投稿者「Hiroyuki Chiba」のアーカイブ

進化するDTPエキスパート

DTPエキスパート認証試験は、『DTPエキスパート・カリキュラム』で規定された範囲に基づいて出題されている。このカリキュラムは、認証制度の創設時に第1版を発行して以来、2年ごとに改訂を重ねてきた。

このたび、最新版として DTPエキスパート・カリキュラム 第16版が公開された。

カリキュラム改訂は、 主 にこの2年間に新たに出題された項目や内容の反映である。つまり、新たな技術・サービスやビジネス環境、社会情勢などに応じた内容となっている。そのほか、カリキュラムの全体構成・内容について、随時、見直しを図っている。

今回は、以下の項目が追加されており、これらのポイントと背景について触れてみたい。

和文書体

国内で日常的に使用されているもっとも代表的な和文書体の明朝体とゴシック体、各々の由来と特徴、用途。

書体選択手法

書体は、どのような基準で選択すべきか。媒体の特性や想定される読み手にとって適切な書体とは何か。同じ書体ファミリーでもウエイトによってどのような差異があるか。

合成フォント機能

InDesignやIllustratorに搭載されている「合成フォント」の機能や用途。和欧文フォントのバランス調整が容易で、効率よくフォント設定ができる。
元々は電算写植において、和欧混植の作業効率化のために搭載されていた機能。後にユーザーの声を反映してInDesignに搭載された。

特色印刷と2色印刷

特色印刷・2色印刷(ダブルトーン)とは何か。プロセスインキ・プロセス印刷との違い。どのような用途で使われ、どのような効果があるか。

紙幣の印刷と偽造防止技術

国内では年間約30兆枚の紙幣が発行されており、紙幣はもっとも身近な印刷物だといえる。2024年、20年ぶりに新紙幣が発行された。世界有数の高度な印刷技術が取り入れられ、偽造防止が図られている。

生成AI

生成AIによって、さまざまな分野の高度なコンテンツ生成が実現できる。デザイン・印刷分野でも、活用が広がっている。

ISMS認証とプライバシーマーク制度

ISMS認証とプライバシーマーク制度は、ともに情報セキュリティ分野の公的認証制度であり、さまざまな分野、業界で定着している。これらの概要と特徴、印刷業界における意義・活用方法など。

試験を受験しようとする方々は、過去の問題集や受験参考書を購入して勉強を始めるケースが多いようだ。しかし、最も参考になるのは、実はカリキュラムを熟読することである。

DTPエキスパート・カリキュラムでは、出題範囲やレベルが、平易、かつ簡潔に記述されている。
DTPや印刷の技術的な解説だけでなく、印刷を取り巻く環境、現在の印刷ビジネスに求められる要素や今後の方向性を理解することができる。

このカリキュラムを熟読することで、エキスパート試験の出題傾向やレベルが総合的に理解できる。例えば、情報デザインやマーケティングなどの新しい分野では何が重要なのか把握することもできる。その後に、さらに細かい分野を掘り下げて勉強すると良いだろう。

DTPエキスパート・カリキュラム第16版は、Webページでも全文を公開している。

エキスパート試験を受験する際は一読することをお薦めしたい。

DTPエキスパートカリキュラム 第16版

(資格制度事務局 千葉 弘幸) 

オンデマンド印刷とオンデマンド出版の動向

ンデマンド印刷とデジタル印刷

オンデマンド(On-Demand)とは、一般に「要求・需要に応じて」を指す言葉である。

印刷業界でオンデマンド印刷、POD(Print On Demand)といえば、電子写真方式、またはインクジェット方式のデジタル印刷機を指すことが多い。

しかし、プリンターメーカーによっては、乾式トナーの電子写真方式デジタル印刷機だけを慣用的にオンデマンド印刷、またはPODと呼んでいる。その場合、大判プリンターや校正用インクジェットプリンター、高速のハイエンドインクジェット機、ロール式インクジェット機などを含まないようだ。

短納期・小ロットの印刷サービスをオンデマンド印刷と呼ぶ人もいる。
しかし、オフセット印刷で短納期・小ロットを標榜したサービスは、ネット印刷などでごく一般的におこなわれている。

さらには、ほとんどの印刷サービスは見込み生産ではなく、受注生産である。要求・需要(つまり注文)に応じて生産することは、ごく普通で一般的だともいえる。

要するに、オンデマンド印刷・PODとは、印刷サービスやビジネスモデルを指す形容詞であって、印刷方式を指す言葉としては相応しくないといえる。

印刷方式を指す場合は、「物理的な版ではなく、デジタルイメージが版の役割を果たす無版印刷方式」を「デジタル印刷」とし、主要メカニズムとして電子写真方式とインクジェット方式があるとすべきだろう。

