2017年の印刷ビジネスを振り返る

掲載日:2017年12月31日

 

2017年の印刷市場は必ずしも好調なわけではなかったが、そうした状況のなかにも良い方向への変化の兆しを見つけることができる。2018年を考えるために、2017年について様々な材料から振り返る。

2015年:行き過ぎた市場縮小の一段落、脱デフレの兆し

2015年の印刷産業出荷額は1.1%減の5.5兆円(「経済センサス」に基づくJAGAT推計)。減少幅(1.1%)はリーマンショック以降で2014年の(0.2%)に次ぐ小ささ、東日本大震災の2012年以降は印刷出荷額の減少幅が2%未満で推移、加速度的な市場縮小局面終えたと見てよい。消費増税の4月前後に空前の駆け込み需要と反動減があり、特に折込チラシなど商業印刷はその影響が長引いた。しかし年間を通じれば印刷会社の売上高は差し引きでプラスとなった。税率は5%から8%へ、マクロ経済はデフレから脱デフレへ、為替は円高から円安へ、経済環境は数年~数十年単位の大きな変化が相次ぎ、これらが重層的に作用してデフレ時代とは違う影響を印刷市場に与えた。数年~十数年ぶりに印刷市場が安定し始めたことを意味する指標や事象が多かった。

2016年:印刷経営の中期的な改善傾向が腰折れ、踊り場に

「JAGAT印刷産業経営動向調査2017」に基づき2016年の印刷経営を概観する。印刷会社の売上高は2年連続の微減、営業利益率は3年連続の1%台。中期的な改善傾向にあった生産性も低下に転じた。1人当り売上高は5年ぶりに減少、その影響で1人当り人件費は3年ぶりに減少。リーマンショック以降、2015年まで続いた様々な指標の中期的な改善傾向が踊り場に差し掛かり始めた。積極的な設備投資による生産性改善が生み出した利益を人件費に分配する近年の印刷経営の好循環がいったん途切れた形である。しかし依然として経営者の設備投資意欲は近年になく旺盛で、人手不足・採用難・働き方改革などを背景にした合理化投資、加工会社の減少対策やデザイン性を強めるための差別化投資の物色が続いている。

2017年:印刷市場は年後半から右肩上がりも地域差が顕著

「JAGAT印刷業毎月観測アンケート」に基づき2017年の印刷経営を振り返る。売上高は8月まで前年割れの微減水準で推移したが、2016年夏を目先の底として改善が進んだ。徐々にマイナス幅を縮め、衆院選を控えた9月に久々のプラスに転じると、10月は数年来の5%増を記録、年末に向かって売上高は右肩上がりに改善した。地域別には首都圏の低調さが近年の傾向として続くなか、名古屋圏の好調さと大阪圏の復調が全体を押し上げた。名古屋圏は輸出産業の好調、大阪圏はインバウンド消費が成長を牽引する反面、首都圏は出版不振が影を落とし、周辺地域にも影響を及ぼした。しかし売上高の改善傾向の持続性については一時的なものか、継続的なものか現時点では判断しづらい。

2017年:印刷会社経営者の声と景況感には明るさあるが

JAGATの調査によれば印刷経営者の景況感にバラつきはあるものの、全体として見れば改善の方向に向かった。業界の状況についての認識は、2016年夏に近年の最悪を記録して以降、一本調子ではないながらも改善に向かった。景気の状況についての認識はプラス圏に転じた。経営の状況についての認識も改善が進んだ。一方、2年ぶりに資材料価格が上昇したとの認識が広がっていること、継続的な採用難・人手不足が経営の足かせになっている。2017年は新規事業などが立ち上がり、年後半からの回復傾向も追い風になって「増益」「最高益」を記録した印刷会社が増えた、経営状況を「厳しい」「数年来の厳しさ」と表現する会社も一定程度あった。

2017年:印刷製品別の動向、印刷製品再評価の動き

商業印刷は増加には至らなかったが、年前半の減少分を夏以降の増加分でほぼ取り戻して微減程度まで戻すなど復調を感じさせた。チラシ以外の需要増が商業印刷全体を底支えしたようだ。包装印刷・事務用印刷は±0前後で堅調ともいえる水準。出版印刷は特に雑誌が減少を主導して全体では5%超の大幅な減少を記録。しかし出版印刷のなかでも書籍はそれほど減らず底堅いともいえる動き。株価が26年ぶりに23000円台乗せするなど経済環境は悪くなく、減少している印刷物は景気要因ではなくメディア環境要因の構造的な影響を受け続けている。また、一部の商業印刷や書籍については見やすさや効果の観点から再評価されて減少が落ち着き、あるいは増加に転じている。

2018年:印刷ビジネスに影響を与える要因の洗い出しと評価が鍵

2017年は当初、トランプ大統領誕生によるブロック経済化が懸念されたが、内需振興への期待が優って日米とも株価は好調を持続、衆院選の与党圧勝が景気のさらなる追い風になった。しかし東京オリンピックへ向けた物件再開発の竣工ラッシュなど大型投資案件がピークを迎え、景気の持続性には不安材料が増えている。印刷業界に目を転じると、紙から電子への加速度的なシフトは一段落しているが、出版・印刷会社M&Aの大幅増加、物価高騰の兆し、AI・仮想通貨・スマートスピーカーの実用化など新たなICTの影響、地方創生/地域活性化の政府の政策変化とビジネスチャンスなど、プラス材料・マイナス材料を見定める必要が出てきている。ほかにも印刷経営に影響を与える材料にはどのようなものがあるか。新年度を考える会社が多いこの時期、情報を収集、様々な事業環境の変化が自社に及ぼす影響を見極めて来たる2018年度に備えたい。

(JAGAT 研究調査部 藤井建人)

※関連レポートはJAGAT会員限定誌「JAGAT info」2018年1月号に掲載予定
※より詳細な分析を加えた研究会・カンファレンスを下記開催予定

<関連セミナー>

■研究会 2018年1月24日(東京)、26日(大阪)開催
「印刷ビジネスの動向と展望2017-2018」

■カンファレンス 2018年2月7日~9日(池袋サンシャインシティ)
2/9 「印刷ビジネスとメディアの展望2018」
2/8 地域活性ビジネス① シティセールスと観光活性化への関わり方 
2/8 地域活性ビジネス② 地場産業活性化の手法と連携を考える 

<関連書籍・レポート>

「印刷白書2017」
「JAGAT印刷産業経営動向調査2017」
「印刷会社と地域活性 Vol.3」
「デジタル印刷レポート2016-2017」

「デジタルハンドブック

「地方創生/地域活性ビジネス」