産業構造の変化とキャリア開発

掲載日:2016年9月23日
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技術革新による産業構造の変化は、産業の原動力となる人の働き方と密接に関わっている。
現在私たちが向き合う高度ネットワーク社会は、自律的な最適化を背景にした労働力のパラダイムシフトを引き起こし、価値労働への移行が求められている。

技術革新がもたらすビジネスの変化

第4次産業革命といわれる高度ネットワーク社会にあって、産業構造の変化が進んでいる。
経済産業省「新産業構造ビジョン」の中間整理発表資料によると、ビジネスの在りかたには大きな変化が訪れ、特に製造業への影響は大きいとされている。この変化への対応方針として、いくつかの指針が示されたが、その中での「人材育成の柔軟性向上」について取り上げる。

製造業における変革の姿として、「データを利用した製造工程の生産性向上、購買情報等のリアルタイム分析による需要予測、消費者の購買情報をはじめとする顧客データを活用した商品開発」などの取り組みがある。そのうえで今後の変革の方向性として、「製造・物流・販売をデータで連携させることで、消費者のニーズを的確に捉えたカスタマイズ製品の安価で迅速な供給(マスカスタマイゼーション)をはじめとする新たな商品やサービスの開発や精緻なマーケティングが普及し、消費者の満足度・利便性を高めつつ潜在需要の開拓・喚起が進む」としている。
メディア・コンテンツ業では同様に、「顧客の好みに合わせて最適なコンテンツの配信が可能になり、コンテンツの自動生成やバーチャルリアリティの活用などより一層多様なコンテンツ生成が可能になる」と予測している。
さらに、「第4次産業革命により、社会構造が変化し、それによりこれまで不可能と思われていた真のニーズへの本質的対応が可能となることにより、新たな商品・サービスの需要が拡大する」としている。
これは、商品開発プロセスにおけるユーザー(顧客)中心主義の徹底であり、それにテクノロジーが完全に追いつき、あるいはあるべき姿への誘導、今までに体験したことのない価値へ導くデザイン主導を実現するための環境が十分に整ったことを意味する。
そしてその具現化においては、「付加価値の源泉はデータであり、データ利活用の中核を担う情報サービス部門や顧客データを活用したマスカスタマイゼーション等に対応できる製造部門などが大きく成長する」としている。
製造部門を支えるために重要視されているのは、生産工程でのIT(Information Technology)とOT(Operation Technology)の融合とみられる。第3次が生産のデジタル化であったなら、第4次では、企業の情報システムと生産現場をデジタルでつなぐ革命ともいえるものであり、この連携が次の事業展開に大きく影響するからだ。

職域の変化の中何が求められるか

この変革による仕事内容の変化はというと、「さまざまな産業分野で新たなビジネス・市場が拡大するため、ビジネス創出に関わるハイスキルの仕事は増加し、それに伴いビジネス創出を具現化する仕事や、マスカスタマイゼーションに関わるようなミドルスキルの仕事も増加する。」と分析している。一方で、AIやグローバルアウトソースによって代替されるようなバックオフィス業務は減少する見込みだ。高度ネットワーク社会の中で人手を介さず収集される膨大な情報(データ)を基に、それをどのように活かしてビジネスにしていくのか。それらデータの利活用の技術知識のある人材と、それらをもとにビジネスを創出・企画できる人材の需要が高まると予測される。
市場の理解と顧客中心主義の重要性に対し、その理論を十分に実践し、さらに新たな需要を喚起するためのテクノロジーが整備されつつある。
顧客中心を突き進めると、その声を聴くだけではなく、ニーズを先取りし、潜在的な需要も創出するような分析力、創造力の必要性に行き着く。
集められた消費者行動データからその分析を行い、潜んでいる需要を探り出して新たな商品やサービスとして企画する。そういった分析力と創造性が重要性を増すと見られる。テクノロジー(データサイエンス)とクリエイティビティの時代だ。

経営課題に直結する人材の開発

産業構造の変化によるビジネスの変化に対峙する社会は、その原動力となる人材の開発が急務であり、変化の中での競争優位を獲得する姿勢が求められる。
また、産業構造の変化は、当然のことながら就業構造の変化をもたらす。ビジネスプロセスの変化に対応した円滑な労働(人材)移動が図れるようなキャリア開発、より付加価値の高い労働に人材をシフトさせるためには、何が必要だろうか?
高付加価値労働においては、自ら課題を見つけ出す志向が重要とされる。
日々の内省により個人のビジョンを明確にし、対話や実践を通してそのビジョンを共有して個人と組織がともに成長する、組織全体として学習し続けるという概念である「学習する組織」。1990年代、産業のデジタル化により生産体制と人材に求められるスキルが短期に陳腐化し始めた時期から組織論として注目されてきたその志向は、急速な技術革新により複雑さを増すビジネス環境の中新たな価値とビジネスを創出することを求められる現在、さらに重要性を増していくと予想される。

参考資料:
「THE NECESSARY REVOLUTION – 組織と個人による変革 – 」ピーター・センゲ
「新産業構造ビジョン 中間整理」 発表資料

(JAGAT CS部 丹羽 朋子)