定着したオンデマンド出版サービス

一方、「オンデマンド出版」という言葉は、出版手法・出版ビジネスを表すものとして定着している。

オンデマンド出版には、大きく2つの概念がある。1冊単位で印刷・製本することをブックオブワンといい、主にECサイトなどで実現されている。

また、オフセット印刷では対応できない小ロットの重版などを、小ロット・デジタル印刷、またはDSR(デジタル・ショートラン)と呼び、区別することがある。

米国では、1冊単位で注文を受け、デジタル印刷にて書籍を製造・出荷するオンデマンド出版サービスが早くから定着している。取次大手イングラム傘下のライトニングソース社は、数10台規模の高速インクジェット・フルカラーデジタル印刷機を設置し、AmazonなどのECサイトやイングラム系列の書店、出版社などから1冊単位、または数10冊程度の注文に応じて印刷・製本を行っている。書籍データを予め預かり、注文から24時間以内に印刷・製本し、出荷する体制である。

国内では、2010年に三省堂書店の神保町本店が米OnDemand Books社の「エスプレッソ・ブック・マシン」という電子写真式モノクロプリンター・ベースのデジタル印刷・製本機を導入し、オンデマンド書籍の販売サービスを開始した。コーヒー一杯程度の待ち時間で紙の書籍を受け取れることから、「エスプレッソ」と名付けられたとのことである。取り扱い可能なリストから必要な書籍を選択して注文すると、10分程度で1冊だけの印刷・製本をおこない、手渡してくれる。

その当時、かなりの注目度があったように記憶している。洋書の学術専門書の他、和書も扱え、将来的には品切れ書籍や洋書・大活字本の販売、自費出版や学校・企業等で利用するテキストの印刷・製本にも対応するとのことだった。
三省堂書店オンデマンドは現在も継続中)

Amazonは、早くからオンデマンド書籍の販売を実現している。利用者が「オンデマンド(POD)版」、または「ペーパーバック」などと表記された書籍を選択して注文すると、Amazon社内のデジタル印刷工場で、1冊単位で印刷・製本し、購入者に発送する仕組みである。

出版社にとっては、印刷・製本・用紙など初期費用がかからない、書籍データ預けるだけの在庫レス方式のため保管費用などがかからない、販売不振による返本リスクがないというメリットがある。例えば、電子版(Kindle本)とPOD(ペーパーバック)版を並行して販売し、読者の利便性やニーズに応えている場合もある。

インプレスとメディアドゥが2022年に合弁で設立したPUBFUNは、個人や小規模出版社向けにPOD書籍と電子書籍の取次サービスを提供している企業である。

Amazon PODや三省堂書店、楽天ブックスといったECサイトで、POD書籍や電子書籍を出版したい個人・企業のデータ準備、入金管理などを代行する。売上から印刷費・手数料を差し引いた金額を版元に支払うレベニューシェア方式のため、依頼者は出版初期費用を大幅に抑えることができ、低リスクの書籍出版を実現することができる。

このようにブックオブワンのオンデマンド出版は、デジタル印刷の品質・生産性向上や、ECサイトでの書籍販売が一般化したことによって実現したといえる。販売部数が見込めない専門書・技術書や品切れ本、個人出版などの分野で定着している。

出版社による小ロット対応・内製化

オンデマンド出版とは別に大手出版社が自社内にデジタル印刷機を導入し、小ロット出版に取り組む事例も増えつつある。

ある出版社では、自社グループ内にデジタル印刷・製本機を導入し、コミックスや新書・文庫の重版対応に利用している。また、新刊発行前に目利きの書店員に配布するプルーフ本(校正データを印刷・製本した見本版)を内製化している。

数10部~数100部といった極小ロットの印刷・製本、重版を自社内で行うことで、読者や著者の要望に応えられ、機会損失を解消することができる。読者、著者、出版社の3者にとって有益であり、今後も拡大が見込まれる。

また、ある出版社では、図解・グラフの多いサイエンス系新書の新刊に取り組んでいる。オフセット印刷では割高となる小ロットのフルカラー化を実現でき、好評を得ているという。

2019年、リチウムイオン電池の発明でノーベル化学賞を受賞した吉野彰博士が、自分の原点は少年時代の愛読書『ロウソクの科学』(マイケル・ファラデー著)であるとコメントし、話題になったことがある。
KADOKAWA はその翌日に同書の緊急重版を決定、自社のデジタル印刷機器で印刷・製本し、わずか2営業日で書店に並べたという。最終的に、10万部ほど販売したとのことである。
デジタル印刷設備を保有しているKADOKAWAならではの動きであり、出版流通の新しい姿だといえる。

(JAGAT 研究・教育部  千葉 弘幸) 

コミック同人誌と広色域印刷・RGB印刷

広色域印刷とは、一般的なCMYK4色のプロセス印刷を越えた色域を再現することである。昨今、デジタル印刷機を用いた広色域印刷が「RGB印刷」と呼ばれており、利用が広がっている。

多色プロセス印刷による広色域再現

オフセット印刷では、早くから多色プロセス印刷による高彩度・広色域印刷の取り組みが行われてきた。

例えば、「ヘキサクローム」は、1995年に米国Pantone社が特許取得した6色プロセス印刷方式である。高彩度のシアン・マゼンタ、蛍光顔料を含むイエロー・オレンジ・グリーンインキなど6色を使用する。各国のインキメーカーが、Pantone社のライセンスを受けてこれらのインキを提供している。また、Pantone社は、専用の6色分解ソフトウェアを提供している。ヘキサクロームは、Adobe RGB相当の色域をカバーし、Pantoneの特色の約90%を再現可能としている。

