標準原価と実際原価

掲載日:2015年5月12日

受注生産で一点一点製品仕様の異なる印刷物の生産において、製造コストを個別に把握することは容易ではない。標準原価と実際原価の二つの考え方を紹介する。

標準原価

標準原価は、製造部門にとっては営業部門に対する社内販売価格であり、営業部門にとっては製造部門からの仕入れ価格となる。“仕切り価格”とも呼ぶ。
原則として、同じ仕様の仕事であれば、作業者、作業時間、受注価格に関わらず常に一定である。そのため販売価格や生産効率の妥当性を評価するぶれない物差しとして機能する。受注一品別の粗利益(販売価格から仕切り価格の合計を引いた残り)を見れば、販売価格の妥当性が評価できるし、製造現場では作業単位で標準原価(標準作業時間)と実際原価(実際作業時間)を比較すれば、作業効率を評価することができる。
また、ある期間(月次、年次)の仕切り価格(実績)の合計を製造部門の売り上げとみなし、その期間の実コストと比較することで、期間の部門損益管理ができる。

標準原価の難点は、作業ごとに標準作業時間を設定しにくいことである。印刷物は基本的に個別受注生産であり、一品ずつ仕様が異なることが大きな原因である。例えば、DTP組版(A4サイズ)の標準原価を設定しようとすると、作業者のスキルによっても作業時間は変わるし、同じ作業者でも組版の内容によって作業時間が大きく変わるので、“難易度”というような主観的要素の強い要素ごとに設定せざるを得ない。主観的な要素が入ると日々の運用においても「その仕事の難易度はAかBか」という判断が都度必要という煩わしさがある。
しかしながら、標準作業時間は目標作業時間という意味合いもあり、生産以前にその目標に合わせようと意識して、作業をコントロールする動きが生まれることは生産性向上に大きな意義がある。

実際原価

作業者や設備が制作・製造にかかった実際の作業時間から算出する。実際原価=作業実績時間×基準時間コスト という計算式となる。基準時間コストの算出方法は年間コスト(固定費)÷年間作業(稼働)時間で計算します。部門や設備が複数ある場合は、部門別あるいは設備別にそれぞれ算出する。
企業のコストは大きくは固定費と変動費に分けられる。固定費とは売上があってもなくても同じように発生するコストであり、例えば人件費、減価償却費、家賃などが該当する。変動費は売上の上下によって変動するコスト、例えば、用紙代や外注加工費が該当する。基準時間コストを計算するときには固定費を用いる。総務や経理部門などの間接部門の固定費は、人員比率などのルールに基づいて部門や設備別に配賦する。
実際原価とはいうものの、固定費にしても稼働時間にしても、ある想定条件に基いたもので、みなしの原価である。
そこで、会社によっては月次や年次で経費を締めたあとに稼働時間実績と時間コストを再計算し、改めて受注一品別の実際原価を再計算している。これを行うと受注一品別の原価の合計が決算書の経費合計と一致する。ただし、手間がかかるので、ここまでやっている印刷会社は稀である。また、稼働率など想定と実際の差異を分析することも重要である。
なお、標準作業時間×基準時間コストが標準原価となる。
実際原価を用いた管理の弱点として、作業効率を評価しづらいことがある。作業時間が3時間だったとして、その時間が妥当かどうかの判断が難しい。特にDTP作業では個人差が大きくなりがちである。受注金額は一つの評価指標となるが、競合他社の動向や得意先の都合などでぶれることが多く、作業効率の評価指標としては妥当性を欠くことがある。年間で集計するなど統計処理をして、ばらつきをおさえてからの判断が求められる。

(JAGAT CS部 花房賢)