い紙で見開きカラー広告が入っている。これなら新聞輪転機でもカラー品質はそこそこであり、新聞社はそれによる広告量の確保を考えていると思われる。

――強調していただくところがあれば。

吉川 印刷機の将来の姿を考える中で、MAX DIAMOND EYEのように、メーカーが勝手に考えて開発してヒットする商品も時々ある。 しかし、そういうのはまれで、やはりお客さんである印刷会社、新聞社、あるいは周辺装置の業界の人といろいろな話をしながら、ヒントや方向性を見いだしていくことが大半である。そういう意味では、顧客と良い関係を保ちつつ、実際に設計や開発を担当する者の視点だけではなく、われわれもそうした機会を持ちながら、確かな方向性を常に意識していくことが、絶対に必要であると思っている。

三菱重工業株式会社 紙・印刷機械事業部
〒729-0393 広島県三原市糸崎南1-1-1
TEL 0848-67-2054 / FAX 0848-63-4463

 

 

(2007年12月)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)