また、ハイデルベルグ社でも、CMYK+RGBの7色プロセス方式による広色域印刷、「Hi-Fiカラー」や「Super Fineカラー」を提供している。通常の4色プロセス印刷は、CMYKの掛け合わせでRGBを表現するため、濁り成分が発生する。RGBインキに置き換えることで、濁りの少ない高彩度・広色域を実現するという。

このような多色プロセス印刷が可能になった背景には、CTPによって版の品質や見当精度が向上したこと、FMスクリーニングによってモアレの少ない多版印刷が可能となったことが挙げられる。

しかし、版数が増え、専用インキを使用するため、通常の4色プロセス印刷より割高となる。多色分解であるため、校正や印刷も調整が必要となる。このような制約があるため、大部数を前提とするパッケージ分野以外では普及していない。

広色域インキによる4色印刷

その後、広色域のCMYKプロセスインキも提供されるようになった。代表的なものが、東洋インキのKaleido(カレイド)である。4色だけでオフセット広色域印刷を実現し、Adobe RGBの大半をカバーすることが可能である。

ICCプロファイルが提供されており、モニターやプリンターのRGB表現をオフセット印刷で再現することが容易となっている。UV対応などインキの種類も増えており、対応する印刷会社が増えつつある。

6色、または7色プロセス印刷と比較すると、手間や調整、コスト面でもメリットが多い。ただし、オフセット印刷であるため、大部数でなければ採算が取れないという課題は残されている。

デジタル広色域印刷とRGB印刷

現在、コミックやCG・イラストの多くはパソコン上でデジタルデータとして制作されている。そのため、モニター上で表現される鮮やかな色彩を印刷物で再現できないかという要請は、年々増えている。

近年では、広色域印刷に対応したインクジェット印刷機や多色プロセス印刷が可能なトナー方式デジタル印刷機などが提供されている。これらの機器では、広色域のRGBデータをJapan Color 2011 Coated(オフセット枚葉印刷・コート紙における標準)の色域に圧縮することなく、再現することができる。デジタル印刷であるため、小ロットでもリーズナブルな価格設定であり、実用性が高い。校正・本機の区別もない。

ネット通販型の印刷会社では、これらの機器を利用して広色域を再現する方式をRGB印刷、ビビッドカラー印刷という名称でアピールし、コミック同人誌やCG・イラストなどの分野で利用が増えている。これらはRGB入稿を前提とし、RGBの色域の多くを再現できることから、「RGB印刷」と呼ばれるようになった。

コミック同人誌の市場と動向

コミックマーケット(通称コミケ)は、同人サークルが自作のコミック作品を持ち寄る同人誌即売会であり、1975年に始まった。2010年代には1回に50万人以上が集まる規模となった日本のオタク文化を代表するイベントである。近年は、海外からの来場者も増えている。

矢野経済研究所が2023年に実施した「『オタク』市場に関する調査」によると、同人誌の市場規模は、消費金額ベースで1,000億円規模(2023年)と予測しており、年々拡大している。

このような同人誌の印刷を受託しているのは、主にネット通販型の印刷会社である。オフセット印刷、またはデジタル印刷で製作し、イベント会場に納品することが多い。ただし、同人誌のほとんどは、数100部以下の少部数である。
昨今は、RGBの印刷データを入稿し、デジタル印刷機で広色域・ビビッドカラーで印刷するRGB印刷サービスが拡大している。

(JAGAT研究・教育部 千葉 弘幸)

WebページでのPDF参照が好ましくない理由

PostScriptとPDFの違い

PC上で文字や画像をレイアウトするDTPが発展したのは、ページ記述言語(プリンター制御言語)であるPostScript技術という基盤があったからこそである。
単一のレイアウトデータからモノクロやカラーのプリンター、またはフィルムセッターへの分版と用途や解像度に応じて出力できること(デバイス・インディペンデントと呼ばれている)は、文字通り画期的であり、その後の印刷技術の革新に繋がったといえる。

PDFは、PostScriptからプログラミング要素を取り除き、ジョブ単位ではなくページ単位で扱えるように変更したものである。電子ドキュメントフォーマットとして誕生した。
フォント埋込みが可能であり、レイアウトを完全な形で維持できるという特徴がある。汎用的な電子ドキュメントのフォーマットとして、Webでの情報発信・交換が日常的となった現在でも、広く利用されている。

印刷データ交換におけるPostScriptは、その後、PDFに置き換えられた。出力デバイスの方式・解像度に依存しないという利点はそのままで、ページの入れ替えやフォント埋め込みが容易という機能が追加された。そして、ワークフローRIPと呼ばれるPDF-RIPが普及したことで、さまざまな印刷トラブルが激減し、信頼性が向上したといえる。

つまり、現在のPDFは電子ドキュメントとして世間一般に広く利用されている一方で、印刷業界では、印刷データ交換技術として重要な役割を果たしている。

詳細情報がリンク先のPDF

少し前、ある印刷系のイベントで、数多くのセミナー開催が予定されていることを聞いた。その内容を確認しようとWebサイトを見てみた。
しかし、Webページにはセミナーの日時・場所・タイトル・講演者・内容・申込方法などの掲載がなかった。リンク先のPDFを参照せよということであり、そのURLが記載されていた。
そこには、パンフレットとして配布したと推察される冊子のPDFがリンクされており、これを表示すると、何ページ目かにこれらの情報が掲載されていた。

