投稿者「Hiroyuki Chiba」のアーカイブ

色管理の課題

印刷の色管理(カラーマネジメント)は、日本ではJapanColor認証の認知とともに、確立した技術のように思われているかもしれない。
しかしながら、実際に運用しようとすると、いろんな課題が見え隠れしてくる。

測色器の設定条件

・印刷分野はD50光源設定とされているが、他の分野ではD65 光源設定を指定しているところもある
・印刷分野は0-45度の光学系としているが、積分球光学系を指定している分野もある
 →同じ色度の数値でも、違う色になる場合がある

・ディスプレイも用途によっていろいろ
 液晶ディスプレイはバックライトに使う光源がいろいろ
 有機ELのような自発光タイプで輝度が高いものがある
 Adobe RGB、sRGB、Display P3、さらにはHDRなど複数ある
 →印刷データをどのディスプレイで見たかによって、違う色になる場合がある

・印刷業界の標準設定どおりのデータが納入されるわけでない
 Microsoft Officeで作られたデータはカラーレタッチ要
 →RGBとCMYKの色空間の大きさが違うため、違う色になる場合がある

・用紙の種類によって色再現性が変わる
 →用紙によって再現色域が変わり、違う色になる場合がある

などなど、いろんなケースが発生してくる。

さらに、印刷物そのもののバリュー向上を目指して、メーカーは新しい材料を使って付加価値を提供しようとしている。
例えば、広色域のCMYK材料の取り組みはもちろんのこと、CMYK以外の金・銀・蛍光色対応で、色のみならず質感表現までも多様化はますます進みつつある。

色・質感をハンドリングするために

カラーマネジメントのさまざまな課題に適切に対応するには、次のことができているかにかかっている。

1.測色の原理、計算アルゴリズムを理解している
2.色が見えるという視覚の原理 を理解している
3.色度座標と実際の色の関係が頭の中で結びつく

この3点がわかると、ずれている色をどう変換してあげればよいかがイメージできるようになる。

ただし、金・銀に関しては、色度以外に反射角度特性も管理項目に入れないといけない。蛍光色については、当てる光のUV(紫外光)成分まで管理項目に入れないと数値化は難しいため、測定のために特殊計測器が必要となる。
そして、欧米では質感も加えたカラーマネジメントを進化させるべく、標準化作業が進んでいる。

(JAGAT 特別研究員 笹沼信篤)

【関連セミナー 】
12/6 「測色計の最新動向とカラーマネジメント」:印刷総合研究会

基礎的な測色技術と、IGAS2022で出展されるカラーマネジメント関連の機材・ソリューションが紹介される。現時点の国内最新状況をウォッチングするのに最適な研究会であり、興味のある人はぜひ聴講して欲しい。

DTPエキスパートカリキュラムの変遷とその背景

DTPエキスパート認証試験は、『DTPエキスパートカリキュラム』にて規定された範囲に基づいて出題されている。DTPエキスパート認証制度創設時に第1版を発行して以来、13回の改訂を重ねており、最新版は2020年の第14版である。

カリキュラム発行の経緯

DTPが導入される以前の印刷物制作は、デザイン・写植版下・製版・刷版・印刷・製本加工と各工程が縦割りで、独立していた。従って工程ごとの専門家は多いが、総合的な知識を保有している者は少なかった。

つまり、文字部門の従事者は製版や印刷を知らず、印刷部門の従事者は文字や画像について詳しくないことがほとんどであった。

また、1990年代前半はPC自体が普及しておらず、DTPを構築・運営するためのコンピューターの知識がない人がほとんどだった。

国内でDTPが紹介されたころ、導入の最大のネックとなったのは、実は総合的な印刷知識を持つ人材が少ないことだった。そのため、導入の是非を判断することもできず、実際に運営することも難しいとされたのである。

JAGATは、DTPによる印刷物制作の普及には文字・画像・印刷、およびコンピューター知識を保有する人材育成が最重要と考えていた。そして、1993年に『DTPエキスパートになるためのカリキュラム』をまとめ、翌1994年に第一期DTPエキスパート認証試験を実施した。

初期のカリキュラムから現在までの変遷

1990年代の写真原稿はポジ入稿であり、製版スキャナーでCMYK分解する方法が一般的であった。また、ページデータはイメージセッターでフィルム出力し、PS版に焼き付けていた。このように、初期のカリキュラムには当時の製作工程が反映されている。また、コンピューター環境やDTPデータ関連の比率が大きく、全体の半分近い分量となっている。

