【クロスメディアキーワード】口コミマーケティングと情報リテラシー

掲載日:2016年9月16日
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「口コミ」の特徴

「口コミ」とは、商品やサービスに関する評価や評判などの情報が、人々のコミュニケーションにより伝達されることを意味する。現代社会は、企業活動だけでなく、人々の日常生活に至るまで「口コミ」と関係した時代となったといえる。ポジティブな情報だけでなくネガティブな情報も存在するため、企業だけでなく個人にとって「口コミ」は、有効に活用すれば益に結びつくこともあるが、扱い方を誤ると損失を招く恐れもある。

口コミの傾向

「口コミ」は人々の歴史の中で、最も古いメディア(情報伝達手段)である。単なるメディアではなく、情報に対する個人の感情や解釈を加味したメディアともいえる。人々は、自身の感情を共有したいといった傾向がある。共有したい感情は、怒りや不満、恐怖を伴ったネガティブな情報が顕著になることもある。ネットワーク社会においては、情報は速く広範囲に伝達することから、「口コミ」による情報は、利便性と危険性を兼ね備えている。さらに、消費者が商品やサービスにする情報をインターネットの「口コミ」サービスを参考にする場合、ポジティブな情報よりもネガティブな情報を信用する傾向があるといった調査結果もある。

コミュニケーション手段としての「口コミ」

バイラルマーケティングやバズマーケティングは、「口コミ」を活用したマーケティング手法として利用されている。企業活動において「口コミ」は、「広告」や「販売促進」「人的販売」「パブリシティ」に並ぶ顧客とのコミュニケーション手段として活用されている。

バイラルマーケティングは、伝えたい情報を普及させるために、「紹介」や「推奨」といった方法で、人々の間に相互に伝え合うことを促進し、奨励するマーケティング・アプローチである。圧倒的な特徴(画期的、便利、格好いい、楽しいなど)のある商品やサービスの場合、自然発生することが期待できる。ネットワーク外部性が働く商品やサービスでも同様の傾向がある。こうした情報の波及的拡大(口コミ)を人為的に起こすことを狙うことをバズマーケティングという。
消費者への情報伝達の可能性が高く、接触頻度も高い4 マス媒体(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)は、広告費が高額になることが多い。一方、インターネットに代表されるデジタルメディアは、コスト構造が異なっている。インタラクティブ(双方向性)であり、パーソナライズ(個別化)できるため、消費者嗜好の多様化に対応できることから広く普及した。ブログやソーシャルネットワークサービスによる「口コミサービス」は、インターネットの特性を生かし、マスメディアと並ぶ情報伝達や認知形成ができる手段となった。マスメディアの役割の一部をデジタルメディアが担うようになり、消費者行動モデルの「AIDMA」は、マスメディアと非マスメディアの変遷につれて「AISAS」「AISCEAS」といったモデルも提唱されるようになった。「口コミ」は、昨今の消費者行動モデルにおいて、重要な役割を果たしている。

ステルスマーケティングと口コミ

「ステマ」という言葉が話題となった時期があった。これはステルスマーケティングを省略したもので、グルメサイトなどで「やらせ」的な投稿が表面化したことから急速に注目を集めた。報道の論調により、悪いイメージが定着してしまった「ステマ」であるが、本来的には、消費者に悟られることなくマーケティング活動を行うという意味である。
程度の差はあるが、「口コミマーケティング」と呼ばれる形で、ターゲット顧客に効率良く情報を浸透させる手段として、施策を提案してきた事実もある。「口コミマーケティング」の例としては、アルファブロガーと呼ばれた「ブログを通じて、ターゲット層に対して高い情報伝達力を持つ人物」に、企業がインセンティブを与えて情報を発信する手法がある。しかし、そこで発信される情報は、その人物の主観に頼ることになり、情報精度は必ずしも企業が意図した通りになるとは限らないものである。したがって、企業が望む形での情報を的確に発信したいという需要があり、呼応する形でサイトへの投稿を請け負うビジネスが生まれた。
景品表示法を所管する消費者庁のニュースリリース『「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」の公表について』(平成23 年10 月28 日)では、

『商品・サービスを提供する事業者が、顧客を誘引する手段として、口コミサイトに口コミ情報を自ら掲載し、又は第三者に依頼して掲載させ、当該「口コミ」情報が、当該事業者の商品・サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるものである場合には、景品表示法上の不当表示として問題となる』
と指摘しているが、法の判断は個々の事例ごとに充分検討した上でなされなければならない。
消費者庁の指摘する問題が発生した場合の処罰は、実際に商品・役務を提供する得意先企業に下される。得意先に対して提案を行う際には、何の目的でソーシャルメディアを使うのかという理由と、リスクと対比してもそれがどれだけの利益を生むのかを明確にし、運用に当たっては、モラルを欠くことのないような人的・システム的仕組みを構築するべきである。
最近ではインターネット上の情報を単純に鵜呑みにしない利用者が増えている。また、不適切な発言が批判され、排除されていくように、インターネット上の情報にはある程度の自浄作用も働く。こういった経験を学習することで、情報の判断におけるリテラシーは徐々に高まっていく可能性がある。

JAGAT CS部
Jagat info 2013年4月号より転載