近年は、このようにWeb掲載(つまりHTMLベースでの情報発信)を省略して、PDFだけで済ましてしまう例は少なくなった。しかし、残念ながら、官庁自治体のドキュメントや1部の広報物では、このような例が残っている。

Web上のPDF参照が好ましくない理由

第1に、検索エンジンがPDFの中身を適切に評価せず、検索できないことが挙げられる。
現在、多くの情報がWebサイト上で見つけられ、閲覧されている。そのために、ほとんどの人はWebブラウザー上のGoogleやBingなどの検索機能を利用している。

これらは、ロボット型検索エンジンとも呼ばれている。簡単にいうと、世界中のWeb上のページ情報をWebクローラーというロボットが自動で収集し、あらかじめデータベース化しておく。ユーザーが入力した検索キーワードをもとにデータベースに登録されたページをランク付けし、上位ページを表示する仕組みである。その結果、われわれは必要な情報に瞬時にアクセスできるようになっている。

検索エンジンがランク付けする際、Webページの内容に応じて重要度が反映される。例えば、HTMLの見出し項目になっているかどうか、他のサイトからの被リンクが多いかなどである。
リンクされたPDFの中身については重視されず、検索結果の上位に残らないことが多い。

第2に、PDFはモバイルフレンドリーではないことである。現在、Webを閲覧するデバイスの比率として、スマートフォンは80%に達するといわれている。企業向け・ビジネス向けの内容であれば、PCの比率がやや多くなる。とはいえ、スマートフォンなどのモバイルデバイスが主流であることは確かである。

さて、スマートフォンでPDFを表示するとどうなるか、いうまでもない。ページサイズがA4程度のPDFをスマートフォン上で全体表示しても、ほとんどの文字は読めない。一部分だけを選択し、拡大表示すると、その部分の文字は読めるが、全体はわからない。多くの人は、途中で読むことを断念してしまうだろう。

Webの世界では、レスポンシブWebデザインが定着している。つまり、PC画面とスマートフォンのように、デバイスごとに表示を最適化する技術のことである。デバイスや環境によって表示が左右されないPDFとは、相反する考え方だといえる。

第3に最新情報が反映されにくいことが挙げられる。WebでリンクされたPDFの多くは、チラシやパンフレットとして制作される印刷物を元にしている。印刷物は、一般に企画・制作から校正まで何重にもチェックを行ない、丁寧に作られているため、信頼性が高いとされている。

しかし、印刷物であれば、制作時以降の修正・変更を反映する機会はほとんどない。結果として、リンクされたPDFに最新情報が反映されることは期待できない。

電子ドキュメントとしてのPDF、および印刷データ交換のためのPDFは重要な技術であり、大きな役割を果たしている。
しかし、Webページに印刷用PDFを貼り付けても利用されにくいこと、存在を認めてもらえない可能性があることは、改めて周知されるべきだろう。
(手元のプリンターで印刷するために印刷用PDFをリンクすることは有用である)

(JAGAT 研究・教育部 千葉 弘幸)

拡がりつつあるEdTechサービス

「GIGAスクール構想」により小中学校に学習端末が整備され、ITを活用した教育基盤・環境であるEdTech サービスの利用が広がっている。

「GIGAスクール構想」とEdTechサービス

近年、教育分野ではデジタルトラスフォーメーション(DX)が進展している。
文部科学省の「GIGAスクール構想」は、全国の小・中学生に1人1台のタブレットやノートPCを配布し、ICTを活用した教育を実践する事業である。2019年から始められ、2022年度末時点では全自治体の99.9%においてこれらの学習端末が配備された。

EdTechとは、EducationとTechnologyを組み合わせた造語であり、ITを用いて教育を支援する仕組みやサービスの総称である。児童・生徒向けの学習支援システム、教師のための授業支援システム、英会話やプログラミングなどをインターネット上で学習するサービスや学校の内外で利用するSNSなども含まれる。経済産業省や総務省も、これらのサービス導入を促進する助成金制度を設立し、支援している。
野村総合研究所は、タブレットなどのハードウェアを含まない国内のEdTech市場を2021年度は2674億円と推計しており、2027年度には 36%増の3625億円に伸長すると予測している。

EdTechとして提供されている技術・サービスは、学校向け、塾向け、個人向けに大別される。さらに社会人向けのリカレント教育やリスキリング教育も、EdTechによってより活発化することが考えられる。

このようなインターネットを通じた技術やサービスによって、さまざまな分野の良質な教育コンテンツが有効活用され、機会均等や教育格差の解消が進む可能性もある。

EdTechサービスの広がり

学習ポータル・プラットフォームとしては、「まなびポケット」(NTTコミュニケーションズ)、「Classi」(クラッシー)、「L-Gate」(内田洋行)などがあり、学習コンテンツにアクセスするためのポータル機能のほか、教材管理、利用者管理や校内SNS などの機能がある。