二十数年を経て、印刷技術は大きく変化した。写真はデジタルデータ入稿となり、イメージセッターはCTP(プレートセッター)に置き換えられた。校正も大きく変化し、PDF校正やリモート校正・デジタル検版が普及した。また、印刷方式にデジタル印刷が加えられた。さらに、コンピューターやウェブ環境が日常的となり、セキュリティー・個人情報保護などの要素が増えたこと、印刷物を製作する目的はコミュニケーションであることなど、印刷技術と印刷ビジネスの進化が反映されている。

第2版カリキュラム 主要項目(1996.12)

[グラフィックアーツ]
プリプレス・印刷企画と編集・色・スキャニング・レタッチ・フィルム出力・印刷と刷版・後加工
[コンピューター環境]
ページネーションデータ・ハードウェア・OS・入出力・ネットワーク・画像処理・アプリケーション・システム設計

第14版カリキュラム 主要項目(2020.12)

[DTP]
印刷物・工程設計・DTP環境・契約・文字・画像・レイアウト・校正・PDF
[色]
光・色・カラーマネジメント
[印刷技術]
網点・プリプレス・プレス・ポストプレス・特殊印刷・デジタル印刷
[情報システム]
コンピューター・ソフトウェア・セキュリティー・個人情報保護・他
[コミュニケーション]
情報デザイン・グラフィックデザイン・マーケティングと印刷

2段階制となったDTPエキスパート

DTPエキスパート認証制度は、2020年3月より学科試験だけのDTPエキスパート、学科+実技試験のDTPエキスパート・マイスターという2種類・2段階制となった。

近年は営業・企画部門の受験者も増えており、学科試験だけのDTPエキスパートが創設された。DTPと印刷知識をバランスよく習得することができ、共通言語を理解することができる。

また、DTPエキスパート・マイスターは、デザインおよび印刷データ制作のエキスパートという人材像を想定している。ある程度の経験とデザイン技能が求められるため、何度でもトライできる2段階制となっている。

現在の印刷技術や印刷ビジネスに必要な知識・技能の習得、個々のスキルアップ、または人材育成の手段として、DTPエキスパートを活用してはいかがだろうか。

(資格制度事務局 千葉 弘幸)

スマートテレビと動画配信サービス

コロナ禍が始まった2020年は、リモートワークが増え、巣ごもり需要が生まれるなど、われわれの社会生活に大きな影響を与えるものだった。

「愛の不時着」は、2020年に配信され、大ヒットしたNetflixオリジナルの韓国ドラマである。北朝鮮と韓国を舞台として、荒唐無稽というか壮大というか、涙あり笑いあり、ロマンスや復讐劇ありのエンターテインメントとして国内外で大人気となった。

筆者も、初めて緊急事態宣言が発出された頃にこのドラマの評判を耳にして、Netflixに加入し、視聴している。

主流となったスマートテレビ

近年、販売されているテレビ機器は、インターネットに接続できるスマートテレビが主流である。テレビ機器を設置する際にインターネット環境に接続することで、地上波や衛星放送の受信以外に、インターネットの動画配信サービスを視聴できる。また、さまざまなアプリを利用することができる。

例えば、Android TVというスマートテレビOSに対応している機種であれば、Google Playストアを通じてアプリをインストールし、使用することができる。それ以外のスマートテレビであっても、「YouTube」や「Netflix」「Hulu」「TVer」などの動画配信サービスのアプリが用意されている。

インターネット接続機能のないテレビ機器でも、ストリーミングデバイスをHDMI端子に接続することで、動画配信サービスを視聴することができる。

ストリーミングデバイスとは、インターネットを経由して動画配信サービスなどをテレビ機器で利用するための機器である。国内で普及しているものとして、AmazonのFire TV、GoogleのChromecast(クロームキャスト)、AppleTVなどがある。

動画配信サービスの動向

スマートテレビやストリーミングデバイスを接続したテレビによって利用できる代表的なものは、動画配信サービスである。

YouTubeは、代表的な動画共有プラットフォームであり、誰でも動画を投稿し、視聴することができる。スマートフォンなどのモバイルデバイスやパソコンと同様に、スマートテレビでも容易に視聴することができる。
また、近年、人気となっているのが、サブスクリプション型の動画配信サービスである。

