発注者が望む印刷会社の姿

掲載日:2014年11月27日

プリンティングコーディネータ養成講座における津田淳子氏の講義「プリンティングコーディネータに求められる役割と能力」を通じ、発注者が望む印刷会社の姿を探る。

第17期 プリンティングコーディネータ養成講座(2014年10月16日〜11月14日)を終えた。最終11月14日は会場を竹尾本社に移し、竹尾の青柳晃一氏とアートディレクターの高谷廉氏による「印刷用紙知識とディレクションのポイント」講座と、グラフィック社『デザインのひきだし』編集長の津田淳子氏による「プリンティングコーディネータに求められる役割と能力」講座を開催した。

第17期 プリンティングコーディネータ養成講座

『デザインのひきだし』は「そのアイデアをどうやったらうまく紙、印刷物に落とし込めるか」をコンセプトに、印刷・製本・加工のさまざまな技術解説や応用例を、綴じ込みの実物サンプルと共に解説している。不定期発行で2007年から現在まで23号が刊行され、デザイナーや広く印刷・関連業界の人々から支持を得ている。

今回の講義では、発注者サイドから、あるべきプリンティングコーディネータの姿が語られた。『デザインのひきだし』を始めとする津田氏が手掛けた本も多数紹介され、また、津田氏が信頼する箔押し加工会社コスモテックの青木政憲氏をゲストに迎え、豊富な体験や事例を交えた講義が行われた。

プリンティグコーディネータは発注者と現場を繋ぐ

津田氏はなぜ、『デザインのひきだし』を作ったのか。

そのきっかけは「こんな本が作りたい」という要望が、印刷会社に伝わらなかったからだという。

小さい頃から印刷物が大好きだった津田氏は、本を作りたくて編集者になった。しかし現実には、やりたいことがあっても印刷会社の営業担当に「できない」と断られてしまうことがよくあった。でもなぜできないのか。それをなかなか、営業から教えてもらえない。

ならば、発注者自らが知識を身に付け、手配するしかない。そして自分が得た知識を、デザイナーをはじめ、多くの発注者と共有したいという思いから、印刷・製本・加工に特化した本を企画したのだそうだ。

本来は各印刷会社にプリンティグコーディネータがいて、発注者と現場を繋いでくれることが望ましい。それが、質の高い印刷物を世に送り出すことに繋がると津田氏は語る。

プリンティングコーディネータに求められる能力とは

津田氏の考えるプリンティングコーディネータとは、どんな存在なのだろう。

ゼネラリストであること

プリンティングコーディネータは印刷紙加工関連のスペシャリストである必要はない。スペシャリストは周りにたくさんいるので、むしろ、その人たちを繋ぐことがプリンティングコーディネータの役割だ。浅くてもよいから、できるだけ幅広い知識をもつことが大切なのだ。

協力会社との繋がりを広げること

自社でできる技術には限界がある。しかし協力会社との繋がりをたくさん持つことで技術の幅を広げることができる。それぞれの協力会社で何ができるか理解し、「この案件はあの会社に」と、すぐ思い浮かぶ協力先を数多く持てるかがカギとなる。

自社の強みについてのスペシャリストであること

「うちは何でもできます」と言う印刷会社は、「何もできない」と言っているのと一緒だ。「何でも」ではなく、「何と何が得意」「過去にこんな実績がある」など、具体的にできることを提示されなければ、その会社に発注する決め手とはならない。
「何ができるか」をはっきり言うには、まず自社の強みはどこか、自社でできることが何なのか、徹底的に知っておかなければならない。

発注者の要望に寄り添うこと

「コストと時間があればできます」も、印刷発注者にとって困る言葉である。
お金にも時間にも制約のない案件などない。発注者を知ろうとし、その要望を制約の中でも最大限実現させようという印刷会社が求められている。

そうは言っても、技術的に無理であったり、予算やスケジュールに合わなかったりして「できない」と答えるしかないケースもある。しかし、そこで終わらせてほしくないと津田氏は言う。発注者の要望をよく聞けば、実現可能な対案を生み出すことができるはずだ。

津田氏自身も、『デザインのひきだし』ほか、いくつかの書籍を手掛けるなかで、プリンティングコーディネータの役割を持つ人のアドバイスによって難局を切り抜けた場面が多々あるという。

発注者と現場をつなぐこと

発注者の抽象的な要望を解釈し、各工程への技術的な指示に翻訳するのも、プリンティングコーディネータの役割だ。
時には、技術的に難しい作業や、自社では未経験の作業を指示しなくてはならないこともある。その際、現場スタッフの不安を取り除き、やる気を引き出す能力も、プリンティングコーディネータには求められる。

「何でも」ではなく「何が」できるか

津田氏の講義の中で、特に印象に残った点を述べたい。

第一は、「何でもできる」という言葉が発注者にとって何ら説得力を持たないという点である。

印刷会社側から考えると、クライアントの多様なニーズに応え、受注チャンスを増やすには、自社の守備範囲の広さをアピールしたいだろう。その気持ちが「何でも」という表現に繋がるのは分かる。
しかし、発注者が知りたいのは、自分がやりたいことを実現するために、何をしてくれるかである。その会社にしかできないことは何なのかである。

プリンティングコーディネータが自社に何ができるかを語れるようになるためには、まず、自社の強みがしっかり形成されていることが求められる。
経営層が事業戦略をきっちり作り、自社の製品・サービスの特長を打ち出すことができてこそ、プリンティングコーディネータも生き生きと自社をアピールすることができるのではないだろうか。

発注者との二人三脚で印刷の可能性をひらこう

第二は、発注者の要望を叶える努力についてである。
予算も時間もないのに、発注者が無茶な要求をすることもある。できないことを安請け合いしてしまっては、現場に混乱を来し、発注者の信頼を失うことにもなりかねない。

しかし「できない」で終わったら、発注者との関係もそこで終わってしまう。それでは、どうやったら可能なのか、発注者と一緒に考えることで、これまでにないアイデアが浮かぶこともある。

こうした姿勢が発注者の信頼を得ると同時に、印刷・加工の可能性を広げることにも繋がるのである。

プリンティングコーディネータの役割はますます重要に

JAGATinfo8月号では、大学入試におけるネット出願によって、64万部の印刷物がなくなった事例を紹介した。今後もWebに置き換え可能な紙メディアの減少が続くと考えられる。

それでも紙でこそメリットのあるものは、残っていくはずである。その時に印刷物に求められるのは、デザイン性が高く、高品質で、手元に取っておきたいと思わせるものであろう。

そんな印刷物を実現するために、プリンティングコーディネータの役割はますます重要になる。

受講生の方々は、津田氏の講義に真剣に耳を傾け、印刷見本に見入っていた。それぞれ自社で責任を持ち多忙な中、時間を割いて受講されているだけに、本当に印刷に思い入れを持つ方々なのだと思う。

プリンティングコーディネータ養成講座を契機として、受講生の方々が、自社における印刷物制作のゼネラリストに成長し、魅力的な印刷物を世に送り出していただくことを願う。

(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)

JAGAT 制作・デザイン系セミナー

2015年度の情報はこちらにアップいたします。

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