また、大量の答案紙をスキャンして一括採点する採点支援ツールとして、「EdLog(エドログ)」や「リアテンダント」(大日本印刷)、「YouMark」(佑人社)などがある。教師が自作したテストでもPDF化して採点し、その結果を集計・分析することができる。

授業支援ツールには、デジタル教材と連携してプリント作成や授業プレゼンテーションをサポートする「Studyaid D.B.」(数研出版)がある。

「T-GAUSS」(東京書籍)は、教科書・問題集・参考書の問題、高校・大学入試問題が収録されたデータベースを利用し、プリントやテストを作成するデジタル教材ツールである。

「スタディサプリ」(リクルート)は、講義動画を中心とするサイトで、サブスクリプション方式のオンライン学習サービスである。小中高校生向け、大学受験講座、社会人向けの英語・英会話コースなどもある。また、「スタディサプリfor TEACHERS」は教師向けの学習管理サービスで、宿題配信機能や生徒の学習進捗を管理する機能などを備えている。

スタディプラスが運営する「Studyplus」は学習記録に特化したプラットフォームである。無料で登録・利用でき、どの教材を何時間・何ページ、また何を学習したかを記録することで、学習履歴を可視化し、他のユーザーと比較することができる。また、月額税込980 円で200点以上の電子版学習参考書が使える「Studyplusブック」も運営している。

ポプラ社の本と学びのプラットフォーム「MottoSokka!(もっとそっか)」は、児童書や一般文芸書など、34社約3700件(2023年9月現在)の電子書籍が読み放題のサービス「Yomokka!(よもっか)」と、同社の百科事典をベースとした調べ学習サービス「Sagasokka!(さがそっか)」で構成されている。

学校教育に加え、塾や予備校、通信教育、学習参考書など、あらゆる方面の教育・学習環境が、EdTechサービスによってボーダーレスになりつつあるといえるだろう。

(JAGAT 研究・教育部 千葉 弘幸)

普及が進むオンライン学習ツール

運転免許更新時のオンライン講習

個人的な話で恐縮だが、2024年3月に運転免許の更新手続きを行った。ご承知のように、通常の更新手続きは都道府県の免許センターか警察署での手続きが必要である。

案内が来て初めて知ったが、講習区分「優良」を対象に「オンライン講習」が可能だという。調べてみると、2022年頃より全国では「北海道」「千葉」「京都」「山口」で、モデル事業として実施されており、2024年度以降に全国展開するようだ。

筆者は千葉県在住であり、更新タイミングが当該期間に当たるため、そのような案内が来たのである。
(※千葉県では2024年5月時点で「優良」「一般」が対象)

運転免許の更新・交付手続きそのものではなく、「講習」だけのオンライン化である。しかし、自宅で時間の制約なく、休日でも夜間でも受講できる。当日の交付手続きも簡略化されるため、十分にメリットを感じるものであった。

「オンライン講習」は、最低限、マイナカード+スマートフォンがあれば受講できる。スマートフォンでマイナカードのICチップを読み取り、受講者の本人確認をおこなう仕組みである。また、内容を正しく理解しているか、簡単なテストが数回、組み込まれている。

免許更新手続きの1部がオンライン化することは、ある種のDX(Digital Transformation)ともいえる。将来的には免許証とマイナカードの一元化、免許申請費用の支払いなどとの連携、あるいは手続きすべてをオンラインで完結する可能性もある。

今後、さまざまな分野でこのようなオンライン化、DXが進展することは確実だろう。

検定・試験で導入が進むCBTとIBT

検定・試験などでも、各地のテストセンターに設置されたパソコンを利用して受験するCBT(Computer Based Testing)、自宅などからリモートで受験できるIBT(Internet Based Testing)の導入が増えている。IBTはWBT(Web Based Testing)と呼ばれることもある。

CBTとIBT、WBTという名称自体は、ほぼ同等の内容を意味している。どちらの仕組みも、コンピューターとインターネットを使っており、違いは明確ではない。

違いが明確な言い方に置き換えるならば、指定された会場に出向き、本人確認した上で入場し、用意されたパソコンで受験する方式が「会場型CBT」だといえる。受験者が意識することは少ないが、複数の監視カメラにより、不正行為などがないことをチェックされている。

また、場所やデバイスを特定せず、インターネット経由でログインし、何らかの方法で本人確認を行い、受験することは、「リモート型IBT(WBT)」といえる。

既に、さまざまな資格・検定で「会場型CBT」や「リモート型IBT」が導入されている。例えば、「英検」や「日商簿記」のように厳密な本人確認が必要な資格等は「会場型CBT」が多く、より広い対象向けの検定などは「リモート型IBT」が多い。

近年では、AI監視機能や顔認証などを利用して厳密な試験運営を行うリモート型IBTも可能である。

資格・検定では、これらのように本人認証・不正防止が重要課題となるが、さまざまな手法で対応されつつあり、今後はリモート型IBTの利用が広がる可能性がある。

オンライン予備校・学習ツールの普及

近年は、小中高生や受験生向けの映像配信を中心としたオンライン予備校(サブスクリプション型の学習サービス)が著しく成長し、普及が進んでいる。代表的なものに「スタディサプリ」「東進オンライン学校」などがある。

