ページ物印刷物企画 [企画] 3. 発行元と「本づくり」

掲載日:2014年9月18日

※本記事の内容は掲載当時のものです。

アナログ博物館:ページ物印刷物企画 [企画]

 

3. 発行元と「本づくり」

企画内容でどのような内容を盛り込むのかというコンセプトが決まると,次はその中身にふさわしい容姿である「造本」設計の企画に取りかかります。
 造本について,岩波書店で造本担当を長く勤められた経験のある造本家藤森善貢氏は,「一口でいうならば〝本づくり〟のこと」であると述べています。少し狭義にとらえると広辞苑には,「印刷・製版・製本および用紙・材料などの製作技術面に関する設計・作業」とでています。

3.1 発行元
ページ物)を発行するところは,次のように分けることができます。
 (1)出版社・新聞社・企画宣伝会社(マスコミ)
 (2)一般企業
 (3)官公庁・各種団体(社団法人,財団法人,政治・宗教団体)
 (4)大学・研究所,その他教育機関
 (5)その他(個人・ミニコミ・自治会・市民グループなど)

 一般的にプロ集団といわれるのは,(1)の出版社・新聞社・企画宣伝会社のいわゆるマスコミグループです。大手企業ではかなり分業化が進み,外部の製作スタッフの力が大きいですが,本づくりの専門のスタッフが居ます。

 (2)~(5)のグループの一部には,専門の出版社や出版部門,スタッフを設置しているところもあります。しかし多くは,非専門家集団と考えてよいでしょう。そのようなところでは,編集制作を専門に請け負うプロダクションが代行することが多くあります。編集プロダクションは,出版社・新聞社の仕事はもちろん一般企業・各種団体など幅広く活動しており,編集制作の現場では大きな役割をはたしています。
 出版物の種類・バラエティーは,出版社・新聞社グループよりも,むしろ(2)~(5)の非専門家グループの方がより多彩で,かつ質的レベルも多様であるといえます。

 高度な専門知識は各々の専門化(デザイナ・エディター・校正者・アートディレクターなど)にまかせればよいのですが,ベースになる印刷技術の知識をもっていなければ,全体の制作進行がうまくいきません。その役割は,窓口となる印刷営業マンの専門知識に負うところが多いのです。の制作スタッフとして印刷営業マンがかかわるこもありますが,印刷会社のどこでもが,すべての印刷が得意だということはほとんどありません。総合的名判断が必要な場合はプリンティングディレクターという立場簿人が全体の指揮をすることがあります。

3.1.1 出版社・新聞社・企画宣伝会社の場合
(1)単行本
 中堅の出版社でも,単行本と雑誌では社内体制が違うのが普通です。単行本は企画から執筆・造本・編集制作・発売までに時間がかかり,造本途中の変更がある場合が多いものです。編集作業にはその本を担当する専任の人があたり,文字校正やレイアウトなどはそれぞれの専門の人が,編集者の指示にしたがって仕事を進めていく分業体制になっています。

 見積りを把握するには,造本上の細かい項目の単価を基準を知っておくことです。企画内容によっていろいろ造本体裁が変っても事前に概算できますし,造本完了後の金額も印刷会社の双方ですぐ納得できる額を算出できます。しかし,辞典・データブックなど特殊な処理が必要な本の場合は,見積りの仕方は等価基準にはなりません。

(2)雑誌
レイアウト上,雑誌は単行本よりも複雑な造本内容になります。しかし一方で,雑誌は定期発行されるものが多く,造本内容がある程度パターン化されていることが多いですから,見積りがしやすいという面もあります。

 雑誌は,執筆者,編集者,レイアウター,校正マン,造本・進行担当,用紙などの資材担当,広告・販売担当など,多くの担当者によって作られていますが,出版社によってその組織体制はまちまちです。編集局・制作局・広告局・販売局・校閲局というように分業化されているところもあれば,ひとつの部門でいくつもの仕事を担当しているところもあります。最近では雑誌別に,編集・制作・広告・販売とタテ割のトータルマネジメント方式を採用するところが増えているようです。

 造本料金の見積りを担当する窓口には,一般に制作部門の造本・進行担当の人があたり,編集長と社長が加わり決定することになります。
 印刷会社に対して品質を求めるのは当然ですが,見積もり金額のほかに,制作進行のスムーズさ,納期の安定も重要な要素となります。出版社にとっては見積り金額以上に,印刷会社のシステムと実績が大きな決定要因となるのです。ですから印刷会社と出版社の協力によって,お互いに合理的なシステムとなるよう努めることが必要です。

3.1.2 一般企業の場合
本を作ることがその会社の本業ではなく,基本的にはあくまで本業を発展させるための道具としの印刷物になります。したがって本づくりのために,社内に専門の人を養成しようという考えは少ないのが普通です。むしろ造本の元材料だけを編集プロダクションや印刷会社に渡して,あとは専門家である企画会社・編集プロダクションや印刷会社にまかせるという方向になっています。
また最近ではDTPの普及で,社内でも手軽に作業できるようになりました。ここをうまく自力でこなせば固定費が安くて早い印刷物を作ることができます。
しかし,本当にどれだけ安くできるのかが判断できる知識がないと,かえって,「やはり印刷会社に頼んだ方が,早くて,品質が高い」というようなとも起こります。内製化をするにも専門家からアドバイスをもらって計画作りをする必要があります。

3.1.3 官公庁・各種団体の場合
あらかじめ予算の決められていてその範囲内での,最も安い本づくりを原則としていますので,原則的には競争入札(コンペティション)が行われます。競争入札では,見積りをするための造本内容が,詳細に示されることが多く,本の誌面内容によっては,ほぼ同内容の見本が用意されている場合があります。内容がかなりグラフィカルでクリエイティブな要素の多い場合は,企画・デザインと印刷は別の会社の作業となることもあります。

 印刷の費用は,その造本仕様にマッチした設備のところと,そうでないところでは大きく変わる場合があり,個別に入札が行われます。
 各種団体でも大組織の場合は,出版社と同じような組織になっていることもありますが(出版部門が組織として独立しているようなところもあります),一般的には,出版社のように細かく専門別の担当には分かれないで,少ない人数で兼任担当しているところが多いようです。

3.1.4 その他,個人出版などの場合
最近は自分史ブームで,自分の足跡や,書きためた俳句・和歌・詩を1冊の本にしたいという,いわゆる自費出版が盛んです。
 自費出版物を,発注する人は,造本知識の少ない素人がほとんどですから,編集・レイアウトから製本,ときには販売までの相談にのれる印刷会社に相談するのがよいでしょう。
 当然費用が十分にあれば,編集・デザインなどを編集プロダクションにまかせれば造本上は立派なものを作ることは容易です。ワープロ・パソコンの普及や印刷関係の機器類が進歩しても,企画編集面のノウハウが不足していると,制作上のトラブルは多くなりがちです。

〔自費出版で多いトラブル〕
・修整・訂正にお金がかることを知らない 。
・できあがり後の,自分のイメージと違うことへの不満。
・製作費の支払条件の変更。
・販売に関する認識の違い(製作者側が販売ルートを開拓してくれる約束で発注したと主張する)。
・文字校正のミスに関する責任の認識の違い(最終チェック者が発注者本人であっても字を誤ったのは印刷会社であると主張する)。
 以上のようなトラブルは自費出版だけのことではありませんが,印刷発注の商習慣をお互い よく把握に努めるのが円滑な作業の基本です。

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)