印刷工程を内製化。「デジタル印刷愛」でブックオブワンを実現したブランドオーナー

掲載日:2020年4月23日

JAGAT info 4月号ではキヤノンメディカルシステムズ株式会社(以降、キヤノンメディカル)が取り組む、ブランドオーナーによる印刷・製本工程内製化の現状について報告した。
今回はその一部を抜粋して紹介する。

自社製品マニュアル内製化プロジェクトが始動
 キヤノンメディカルは、東芝グループに属していた東芝メディカルシステムズが2016年にキヤノンの子会社になった企業である。医療機器事業としては100年以上の歴史を持ち、世界の医療機器をリードしている企業である。
 各装置には一つの製品につき10〜15種類ほどの冊子が必要になることもある。印刷物は量、種類ともに膨大な数に上っていた。そんな中、印刷物の大部分を内製化するプロジェクトが立ち上がる。ブランドオーナー自らが印刷を内製化した場合のメリットや課題、そして今後の印刷会社の役割について、ドキュメンテーション部 印刷・製本センター主任の兵藤伊織氏にお話を伺った。

 

省人化された設備でコンパクトに運用
 印刷・製本センターでは、本文印刷用にはインクジェットロールプリンターでCanon Production Printing(旧Océ。以降、CPP)のColorStream 6700 Chroma、表紙用には電子写真カットシートタイプのimagePRESS C10000VPを使用している。製本ラインでは、ホリゾンとフンケラーの製本機がSmart Binding Systemでつながっている。
 マニュアルはブックオブワンになっており、厚さの違う印刷物が次々に吐き出されていた。トラブルさえなければ最小2名で運用可能である。必要なものを適時に印刷し、各部署に配送。印刷機の稼働時間は一日平均4時間ほどで、毎日20万ページ、多いときには50万ページ以上を印刷している。

 

徹底した標準化でトラブル回避
 では、このセンターはどのように運営されているのだろうか。印刷が分かっている人は兵藤氏だけだった。印刷業務をこなしていくために、トラブルが起きにくい環境を整備している。
 例えば使用している紙は三菱製紙のインクジェット専用紙一種類だけである。サイズはA4とA5に絞っている。徹底的に標準化して同じ仕事が続くようにデザインされている。
 合理化はプリプレスの領域でも行われている。現在は作成されたマスターデータをWorkspace ProというソフトのAsuraという機能に投げ込むと、閲覧用PDFと印刷用PDFが吐き出される仕組みになっている。Asuraで19時から翌日の3時までの間に2000以上のデータを作成し、朝から印刷ができる準備をしておくという流れになっている。
 ポストプレスではジクス社の自動検査装置が完備されている。不良品はリジェクトされ、再印刷の指示が出される。再印刷や、至急の印刷物に関してはキヤノンのimagePRESS C850、C800といった機種で対応している。この部分は近日中にCPPのVarioPrint i300を増設し、より生産性を高めていく。
 一連のシステムによって、リードタイムは 2日短縮、生産コストは従来比約30%削減。生産工数は従来の半分になった。印刷内製化のプロジェクトは無事成功を収めたのである。

 

デジタル印刷でビジネスモデルを構築する
 兵藤氏は東芝時代から印刷と関わる部門で働いており、デジタル印刷の仕事を始めてから16年目のベテランである。JAGATのDTPエキスパートも10年ほど前に取得しており、理解できない設問があれば、JAGATの講師に問い合わせをして一つ一つ学んでいった。 デジタル印刷機は動かすだけならスキルレスで稼働できるが、何かあったときには知識の土台が必要である。今後は職場全体でレベルアップし、日本のデジタル印刷といえばここ、という場所に育てていきたいとのだと兵藤氏は語った。
 デジタル印刷の場合、上流でデータを奇麗にまとめることが重要である。この点ではブランド自身が内製化する方がやりやすいのは事実である。しかし、Asuraのような入稿データを自動で整形するシステムを使えば、ある程度はカバーできる。
 紙やサイズを統一することは、印刷会社の側から提案するのは難しい。しかし、コストダウンや納期短縮と合わせて提案すれば、ブランド側にとってもメリットのある話である。
 デジタル印刷の大きな魅力はビジネスモデルをつくれる点にある。小ロット化やブックオブワンで部数自体は減少し、売上高は減るかもしれない。しかし、人件費の削減などで結果的に利益が増えるような形に変えていくことができる。ビジネスモデルを組み替えて、売り上げが減っても利益が出るような構造に変えていくことは、印刷会社が成長性を担保していく上で有効な方法ではないだろうか。その具体的な方法として、キヤノンメディカルの取組は注目すべき事例であると言えるだろう。

(「JAGAT info」2020年4月号より抜粋)

(研究調査部 松永 寛和)