クロスメディアの中心で印刷を叫ぶ

掲載日:2007年12月1日
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オンライン印刷のフデビン
取締役 伊藤 健太郎 様

印刷会社のディレクション機能を高める

充実した社内教育カリキュラムを独自に整備したり、定期的に専門講師を招いたりすることが難しい中小企業にとっては、DTPエキスパートやクロスメディアエキスパートのような資格制度は、個人や企業の目標設定や啓発にもなります。
クロスメディアエキスパートを力試しのつもりで受験してみて、DTPエキスパート認証試験でも感じたことですが、とにかく時間に追われる試験だなと思いました。印刷業界の資格だけに、これは納期に追われる焦燥感を体感させるのが目的なのかなと思ってしまうほどでした。
特に論述試験では、事例に対して企画書を作るという内容でしたが、普段はパワーポイントやアクロバットなどで企画書を作成しているため、コピー&ペーストのできない手書きでの文書作成に、消しゴムが予想以上に減ってしまうほど大変苦労しました。

合格して今度はこれをいかに社内にフィードバックするのかを検討しました。印刷営業はホームページなどの受注にあまり積極的ではありません。それは、単に得意・不得意だけではなく、長時間にわたる打ち合わせや企画書の作成、お客様業界情報の調査などに掛かる時間が、なかなか確保できないところにあると思いました。また、制作側もWebデザイナーやSEなど各専門技術はあっても、プロジェクト全体を企画し推進していく機能が弱いと感じました。それには営業と制作の間にディレクターという役割をはっきりと位置付け、印刷やWebだけでなくク ロスメディア的な発想でプロジェクトを進めていけるようにすることが重要だと思い、この役割の職能自体がまさにこの資格に重なることから、社内の推奨資格としてクロスメディアエキスパートを認定しました。

工場視点はDTPエキスパート、顧客視点はクロスメディアエキスパート

弊社では、特にDTPエキスパートを工程管理やデザイナーなど工場視点で働くスタッフに、クロスメディアエキスパートを営業やディレクターなど顧客視点で働くスタッフに取得を推奨しています。
DTPエキスパートは、取得することによってプリプレスを始めとした印刷工程全体の幅広い技術知識が習得できますので、新人教育はもちろん管理職の教育にも大変有用だと思います。

特に、最近増えてきているインターネットでのオンライン印刷注文では、サポート窓口のスタッフがお客様と直接お会いできない中で、ネットや電話を通じて入稿データの不備がないかチェックし、的確なアドバイスを伝えなくてはなりません。
このようにお客様との技術的なコミュニケーションを行いながら、工場内での横断的で密な連携を取るためには、DTPエキスパートレベルの知識が必須であると思います。これによって、工場全体の工程を把握しながら、営業にもお客様にも頼りにされる工場窓口ができると思います。 また、クロスメディアエキスパートは先述のディレクション機能だけでなく、印刷会社が扱うデジタル資産を印刷物以外のホームページなど新たな事業展開に導く市場開拓者としても大変有用だと思います。

最近では客先での商談やプレゼンテーションにおいても、何か一つクロスメディア的な提案がないと物足りないと感じるほどになりました。しかし、ただ目新しいメディア商品を押し売りするのではなく、お客様の仕事をよく理解してマーケティングストーリーを組み立て、AIDMAなどの購買段階で見込み客の離脱が少なくなるようコンバージョンを高めていくことが大切だと思います。

お客様からも競合会社のバリアブルDMをサンプルとして持って来ていただいたり、セカンドライフのSIMデザインのお話があったりとさまざまなお問い合わせをいただきますが、クロスメディアエキスパートは、それらを精査してマーケティングストーリーに落とし込めるか、お客様のブランド構築に効果的であるかを判断して、常に顧客視点であることが重要であると思います。そして、その活動の中で新たな技術や商品展開が生まれ、結果的に印刷会社の事業ドメインも広がってくると思います。

クロスメディア戦略はバーガーショップと同じ?

印刷会社のクロスメディア販売戦略はハンバーガーショップを参考にすると分かりやすいのではないかと思います。カウンターで「ご一緒にポテトもいかがですか? セットだとお得になっております」と言われ ると思わず追加オーダーしてしまうように、一緒にホームページやバリアブルDMもセットで売れるようなクロスメディアエキスパートが今後は社内に必要だと 思います。

また、ハンバーガーショップは子供向けセットやランチセット、さまざまなドリンク、季節モノなど、個別オーダーにもセット販売にも、ニーズの多様化に柔軟に合わせつつ内部に無駄の出ないメニュー構成を持っています。 印刷業界もメディアの多様化はさらに進み、クロスメディアの選択肢は今後さらに細分化されると予測されますが、すべてに対応することは非常に難しいことですし、お客様には高度な最新技術や細かい職人技は重要でない場合が多分にあります。
クロスメディア提案がお客様にとって本当に最適な状態になるためには、 クロスメディアエキスパートがお客様の状況をよく調査・理解し提案していくのも重要ですが、その前に必要なのは、それを一番理解しているお客様自身が自社 のマーケティングに最適なメディアを選択できるようなクロスメディアメニューを印刷会社側であらかじめ用意しておくことではないかと思います。

何と言ってもお客様のマーケティングについて一番理解しているのはお客様自身ですし、過去の経緯や失敗事例などは担当者とのヒアリングをいくら詰めても外部の人間では計り知れない部分があります。
まずは印刷会社自身が提供できるクロスメディアの選択肢を外注も含めてメニュー化し、その上にクロスメディア提案がされることで、より最適なクロスメディアマーケティングが行われるのではないかと思い、弊社ではホームページでお客様分類ごとのおすすめメニューを表示して、お客様自身にメディアを組み合わせ ていただく試みを一部始めています。

クロスメディアの中心で印刷を叫ぶ

印刷業界にいると印刷物がメディアの中心にある ような感覚がありますが、お客様のマーケティングにおいて最近Webが優先されるケースが増えてきているように思います。これまでのケースとしてホームページ制作を依頼されるお客様は「カタログのデータをホームページでも使いたい」という要望がほとんどでしたが、最近では逆に「ホームページのデータをカタログでも使いたい」というケースが増えています。これはデジタルデータのスタート地点が印刷用ではなく、Web用になってきていることを意味しますし、お客様の発注先も印刷会社ではなく、ホームページ作成会社になってしまう可能性を意味します。それでも、ほかのメディアに比べて高解像度が要求される印刷メディアは「元データ」という威厳がありますが、デジカメやケータイカメラの普及、お客様によるホームページやブログの更新 作業の簡易化などによって、最新のデータはホームページに集中していくという傾向は変わらないように思います。

クロスメディアの中心が印刷からWebに移ってしまう前に、印刷会社はクロスメディアカンパニーを目指し確固たる地位を築けるよう、今まさに行動を始める時だと思います。

※本ページの内容は掲載当時のものです。