イノベーションこそ成長の力–100年企業の経営者に迫る

掲載日:2016年6月16日

日本は世界で最も長寿企業が多い国と言われる。少し古いデータであるが帝国データバンクの調べによると、2014年の段階で創業100年以上の企業は2万7300社あまりになる。

歴史が長ければ良いのかという感想を持つ人もいるだろうが、会社に関わる様々な人や波及する経済的影響を考えると、長く続いているのはそれだけでも社会的価値があるといってもかまわないのではないだろうか。

印刷業界にも創業100年以上の企業は少なくないが、長く続いている企業だけにしっかりした経営で、変化に対応して、積極的に新しいことに取り組む優秀な企業が多いように感じる。今年創業100年を迎えた企業に石田大成社がある。同社がユニークなのは印刷会社として創業し、今も印刷会社としてのものづくりを行っていながらも、全社に占める印刷の割合が約2割になって、他事業の売り上げが主力になっていることだろう。

その売り上げの多くを占めるのがコンテンツ制作である。これは印刷ビジネスから派生して発展したもので、既に1960年代に下地が敷かれているということだ。当時は日本経済の成長につれて、印刷会社の多くは成長期にあったが、そのほとんどは設備を導入し、印刷物そのものの量的拡大を追求することで売り上げ拡大につなげたわけである。ところが、同社は企画・デザインなどのクリエイティブやドキュメント編集などのソフト面にも力を入れており、それが現在の事業領域につながっている。そのことは、印刷市場がピークを迎え市場縮小が始まった90年代半ば以降にも高い売上高成長を達成していることからも窺うことができる。

JAGATinfo6月号では同社代表取締役社長の阿部乙彦氏に登場いただき、変化に対応して成長を続ける100年企業の経営とはどのようなものなのかを探った。

阿部社長のお話をうかがって印象的なのは、決して設備投資をおろそかにしているわけでないが、それ以上に人材への投資を重視している姿勢である。人材の成長を促し、社員それぞれが持つポテンシャルを十分に発揮できるように福利厚生から報奨制度、海外視察への派遣など、さまざまな施策が行われている。もう一つは「イノベーション」へのこだわりである。このこだわりこそが、次々に新たな事業領域を生み出す秘訣のようだ。

今後は不定期ではあるが、100年企業の経営の秘訣について取り上げていく予定であり、是非ご一読いただきたい。

本誌ではそのほかに、弘久社が取り組むCSV(共通価値の創造)から生まれた「志企業の会社案内プロジェクト」を紹介している。これは学生と企業の就職ミスマッチ解消のために、学生たち自らが会社案内を作ることによって、「企業とは」「仕事するということの意義とは」などを体験、考え、学生視点で情報発信することで企業選択の幅を広げようというものである。弘久社は多摩大学と連携しながら、このプロジェクトをサポートし、さらに富士ゼロックスの協力を得て全国展開につなげようとしている。その延長線上で新たなビジネスを生み出すことを狙っている。CSR、CSVはビジネスと両立してこそ継続的に活動できるという、弘久社代表取締役社長の平野芳久氏の取り組みを紹介する。

(JAGAT info編集担当 小野寺仁志)

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