クロスメディア資格を武器に 新たなビジネスチャンスの獲得へ

掲載日:2017年8月4日
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エキスパート資格を団体や企業として推進する取り組みが続いている。クロスメディア資格を推進する経営側の視点についてお話を伺った。

望月印刷株式会社は創業60年を超え、「メディアコミュニケーションを通じて、お客様・地域社会・従業員に笑顔と豊かさを創造する」を理念に掲げて、印刷、ウェブ制作や企画プロデュースの事業に取り組む社員数110名の企業である。

埼玉県印刷工業組合主催のクロスメディアエキスパート(以下、CME)対策講座への参加と事業の方向性について、代表取締役社長の望月諭氏、取締役営業部長の神藤仁氏にお話を伺った。

埼玉県工組のCME 対策講座に参加した経緯を教えてください。

望月氏 CME は、前々から社員に受けさせたいと思っている資格でした。神藤と共に、受けてもらいたい社員についても検討していましたし、自ら受けたいという希望のある社員もいました。ただし、提案書を作成する論述試験についてハードルが高いと感じていたこともあり、取り組み開始のタイミングを見計らっているところでした。

そういった中で、資格取得や情報交換に注力しようという方針を打ち出した埼玉県工組の岩渕理事長の下で、県工組としてCME 試験に取り組もうという方針が決定されました。対策講座を受講するなら合格にも近づくのではということになり、参加することにしました。私自身、組合の役員もしており、対策講座を開催するなら自社からも是非参加させたいと思っていました。

貴社の事業の方向性とCME の関連をどのように捉えていらっしゃいますか?

望月氏 私が社長に就任してから5 年が経ちますが、初めの1年ほどは会社としての構想、企業理念や方針の刷新に取り組みました。会社案内やHP にも掲載しているように、「メディアコミュニケーション」というものが当社の基本的な考え方になっています。

また、当社は埼玉県工組だけでく、印刷関連企業の集まる社外の勉強会にも参加していますが、5〜6 年ほど前からその勉強会でも顧客の課題解決という点がテーマになっています。勉強会に参加した営業社員が、社内でその内容をフィードバックして共有するということをずっと継続しています。そのためお客様に対する企画提案の考え方の土壌は、ある程度醸成できている面もありました。

また、当社の方針として、価格競争や納期競争ではなく、提供サービスの内容や質で勝負したいという考えがあります。こういった日頃の活動を通して目指した方向の延長上に、CME 資格があるという認識です。

今回講座に参加した社員のうち、2 名は営業および企画職、4名はデザイン職です。デザイン職が多かった理由として、一つは2 月受験ということで当社の繁忙期に当たり、営業職を多く参加させるのは難しかったという点があります。もう一つは、デザイナーとお客様との関わりが増えているという傾向があります。ここ数年、30 代ぐらいの中堅どころのデザイン職の社員が、自分から積極的にお客様のところに出向き、情報を仕入れ、提案を持ち込むことが増えています。現場の担当者が出向くことにより、お客様からの信用度も上がり、展開も拡がるという利点もあります。会社としてもそういう社員にCME にチャレンジして欲しいと思っています。

神藤氏 当社の事業領域の面から見ると、現在ほとんどがB to B かB to B to C のお客様の案件です。今後は、B to C のお客様の案件を伸ばしていくことが課題ですが、B to C に関してはCME の考え方はどうしても必要になります。

ビジネスチャンスはあるのに当社がまだ入り込めていない領域に対して、顧客の課題解決をするクロスメディアという視点を武器にしていかなければならないと思っています。

今回受講した対策講座について、受講された方々の反応はいかがですか?

望月氏 受講した全員がとてもためになったという感想でした。対策講座は、与件を題材に企画提案のグループワークを行うことが中心でした。特にグループワークがかなり勉強になったようです。普段一緒に仕事をしているメンバーとは異なり、他社の初対面の人とのグループワークは、新鮮な考えに触れられとても有益な場となり、また良い交流の場にもなったようです。

神藤氏 対策講座を受講する前は、特に論述試験についてはどんなかたちで出題されどのような方向性で解答していけばよいか不安があったようです。講師の方が試験での対応を含めて指導してくださり、論述試験の合格につながったという声も多く聞いています。

望月氏 対策講座の良い効果としてとてもうれしかったこととして、こちらから指示したわけではないのですが、デザインチームの4 人が中心となり今回受験しないメンバーも含め、会議室で昼食をとりながら自主的に勉強会を開いていたということがありました。日頃から意識高く業務に取り組んでくれている社員に更に良い影響となり、高い合格率につながったと思っています。

残念ながら学科試験のみの合格となった社員もいますが、すでに次回試験で再チャレンジすると意思表明してくれていることもとてもうれしく思っています。スキルも意識も高い社員たちなので、次回に期待しているところです。

社内での取り組みや資格取得後の活用に関しては、どのように考えていらっしゃいますか?

望月氏 勉強してスキルを上げるということはもちろん大事ですが、今後は自社にできることをお客様へアピールしていかなければならないと思います。残念なことに、「あれ、望月さんのところってホームページの制作や動画制作もできるの?知らなかったよ」ということをお客様に言われることがまだあります。このようなことはお客様にとっても、当社にとってもお互いにとてももったいないことです。印刷とウェブや動画をセットでできればお客様ももっと楽に依頼できたであろうし、当社としても併せて同じテイストの効果のある提案が提供できたはずです。このようなことを解決するには、お客様に自社の技術や情報を常に発信し、対外的にアピールしていくことが重要だと痛切に感じています。

当社のように地元で商売をさせていただいている会社にとっては、「望月さんのところって望月印刷という会社名だけど、さまざまなメディアに精通しているんですね」と言われるのが今の目標ですね。

神藤氏 今ちょうどプロモーションの企画提案の話があり、今回の合格者や受講者を中心にチャレンジ案件としてトライしてみるように言っているところです。 通常は企画会社や広告代理店が参加する内容であり、印刷会社では当社ぐらいしか声がかかっていない案件です。この仕事を受注できるかできないかは最終的にはお客様次第ですが、いずれにしてもお客様に対して、当社はこういう仕事もできる、という能力提示ができます。こういう機会にお互いに能力を知り合い、チャンスを拡げていくという意味でも、今回は良いチャンスを得られたと思っています。

望月氏 このような場に声をかけていただけるようになったことも、日頃からの情報発信・アピールが功を奏して一つ段階が上がったということと実感しています。スタートしたばかりですが、今回資格を取得した社員と共に仕事をすることによって、会社全体のレベルの底上げにもつながりますし、それによって実績を出し続けていくというようにどんどん良い循環になってきていると思います。

資格を取ることが目標ではなく、取得に向けての過程や取得後それを実業務にどう活かしていくかというところがとても大事だと思っています。当社としては、資格取得を通した社員の切磋琢磨をうまく活用していきたいと思っています。

(聞き手・まとめ:CS部 丹羽 朋子)
–JAGAT info 2017年7月号より転載–