これらのサービスでは、インターネット環境で授業の映像配信し、テキストが配布され、ドリルやテストなども実施できる。塾や予備校に通う必要がなく、自宅などで学習できる。

有名講師など、質の高い授業を全国どこからでも、都合の良い時間に受講することができる。
通学が不要のため、勉強時間を増やすこともできる。スマートフォンだけで完結できるため、すき間時間を活用して、電車内などで学習することも容易である。

自分のペースで進められるため、苦手分野などを重点的に学習することも可能である。また、従来の塾・予備校と違い施設・建物が必要なく、比較的費用が安価である。
従来の塾・予備校などが、これらのデジタル学習ツールに置き換わり、主流となる可能性もあるだろう

また、社会人向けの英会話や資格試験向けのサブスクリプション型オンライン学習ツールも、多数提供されつつある。教育・トレーニングの分野でも、リモート学習ツールの利用が広がっていくことが想定される。

DTPエキスパートとオンライン学習

DTPエキスパートの学科試験は、2024年3月より会場型CBTに移行した。初回ながら、全国41ヶ所のテストセンターが使用されている。つまり、地方での受験ニーズが存在していたことが改めて認識されることとなった。

試験会場が遠いため、受験を見送られていた方が、改めてチャレンジしたいとなるかもしれない。おそらく、今後も徐々に会場数が増えていくこととなるだろう。

また、近日中にDTPエキスパートのオンライン学習ツール(ドリル方式)を提供する予定である。パソコンやタブレット、スマートフォンによって、すき間の時間を活用した学習に対応できるようになる。

(JAGAT研究・教育部 千葉 弘幸)

【CBT方式完全対応eラーニング教材】DTPエキスパート学科問題演習ドリル | JAGAT

第61期DTPエキスパートとCBT移行を振り返る

第61期DTPエキスパート認証試験は、2024年3月8日(金)・9日(土)に実施した。今回より、全国300ヶ所以上のテストセンターに設置されたパソコンで試験を受けるCBT方式に変更された。

DTPエキスパート試験CBTの実施状況

今回の学科試験は、全国で300ヶ所以上のテストセンターで受験可能なCBT(Computer Based Testing)方式に変更された。会場型CBTとも呼ばれるもので、各地のテストセンターに設置されたパソコンを利用して、試験を受ける方式のことである。

受験者が所定の日時にテストセンターに出向くと、受付で本人確認が行われ、スマートフォンや腕時計、筆記用具など私物をロッカーに保管した上で入室が許される。室内は1人ずつパーティションがあり、パソコン一式が設置されている。指示に従ってログインすると、各自の試験が開始される仕組みである。

CBT会場では、隣席の人が何の試験を受けているか一律ではなく、開始・終了時刻も一斉ではない。つまり、テストセンターとは「試験会場シェアリング」の一形態だといえる。

近年は、さまざまな分野でオンライン申請・手続きを行うことがあるため、第61期DTPエキスパートCBTの事前申請・手続きも特別なトラブルや混乱もほとんどなく進められた。
当日の試験会場でも、大きなトラブルなく120分の試験が行われた。

従来の3月試験は、東京・名古屋・大阪・福岡の4会場で実施されていた。今回は、41会場の申請があり、試験が実施されたとのことである。

また、従来のDTPエキスパート試験との違いとして、制限時間の変更、一斉試験から2日間開催への変更が挙げられる。

・[120分×2部制:トータル240分] → [120分1部制]

・[全国の会場で同時刻に開始する一斉方式] → [申請時に試験日と開始時間を選択する方式]

CBTの機能で出題順や出題内容を個々に設定できるため、問題漏洩や不正行為のリスクが少ないとして、このような方法を採用している。

第61期DTPエキスパート認証試験講評 | JAGAT

DTPエキスパート試験CBTのインターフェイス

DTPエキスパート試験のCBTは、パソコンの画面左側に問題文などが表示されるが、一部に空欄がある。画面右側には、対応する文言の選択肢が表示されている。適切なものをラジオボタンで選択するだけである。よく見慣れたインターフェイスであり、ほとんどすべての人は、説明なしに試験を始められる。また、画面の右上には、残り時間が表示される。

ただし、人によっては周囲にさまざまな試験の受験者がいる環境に慣れず、集中できなかった様子もある。そのような場合は、耳栓をするなどの対策をとる。
(会場でもイヤーマフ、耳栓が用意されている)

結果として、DTPエキスパート試験CBTは、申請・当日の運営・試験結果とも、概ねトラブルなく実施できた。

DTPエキスパートは、これまで全国4~6会場程度の試験しか実施していなかった。
今後は、全国300ヶ所以上に設置されたテストセンターが利用できる。全都道府県での受験が可能であり、遠方に出向くこともかなり少なくなるだろう。

(JAGAT 研究・教育部 千葉弘幸)

