デジタル印刷は一歩ずつだが、確実に進化している

掲載日:2019年9月9日

2018年度の日本のデジタル印刷の伸びは0.2%ということで、踊り場状態である。日印産連デジタルプレス推進協議会調査なので数字は尊重しなくてはいけないが、欧米やアジアが著しい伸びなのは衆知のことである。そんな日本で頑張っている印刷会社がある。

最初に紹介するのが有限会社「ねこのしっぽ」である。東急東横線新丸子駅に本社を構えているのだが、俗に言う大会社や老舗ではない。しかし、「ねこのしっぽ」は、アニメ好き、コミック好きの間では知らない人間がいないほどの有名印刷会社である。

文字で綴ると「同人誌印刷では特筆すべき」的な表現になってしまうが、社長さんが元々漫画を描いていて、その作品を印刷してもらおうと神奈川県内の印刷会社を回ったのだが、相手にしてもらえず、そういうことなら「自分で印刷してやる」との一念発起で、「ねこのしっぽ」が出来たということである。

アナログ印刷機も複数台稼働していて、総合印刷会社なのだが「何々印刷」的な名前を嫌って、「ねこのしっぽ」と名乗っている。創業当時は、犬派と猫派では犬の方に軍配が上がったと思うのだが(ワタシ個人的には犬派)、その当時に猫を選択したのは、なかなか見る目があったのだろう。

この印刷会社、もちろん同人誌だけではなく、全てに渡って過不足ない機能を持っているのだが、普通の印刷会社と異なっているのは、いわゆる漫画オタクが店(会社)に来ても違和感が全くないことだと思う。

社長さんも元クリエイター(現役?)なのだが、専務がいつも着流しで(着物姿)、展示会等でもこの姿で接客されている。この辺の文化がとても大きな差だと(私は)思っている。印刷品質ならウチの網点は「高精細」でとか、「FMスクリーニング」でとか、解像度は普通の会社より「50dpi細かく」していますとか?語るのだろうが、「ねこのしっぽ」の場合はその辺を超越した意思疎通があるということである。

私は印刷品質に関してうるさ方の一人であるが、写真を高精細にトーン再現もなめらかにするよりも、漫画をインパクトあるイメージで再現するとか、解像度よりも直線の墨線がビビらないようにとか、カラーマネジメントでも彩度保持のレンダリングインテントにすべきとか、工夫は色々ある。

直線がビビらないようにだったらFMスクリーンも一つの方法なのだが、平網が問題になる場合もあるので、網角度を振るとか、方法はいくつかある。要するに写真も大事なのだが、これから漫画化アプリや漫画を描くアプリもPhotoshopやIllustratorだけではなく、もっと手軽なツールがスマホ等で提供されてくるはずだ。このようなソフトが普及すると、今以上に漫画が街中にあふれ出すことになる。蛍光ピンクや特色等が今以上にもてはやされると想像している。写真再現とは異なるイラスト、漫画・CG等の印刷、そういう世界があるのだと認識しておいた方が良いということである。

次の会社は、何回かpageでも登壇いただいた「株式会社東洋美術印刷」である。現在、オセの連帳インクジェット印刷機が置かれている場所には、以前はフォーム印刷機が置かれていた。最初にデジタル印刷機のターゲットになったのは生命保険の約款類なのだが、現在は高級外車の取扱説明書もやっている。銘柄も言いたいところなのだが、超高級スポーツカーとだけ言っておこう。もちろん出版関連の仕事も混ぜている。デジタル印刷機の良さ、というか上手く回すコツの一つが、出版印刷、商業印刷、フォーム印刷、何々印刷と区別せずに、空いた時間にどんな印刷物も混ぜていくのが、デジタル印刷機の上手な使い方だ。同様に製本システムも汎用的なものの方が使いやすい。

東洋美術はインクジェット以外にトナー機も持っており、連帳インクジェット機のある「ふじみ野工場」にはキヤノン製のトナー機、本社にはFX製のC1000を有しており、使い方が異なっている。特に本社の方は、東洋美術がしかける様々なビジネス、文様百趣地域活性ビジネス等々とリンクしている。

最後は、世界的にはものすごく有名な、お茶のパッケージ印刷で有名な株式会社吉村だ。HPの世界的なユーザーイベントであるDscoopで、世界で一番生産性の良いIndigoとして表彰されているくらいである(軟包装で)。

吉村の製品は、一言で言えば冠婚葬祭用の特注パッケージや様々なグッズである。冠婚葬祭用としてのお茶は、現在の普通の日本人にとっては葬祭としての方がより馴染みがあるのではないかと思う。ところがIndigoで素敵なデザインパッケージを作成すれば、十分若い人にも冠婚用として通用するのは間違いない。

冠とはいわゆる元服、成人式や就職のご報告というイメージだが、これも素敵なデザインで行えば、七五三的に新しいブーム(ビジネス)を作り出すことが可能である(おじいちゃんが、大金を出して孫の七五三のお祝いをすること。写真業界にとっても大きなビジネス)。

紙を生業にしている印刷業界にとって、軟包装パッケージはあらゆる意味で、「隣の芝生は・・・」的に見えてしまうが、素敵なデザインで洒落たものは紙でも製作可能である。是非参考にしていただきたい。

また吉村のHPは女性社長のコラムが一つの売りになっている。私は、電子メールマガジン系は、ほとんど読まないのだが、京都の和菓子屋さんの女将がやっている電子メールマガジンは楽しみにしている。そんな雰囲気の社長コラムである。色々な意味で大変参考になる吉村である。

(JAGAT専務理事 郡司秀明)

以上の三社は、9月24日の研究会「印刷の価値を変える、デジタル印刷事例」で、登壇いただく。「ねこのしっぽ」と「東洋美術印刷」は、社長自ら語っていただく。「吉村」は、社長ではないが、取締役生産本部長に第一線からの報告をしていただく。目から鱗情報満載の研究会である。

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印刷の価値を変える、デジタル印刷事例

2019年9月24日(火) 14:00-17:00