地域資源のストーリー化に求められる「聖地創生」の視点

掲載日:2020年1月21日

聖地創生が注目されている。勿論、ここでいう聖地は宗教的意味ではない。近年、映画や小説など作品の舞台を訪ねるコンテンツツーリズムの一種として、アニメやマンガの舞台となった場所をファンが訪れる行為が聖地巡礼と呼ばれるようになり話題になった。コンテンツツーリズムが成立するような作品の舞台に選ばれるかは偶然に寄るところが大きかったが、ここから一歩進んで、作品を待つだけではなく、地域の元々持っている地域資源を武器にストーリー化やコンテンツ化し「聖地」を自ら作っていこうというのが聖地創生である。

聖地巡礼とは

聖地創生はコンテンツを作るところから考えていく手法であるが、まずはコンテンツが地域を活性化させた事例として聖地巡礼を元に考えてみたい。

作品の舞台になった場所を訪ねたいと思うのは自然な感情であり、作品のファンがモデルとなった場所を訪ねる行為は昔から行われていた。そんな自然発生的な行為が改めて注目を浴びるきっかけとなったのが、2008年のアニメ作品『らき☆すた』である。作中に登場した鷲宮神社にはファンが押し寄せた。2007年の正月三が日の参拝者数が13万人だったのに対し、2008年は2.3倍の30万人に増加。その後も2009年には42万人、2010年は45万人と増え続け、2011年に47万人を記録。以降は2017年までこの数字を維持している。一時の流行ではなく持続的な人気を得たと言えるだろう。

聖地創生の成功事例

では、実際に聖地となった場所ではどのように作品が展開されていくのだろうか? よくあるのが、作品に登場する場所をまとめた観光MAPの配布。地域限定グッズの販売などである。

鷲宮神社の場合も、イベント開催やポストカードやストラップなど鷲宮限定のグッズの販売などをするようになった。一時の流行では終わらせず、作品を地域の活力へと繋げるためには地域の協力が不可欠である。

聖地巡礼が地域活性に繋がった成功事例では、地域の積極的な働きかけが目立っている。2011年放送の『花咲くいろは』もその一つである。富山県南砺市に本社を置く制作会社のP.A.WORKSはアニメによる地域活性に意欲的な会社であり、放送前から舞台となる金沢の湯涌温泉とは協力関係にあった。そんな中、湯涌温泉から提案したのが作中最終話で登場する「ぼんぼり祭り」を実際に行うことである。これが実現し、「ぼんぼり祭り」は以降毎年開催されるようになる。今年の令和元年7月が第九回の開催となり、地域のお祭りとして根付き始めている。

印刷会社の関わり方

コンテンツツーリズムは作品の力で人を動かし、地域経済を刺激するものとして大きな注目を集めている。聖地創生の視点で考えた場合も、地域の持っている魅力をそこを舞台にした作品と掛け合わせてアピールすることは有効である。その際、地域に根差した印刷会社には様々な部分で強みを発揮できる。

例えば、観光MAPの配布はコンテンツツーリズムの定番だが、数度の配布で終わってしまうことが多い。後はWEB上でPDFを公開しファンが各自に印刷する形になりがちである。だが、地域の印刷会社であれば制作会社の知らない地域資源と橋渡しをしたり、印刷物を適宜補充するなどして継続的に展開することも可能となる。

こういった作品を呼び込むためには、ただ待つだけではなくフィルムコミッションのように積極的に誘致するという方法もある。そのためには、自分の地域の魅力を改めて問い直し、その地域のストーリーを分かりやすく伝えていく必要がある。また、地域の魅力を発見することができれば、作品にするという以外にも様々な手法が考えられる。

page2020では、そういった聖地創生の具体的な方法や事例、考え方のヒントなどを考えていく。今回は特に 富山県南砺市におけるアニメを活用のまちづくり事例などから、地域資源の再発見とストーリー化による地域活性化について議論する。

(JAGAT 研究調査部 松永寛和)

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