印刷業からコミュニケーション戦略へのカギはデザイン思考

掲載日:2017年3月14日
このエントリーをはてなブックマークに追加

「デザイン思考」がビジネスの場で注目されています。デザイン思考がマネジメントにも取り入れられる背景と、「これからのデザイン」として印刷業のビジネスにどのように活用されていくべきかを探ります。

情報デザインの考え方

印刷物製作では、グラフィックデザイン、エディトリアルデザインなど、印刷物の装飾的視覚表現および造本設計や紙面設計が行われてきました。
これに加えて情報デザインは、より人やモノとの関係性に視点を置いた情報の伝え方に関わるデザインといえます。情報の可視化にあたって、なぜその情報を可視化する必要があるのか、に着目したうえで、対象を分析・再構築することで、情報の構造化を行い、情報を受け取る側とのインターフェースとして適したかたちで提示します。
モノと人との関係性への着目という観点から、人間中心的デザインといわれ、その過程では、対象物が用いられる文脈を観察、分析する手法を用いて生活者のニーズを探ることになります。したがって、情報デザインには、表現技術に関するスキルだけではなく、ものごとの背景を含めて俯瞰し捉えなおす思考が重要となるわけです。

デザイン思考のビジネスへの展開

こうしたデザインにおける思考法は、モノのデザインから体験のデザイン、そしてビジネスそのもののデザイン(設計・計画)に応用可能であるとして、現在ではデザイン思考を各種サービス、ビジネスに適用することが一般化してきました。ここで重要なのは、デザイン思考はあくまで生活者の課題解決に視点をおいた思考方法であり、現在のビジネス環境にマッチしているという点です。企業側の論理による価値の最大化は結果として企業に不利益をもたらし、さまざまなステークホルダーとの関係性に着眼した発想が現在のビジネスで重視されているためです。
ただし人間中心といっても、生活者自身が自覚しているすでに顕在化している要求がすべてではありません。生活者の潜在ニーズを呼び起こし新たなサービス・体験を提示するには、いわゆるユーザー調査などに留まらず、各種要因を踏まえた課題の抽出、対話、アイディア出しなどによりサービスを具現化していくプロセスが必要となります。その意味では、市場創造型マーケティングの根本にある思考法であるとも言えます。

コミュニケーション戦略へ

各メディアの役割は、情報を伝える役割から、インターネットをはじめとした双方向コミュニケーションを含んだメディア特性に応じた商品・サービス購買の導線づくりに変化し、これを戦略として打ち立てる必要が出てきました。こうしたビジネス環境の中で、生産者主導による商品・サービス価値の提供によって生活者の購買行動をコントロールすることは次第に難しくなり、生活者視点のコミュニケーション戦略が求められるようになっています。
印刷業では、顧客企業の事業を印刷物というメディアを通してサポートする業務を担ってきました。すでにコンテンツの展開においては、多媒体への制作展開をも担っている印刷会社がほとんどだと思います。デザイン思考は業種を問わず幅広く採用され得ますが、コンテンツ情報の可視化とサービス設計(実施デザインともいわれるデザインコンセプトの仕様化)のノウハウの上流に、デザイン思考によるコミュニケーション戦略立案を採り入れメディアデザインを行うことで、印刷業にしかできない顧客の業務支援が可能になるのではないでしょうか。
情報伝達においてその背景に応じたユーザーとの接点を演出してきた印刷業の蓄積を各種サービス展開に応用し、さらに一歩踏み込んだデザイン思考をプラスすることにより、クロスメディアビジネスによる顧客の課題解決の方向へ活用する拡張性が望まれます。

(JAGAT CS部 丹羽 朋子)
–Jagat info 1月号より転載–