2024年8月実施試験要項を公開 | JAGAT

検定・試験で導入が進むCBT

コロナ禍の影響で普及

2020年以降のコロナ禍によって思うように出社も訪問もできない状況となり、企業やオフィスではリモートワークやリモート会議が浸透した。
また、小中学校では、児童・生徒1人1台にタブレットなどのデジタル端末を配布するGIGAスクール構想が前倒しで実施された。

学校教育以外の検定・試験などでも、デジタル化が進展している。
多くの検定・試験ではCBT(Computer Based Testing)の導入が拡がっている。CBTとは、各地のテストセンターに設置されたパソコンを利用して、試験を受ける形態のことである。

受験者がテストセンターに出向くと、受付で本人確認が行われ、スマートフォンや時計、筆記用具など私物をロッカーに保管した上で入室が許される。室内は1人ずつパーティションで仕切られており、パソコンが備え付けられている。
隣の人が何の試験を受けているか一律ではなく、開始・終了時刻も一斉ではない。つまり、テストセンターとは、試験会場シェアリングの一形態だといえる。

それに対して、自宅やオフィスなどから受験者のパソコンやタブレットを用いてWebにアクセスし、オンラインで受験する方式をIBT(Internet Based Testing)、またはWBT(Web Based Testing)などと呼ぶことがある。日時を限定せず、24時間受験可能な場合もある。
これらは受験場所を特定しないため、なりすましやカンニングなどの不正行為を完全に排除することが難しい。検定・試験によっては、顔認証システムを使用して、なりすまし防止を図ることや、カンニング防止のために試験中のカメラ撮影を必須にすることもある。

CBT、およびIBTは採点事務を簡略化できること、動画・音声を使用した試験ができること、専用の会場を準備する必要がないため随時試験が可能など、メリットが多い。
コロナ禍をきっかけに一斉試験の実施を見送り、CBTへ移行した検定もあるようだ。

受験者にとって最大のメリットとしては、受験会場や日時の選択肢が広がることである。高額な交通費や何時間もかけて受験会場に向かうという制約を解消することができる。従来方式より短期間で受験結果が判明することも多い。

主催者側のメリットには、ヒアリングやタイピング、動画・音声の再生など試験方法の多様化や、採点・集計などを迅速・正確におこない効率化すること、専用の会場を用意しなくてよいことなどが挙げられる。

CBT実施・検討中の検定・試験

ITパスポート試験は、2011年、国家試験として初めてパソコンを使って受検する会場型CBTを導入した。現在は、テストセンターを予約すれば、いつでも受験できる随時試験となっている。

漢検(日本漢字能力検定)は、年に200万人前後が受験している。年3回の公開会場で行われる筆記試験と並行して、会場型CBTでも受験できる(2~7級)。いつでも受験できる随時試験である。漢字の書き取り問題は、テストセンターに用意されたペンタブレットで回答する。

日商簿記検定は、年3回の統一試験と並行して、2020年の2級・3級試験より会場型CBTが導入された。いつでも受験できる随時試験である。東京など1部地域の2級・3級試験は、2023年よりCBT方式のみとなっている。

国家試験である司法試験は、2026年よりCBT導入が予定されている。論文形式の試験において、制限時間内に長文の回答を手書きすることは、受験者や採点者への負担が大きく、現実との乖離も大きいことなどから、CBT導入が決定されたようだ。

DTPエキスパートのCBT方式

JAGATは、2024年3月より「DTPエキスパート認証試験」の択一式(学科)試験を会場型CBT方式に移行する。

従来は全国6会場での一斉試験であったため、6大都市以外の在住者にとって受験のハードルは高かったといえる。今後は全国で300ヶ所以上に設置されたテストセンターが利用できる。全都道府県での受験が可能であり、遠方に出向くこともかなり少なくなるだろう。

また、試験日は金曜日・土曜日の2日間となり、複数の設定時間の中から都合の良い開始時刻を選択できる。試験時間は、これまでの2部方式(120分×2、トータル240分)から、休憩なしの120分に変更される。
CBT方式ではランダム出題が可能であり、受験者ごとに出題内容が変更されるため、問題漏洩や不正受験のリスクもほとんどない。

5カテゴリー(DTP、色、印刷技術、情報システム、コミュニケーションと印刷ビジネス)からの出題、合格基準(全カテゴリーとも80%以上の正解率)などに変更はない。

DTPエキスパート・マイスターを対象とした実技課題にも変更はない。実技課題は、自宅やオフィスなどで実作業を行い、完成したデータを期間内に提出(送信)する「宿題型」であるため、影響はない。

これまで受験会場が遠方であることから受験を控えていた方々・企業にとって、グッドニュースとなれば幸いである。

(研究調査部 千葉 弘幸)

DTPエキスパート | JAGAT

第60期を迎えるDTPエキスパート試験

DTPエキスパート創設のきっかけ

1990年代、印刷業界は大きな転機を迎えることとなった。つまり、印刷の前工程であるプリプレスが、フィルムを介した光学的な手法からコンピューター上のデータ加工であるDTPへと変革することとなった。

DTPが導入される以前の印刷物制作は、デザイン・写植版下・製版・刷版・印刷・製本加工と各工程が縦割りで、独立していた。そのため、工程ごとの専門家は多いが、総合的な知識を保有している者は少なかった。

