デジタル化の教育は避けて通れないという事実

掲載日:2016年7月7日

印刷会社をはじめメディアに関わる企業にとって、「全社員の底上げ」として、デジタルマーケティングの基本の「き」が重要になってきている。

DTPというデジタル化といまのデジタル変化

DTPが日本に入ってきて、印刷会社や出版社にも導入されるようになり出したころは、まともに取り組もうとはしない人もいた。またいざMacを導入しても使い方がわからない(自分で覚えるしかない)ので、買ってはみたものの使いきれない事態も引き起こした。

その頃は、まだまだ職人技ともいうべき、個人の力量に大きく左右され、専門性が強かった時代であった。しかし、DTPの普及により、裾野が広がったことは事実だろう。その分、力量の差が出なくなって、成果物は誰がやっても同じ、どこに仕事を出しても仕上がりが同じという状況が生まれた。

それまでのやり方とは違って、DTPになると覚えることが多くて、しかも横文字だらけで、常に新しいことを勉強する必要があった。DTPはワークフローの変化をもたらしたが、もっと正確にいえば設備の置き換えであった。いま起きているメディアの変化とは根本的に質が違う。そして、デジタル化の波は、業界や業種の境目を超えて、現在進行形でどんどん進化している。このスピードはDTPのときとは比べ物にならない気がする。

「印刷業界にとっては、DTP以来のこのデジタル化の波を有効利用して、顧客を巻き込んだビジネスモデルを作り上げていくことが現実的な路線ではないか」(『印刷白書2013』)。

デジタル用語をそもそも理解する

印刷、出版のみならずすべての産業にデジタルは浸透してきている。その上、顧客もしくはエンドユーザーである生活者のデジタルスキルはどんどんアップしている。

新しいメディアはスタート時点では環境が必ずしも整備されていないが、現実よりもはるかに先に行ってしまうようだ。だから全くこれまでとは関係なさそうなことが自分の身に起きてくる。それは生活面でも仕事に関しても同じことである。

この点でもDTPが印刷業界に普及し始めた頃の状況に似ている気がする。例えば、何年もライトテーブルで集版作業をしていた人に「明日からMacでやりなさい」といってもすぐには難しい。

JAGATのDTPエキスパート認証資格制度が普及した背景の一つには、印刷会社の営業担当者が顧客と現場の間に入ってもDTP用語が理解できないという問題があった。そこで営業担当者もDTPエキスパートを取得しようという動きにつながった。

このときと同じような現象が広くメディア業界でも起きている。ずっと紙の本の編集に携わっていた人に、明日からWeb雑誌を作りなさいと言っても無理な話だ。だからこそ、デジタルに関しても知識習得は不可欠になる。

社員教育に役立たせるために

印刷会社でも出版社でも新聞社でもおそらく社員のデジタル化スキルアップは、共通する悩みだと思う。たとえばデジタルの専任チームがいるような場合は、その人たちには詳しい知識があるのだが、そうでない人たちは、自分のこととして捉えることが難しい。

顧客接点のある営業や制作の人が、顧客とデジタルマーケティングについて話ができないという状況が実際に起きているようだ。窓口になる人が理解していないと話が進まないどころか、よそに仕事が流れる可能性だってある。もちろん営業の人が、きっかけをつかんだ後は、専門性の高いデジタルチームのディレクターなどにバトンタッチしていけばよい。

そのためにも今までの延長線上で物事を考えるのではなくて、まずは共通言語で話をすることがその第一歩になる。営業の人にとってもデジタルを味方に付けることで、間口を広げることにつながる。逆に何もしないと機会損失になる可能性だってある。

「デジタルマーケティング」のことを念頭に置いて顧客と会話ができるようになること。これもDTPの普及時に経験したことだ。しかし、DTPのときと違うのは、「全社員の底上げ」が必要なことだ。「この仕事はデジタルチームの案件で自分には関係がない」と思ってはいけない。誰もがデジタルマインドを持つことで全社の強みとなるに違いない。

 デジタル基礎用語を理解した上で、デジタルの共通言語で会話をすることから、新しいアイデアや企画が生まれるだろう。何事も基本をおさえることが重要で、成功のための近道でそれこそ王道なのだ。

(JAGAT 研究調査部 上野寿)

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