潜在ニーズを読み解き施策全体を見る力

掲載日:2018年10月23日
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アートディレクターを経て現在はブランディングやマーケティングのコンサルタントとして活動している小澤氏は、デザイン戦略を顧客企業の成果につなげ、課題解決を図っている。印刷会社が課題解決業務に舵を切る際のヒントをいただいた。

グレイズ 代表取締役/(財)ブランド・マネージャー認定協会マスタートレーナー 
小澤 歩氏インタビュー


Q: どのようなお仕事をしていますか?

小澤氏 企業のブランディングのコンサルティング、販促のコンサルティングがメインの業務となっています。

特に最近は、受注型から提案型に変わるためにマーケティング、ブランディングを導入しようとする
印刷会社に向け、顧客の売り上げアップに貢献する提案手法、企画手法のコンサルを行っています。

また、印刷会社や広告会社などのクリエイティブ、制作部門の強化なども行っています。

Q: 小澤さんのお考えになる「クリエイティブ」とはどのようなものでしょうか?

小澤氏 クリエイティブというと感覚で行う業務と捉えられがちですが、それではマネタイズしづらいのです。企業として行うクリエイティブとは、いかにして顧客の売り上げといった成果に貢献するか、という点を重視しなければなりません。

その意味で、感覚で行うのではなく、理論をベースに行っていくことが大切だと思っています。

クリエイティブ部門をはじめどの部門にいても、経営視点を持つべきだと思います。

例えばブランディングのコンサルティングを行うときは、まずはさまざまな部署からスタッフを選抜してブランディングチームを作ってもらうようにしています。

そのうえで、チームとして戦略を作り、プロモーションの計画をし、制作に落とし込んでいく、という方法をとっています。

Q: デザインとマーケティングの関係をどのように捉えらていらっしゃいますか?

小澤氏 マーケティングの理想は、こちらは何もしなくてもお客様が商品を買ってくれる、ということです。

デザインは、相手の心をどのように動かして購買にもっていくか、ということを考えて行うものであり、両者は同じ目的に向かった一連の活動として行うべきものです。

Q: 印刷会社では、新領域ビジネスを手掛ける時、どのように進めるべきですか?

小澤氏 いきなり大きな移行を求めると社員の方には躊躇されると思います。受注型から提案型へ、マーケティング業務へといったことが印刷会社のテーマになっていますが、これらは既存業務からするとかなり大きな変化なのです。

例えばチラシの改善といった小さな変化から始めて、次にはチラシとウェブを組み合わせてやってみる、といったように、小さな目的をたくさん設定するとよいと思います。

成功体験を積み重ねて段階的に進むようなプロセスを踏んでもらいながら、これらがマーケティングにつながっているのだと実感してもらうことが大切です。

既存業務とまったく違う新たなことをいきなりやろうとするより、既存業務からの展開でやれるところから始めてみると、ハードルを感じずに取り組んでもらえると思います。

SNS を活用した売れる仕組み作りなどでも、新たなリソースの投入ではなく、従来業務の意識を少し変えるだけで実現可能になるのです。

そもそもマーケティングの目的とは、最終的に企業の売り上げを長期的に伸ばしていくことです。それができさえすれば特に何の理論もいらないのです。

ただし提案やマーケティングには、今までとは違う思考方法が必要になるので、私のコンサルティングでは、日々考える癖をつけて習慣化するようにアドバイスしています。

Q: 販促施策において、各メディアの相乗効果で価値を高める仕組みづくりを行う人材に重要なスキルとはどのようなものでしょうか?

小澤氏 商品を買ってもらうためには、その商品がどのようなニーズを満たすものなのかをしっかり伝えていかなければなりません。そうした発信をしていくことを考えると、市場のニーズを捉える力は必須です。

顧客自身も潜在的なニーズまで把握していない場合もありますから、ヒアリングの中から見極め読み取る力も大切です。これができていないと、販促施策の企画立案もよいものにはなりません。

更にマーケティングの仕組みを作ることを考えると、チラシ、DM、ウェブサイトなどのメディアごとで捉えるのではなく、施策全体を見る力も欠かせない能力です。

こうした力を身に付けるには、ある程度の訓練が必要です。やみくもに場数を踏むのではなく、ある方法論を知ったうえで何本も提案書を書いてみる、といった訓練を行う中で、確実に力は付くものです。

特に提案活動自体に馴染みのない方々は、何から始めたらよいか分からないかもしれません。

最初はある程度提案の「型」は必要となるかと思います。

武道に「守破離」という方法があります。まずは既存の型を覚え、それから自分なりの型を身に付けたうえで既存の型を破り、最終的には型にとらわれずに自在に行う、という武道の身に付け方です。

提案活動に慣れていない方は、初めはそのように捉えるといいでしょう。この方法は、トレーニングとしては最も効率がよいのです。

印刷会社としてこうした力を身に付け、根本的な課題を見出せるようになると、確実に他社との差別化が図れると思います。

Q: 印刷会社の人材が学ぶべきことは増えているように思われますか?

小澤氏 商品を買ってもらうための施策として、今までは紙だけだったところにデジタルメディアが出てきただけですから、それらをうまく活用していくというだけの話だと思います。

今まで紙の中でもポスター、チラシ、DM などを使い分けてきたはずです。同じように、複数のデジタルメディアを使い分けるようにするだけで、商品を買ってもらうという最終目的に到達するために行うことの根本は何も変わりません。

商品を購入する側は、自分の困りごとを解決したり、なりたいものを満たしたりするために必要だから何らかの商品・サービスを買うのです。

お客様はさまざまな広告メディアに触れていますが、今触れているメディアがアナログかデジタルかを意識することはありません。だから企業側も、そういう分け方で考える必要はありません。

ただし、ターゲットとなるお客様は普段どういうメディアに触れているのかを知り、それに合わせて各メディアを使いこなして施策を打っていきます。チラシの特徴を印刷会社はよく知っているでしょう。

それと同じように、デジタルメディアの特徴をよく知るようにしていけば、これまでのノウハウも生かした施策が打てるはずです。

Q: 関心をお持ちのテーマは何ですか?

小澤氏 常に心理学的要素には関心があります。マーケティング、ブランディングとは突き詰めると心理学だと思うのです。人をどう動かすかということは、人の心の動き、思考に関連することであり、今後は更に重要性を増すでしょう。

また、最近「内部のブランディング」が注目されています。社外に向けてのブランディングのためにさまざまな発信をするには、社内の意識統一が図れていないと難しいのです。

社外への発信がぶれることのないよう、まずは社内のブランディングを行おうというものです。

この取り組みは、社員にどのように変わってもらうか、という点が重要です。人に注目してみると、心理学的要素は応用範囲が広くとても大事だと思いますね。

インタビューを終えて

自らもクロスメディアエキスパート認証を取得された小澤氏は、提案型人材へのシフトチェンジに際して、『まずは方法論と型を習得したうえで応用していくことが重要』とお話しいただいた。
また、マーケティングの根底にある生活者の購買行動における心理的側面は、『人が中心にある』これからの社会にとって重要な要素となりそうだ。

(聞き手 まとめ JAGAT資格制度事務局)
–JAGAT info 2018年10月号より転載–