ブランディングと商標権

掲載日:2021年10月26日

ブランディングの重要性が高まる今、それを保護し価値を高めるための商標権が重要になる。

企業活動においてブランディングの重要性は増している。ブランドの理想形は消費者の心に宿ることであるが、そこに至るまでには、そのブランドを認知してもらい何度も思い出してもらう必要がある。そのきっかけとして、ロゴマーク、ロゴタイプ、ネーミング、キャラクター、色彩、音などのブランド要素とその組み合わせから、デザイン、クリエイティブで消費者に視覚的にわかりやすく表現し伝えることが重要だ。紙は目で見て手に取って感じることができるメディアであり、ブランド価値やその世界観を表現する上では優位性がある。

 

■ ブランド要素と商標権


ブランド価値を高める上で、商標権は欠かせないポイントだ。商標権とは商品・サービスを表現する目印、シンボルの保護を目的とした権利であり、「文字商標」「図形商標」「立体商標」「色彩商標」「音商標」など、様々な種類がある。例えば、文字はSONYといったネーミング、図形はロゴマーク、音で言えばイオンの電子マネーWAONカードが決済するときに奏でる「わおん♪」が代表的だ。いずれもブランドを表現する上で重要な要素であり、商標で保護できる種類と範囲は密接に関係していることがわかる。

 

幣協会の正式名称は日本印刷技術協会だが、通称名として「JAGAT(ジャガット)」を使用している。呼びやすさもあるのか、印刷業界の方と話しをするとJAGATで認知している方も多く、一種のブランドネームとなっている。ちなみにこの「JAGAT」はブランド保護の観点から2008年に文字商標として登録している。

 

表現×体験×商標で価値を高め守る


ブランドは認知度が広がり消費者の購買力が高まる一方で、競合から模倣されるリスクを考える必要がある。特に、ブランドネームやパッケージデザイン等、視覚的にわかりやすいものは模倣リスクが高い。

 

7~8年前に、ある印刷会社の冊子印刷サイトのブランド構築を支援し、そのサービスブランド名を「相談できる冊子印刷」とした。一見、普通のネーミングに見える「相談できる~」が大きく売り上げを伸ばす要因となった。印刷の発注に不慣れな顧客担当者からすると、データ入稿や原稿の手直しの方法、仕上がりはどうなるのか不安を抱いている。そうした“不”に対して「相談できる~」とネーミング化することで問い合わせが増えた。勿論、ネーミングだけではなく、「電話、メール、FAX問い合わせ方法は何でもOK」「24時間以内に回答」「何度でも無料で相談可」「完成本サンプル3冊無料」「原稿手直し無料」等、控えめな顧客が心理的不安を解消し相談しやすくなるよう、その対応を徹底することで、ブランドコンセプトを実感できる仕組みづくりもしている。ブランドネーミング×体験価値の相乗効果が「相談できる冊子印刷」ブランドを形成し、結果として大幅な受注増へとつながった。

 

その後、ブランドが浸透すると共に、相談できる冊子印刷のネーミングが他社のサービスでも見受けられるようになった。ネーミング等、目に見える表現は模倣しやすく類似サービスが増えるのは世の常である。ブランド価値は表現だけではなく、それを実現できるサービスやユーザー体験が付随されていなければ意味はなく、上辺だけの模倣であれば競合としては驚異ではない。しかし、仮に他社が「相談できる冊子印刷」について、文字商標、類似したロゴマークの図形あるいは結合商標を登録すると、自社が利用できなくなる恐れもある。そうした場合のブランド価値の低下、機会損失は多大なものになる。そのような事態を防ぐためにも、商標によるブランドの保護は非常に重要なものになる。

 

印刷会社が今後、新事業を取り組む上で、自社ブランドのBtoC向けの紙加工商品を開発して販売したいとの声も多い。その場合、商品のブランドを保護し価値を高めるには商標権の登録は重要な戦略の一つになる。特許庁によると、中小企業の商標権出願数は、過去10年で85%増の8万3007件と大幅に増えている。印刷業界においても、ブランディングと商標は重要であり注目しておきたいテーマではないだろうか。

 

JAGAT 塚本直樹

【関連講座】
ブランド構築とその価値を高める商標・意匠 (2021年11月9日開催)