つまり、文字部門の従事者は製版や印刷を知らず、印刷部門の従事者は文字や画像について詳しくないことがほとんどであった。また、1990年代前半はパソコン自体が普及しておらず、DTPを構築・運営するためのコンピューターの知識がない人がほとんどだった。

国内でDTPが紹介された頃、導入の最大のネックとなったのは、実は総合的な印刷知識を持つ人材が少ないことだった。

JAGATは、DTPによる印刷物制作の普及するには、文字・画像・印刷、およびコンピューター知識を保有する人材育成が最重要と考えていた。そこで、1993年に『DTPエキスパートになるためのカリキュラム』をまとめ、翌1994年に第1期DTPエキスパート認証試験を実施した。

DTPエキスパート30年の進化

1994年以降、 DTPエキスパートは年2回の試験を実施してきた。本年8月、DTPエキスパートは30年目となり、第60期試験を実施する。これまでの受験者は50,000人以上、合格者は23,000人を超えている。

30年を経て、印刷技術、および印刷を取り巻く環境は大きく進化した。写真はデジタルデータ入稿となり、写植・版下・レイアウトはDTPに、製版フィルムはCTPに置き換えられた。校正も大きく変化し、PDF校正やリモート校正・デジタル検版が普及している。また、主要な印刷方式にデジタル印刷が加えられた。

さらに、コンピューターやWeb環境・スマートフォンが日常的なものとなった。エキスパート試験でも、セキュリティー・個人情報保護などの要素が増え、印刷物とコミュニケーションなど、印刷技術と印刷ビジネスの進化が反映されている。

2段階制となったDTPエキスパート

DTPエキスパート認証制度は、2020年3月より学科試験だけのDTPエキスパート、学科+実技試験のDTPエキスパート・マイスターという2種類・2段階制となった。

近年は営業・企画部門の受験者も増えており、学科試験だけのDTPエキスパートが創設された。DTPと印刷知識をバランスよく習得することができ、共通言語を理解することができる。

また、DTPエキスパート・マイスターは、デザインおよび印刷データ制作のエキスパートという人物像を想定している。ある程度の経験とデザイン技能が求められるため、何度でもトライできる2段階制となっている。

現在の印刷技術や印刷ビジネスに必要な知識・技能の習得、個々のスキルアップ、または人材育成の手段として、DTPエキスパートを活用してはいかがだろうか。

(資格制度事務局 千葉 弘幸)

■DTPエキスパート認証制度

映像・動画コンテンツ制作と印刷ビジネス連携

2月に開催したpage2023は「創注」をテーマに開催した。コロナ禍やエネルギー危機で停滞した印刷市場を活性化する方策・手法・アイディアを結集し、ビジネス創造に注力しようということである。

実際に、多くの出展企業が創注のヒントとなる製品やサービスを紹介していた。 例えば、映像・動画に関しても多様な出展があり、印刷&メディア関連での利用や展開について提案されていた。

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東洋美術印刷は、実写で撮影した空間をVR化するサービス「実写VR制作 VR360」を紹介していた。
例えば、ショールームや工場を360°カメラで撮影し、VRコンテンツを制作する。これらのコンテンツを再生すると、リアルで高品質な空間が再現される。その空間を巡り、ポップアップされた説明文やWebページのリンク先を参照することも容易である。視聴者は、関心のある機器や事項だけを選択して、より詳細な内容を参照することができる。

昨年のIGAS2022では、ある印刷機メーカーが出展ブースそのものをVRコンテンツ化した。視聴者は出展ブースの中を自在に移動し、配置された機材の説明やリンクされたWebページを参照することができる。複数言語に対応することも容易とのことである。

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ジュリアジャパンは、ホログラムディスプレイを利用した3Dサイネージ「3D Phantom」を出展していた。高速回転する羽根状のスクリーン(LEDが並べられている)にホログラムを投射するものである。光の残像により、映像やテキストが立体的に浮かび上がって見える。見た目のインパクトは、page2023随一といえるものであった。

イベントや店舗におけるアピール度はたいへん高く、さまざまなコンテンツを用意することで幅広い応用が可能である。

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企業が映像・動画コンテンツを制作する目的の多くは、動画を通じて製品・サービス、あるいは企業そのものを理解・共感してもらいたいということだろう。これらは、動画マーケティングと言い換えることもできる。

したがって、どのような経緯で誰がその動画コンテンツを視聴しているか、分析を行うことが重要である。また、動画を視聴した後、クチコミ・レビューを参照したり、資料請求、製品購入などの受け皿が用意されていなければ、マーケティング活動として十分とは言えない。

サムシングファンが提供するDOOONUTは、動画コンテンツを公開・配信するプラットフォームであり、視聴データの分析レポートも提供される。動画視聴後のフォローにも対応している。
クライアントに動画マーケティング提案を行う際には、このようなプラットフォームを活用することが武器となるだろう。

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これらの仕組みは、 映像・動画に関する最新技術・サービスを通じて印刷ビジネスとの連携を考えるヒントとなるだろう。

4/25(火)映像コンテンツと印刷ビジネス(印刷総合研究会セミナー)

(JAGAT 研究調査部 千葉弘幸)