Amazonプライムの会員には、プライム・ビデオの視聴サービスが含まれている。
世界同時配信でオリジナルのドラマや映画が話題となることが多いのは、前述のNetflixである。
近年急成長し、Netflixを猛追しているのが、ディズニー作品やマーベル、スターウォーズに特化したチャネルのDisney+(ディズニープラス)である。米国ディズニーの系列であるHuluも、国内外の人気ドラマや映画を配信している。

DAZN(ダゾーン)は、スポーツ専門のビデオ・サービスで、プロ野球やサッカー、ゴルフ、テニス、バスケット、ボクシングなどを視聴することができる。

TVer(ティーバー)は、国内の有力民放各社と大手広告代理店によって設立されたサービスで、近年ではテレビ番組の見逃し配信などが人気となっている。

テレビ放送とネットワーク配信

近年の若者はテレビを見ない傾向が大きくなっており、「若者のテレビ離れ」と指摘されることもある。実際、一人暮らしではテレビ受像機を持っていないことも多いという。

一方で、スマートテレビで動画配信サービスを利用することが増えている。つまり、「テレビ離れ」ではなく「テレビ放送(電波)離れ」が進んでいるともいえる。
米国では、スマートテレビや動画配信サービスが普及したことにより、「CATV離れ」が進展したと言われている。

インターネット環境とスマートフォンが一般化して久しい。これらによって、新聞や雑誌の視聴環境や音楽配信が大きな影響を受けたように、テレビ放送の視聴環境も変化していくことが想定される。

(研究調査部 千葉 弘幸)

DTPエキスパート、マイスターの攻略方法

定着した2段階制

DTPエキスパート認証試験は、2020年3月より「DTPエキスパート・マイスター」「DTPエキスパート」の2段階制に改定された。

新たに制定されたものが、学科試験だけを受験する「DTPエキスパート」である。

そして、学科試験・実技試験を同時に受験するものが、「DTPエキスパート・マイスター」である。ただし、実技試験を落としても学科試験にパスしていれば、「DTPエキスパート」として認証される。

「DTPエキスパート」に合格した後、次回以降に実技試験だけを受験することができる(アップグレード試験)。これに合格すると、「DTPエキスパート・マイスター」として認証される。

したがって、初回は学科問題に集中して「DTPエキスパート」を受験し、次回以降に実技課題の腕を磨き、実技試験に取り組むといった2段階受験が可能である。

また、「DTPエキスパート」として認証されただけでも、DTPや印刷に関する幅広い知識を持っていることに変わりはない。

学科試験の攻略法

学科(択一式)試験は、全国の各会場で同日同時刻に行われる。問題と解答用紙(マークシート)が配布され、制限時間内に解答する方式だ。また、DTPエキスパートとDTPエキスパート・マイスターの学科試験は、同一内容である。休憩を挟んで第1部、第2部に分れており、制限時間は各120分(全240分)である。

「DTP」「色」「印刷技術」「情報システム」「コミュニケーション」という5カテゴリーから、700問前後の設問が出題される。合格基準は、カテゴリーごとに得点率80%以上となっている。1カテゴリーでも基準以下であれば、不合格となる。

最新分野からDTP・印刷の分野で基本を支える内容まで、幅広くかつ深い知識が求められる。したがって、合格者はDTP・印刷のエキスパートとして一定レベル以上の知識を持っていることとなる。いわば、業界の共通言語を修得したと見なされる。

受験することを決定したなら、合格を目指して勉強に励んでもらいたい。合格対策として、以下のような方法をお奨めする。

DTPエキスパート・カリキュラム第14版(2020.12)

Webページに公開されている他、PDF版をダウンロードすることもできる。まずは、一読することをお奨めしたい。
DTPエキスパート試験の出題傾向やレベルを体系的に理解することができる。

「公式模擬問題」(57期版、58期版)(各2,600円)

過去の頻出問題を抜粋したもので、次回試験の約3ヶ月前に発行される。
実際の出題内容や分量を把握することができるため、受験者の多くがこれらの模擬問題に取り組んでいる。

「新版DTPベーシックガイダンス」(2,420円)(2021.2)

DTPエキスパート対策講座の内容を書籍化したもので、最新の内容が反映されている。解説が充実しており、最初に取り組むことをお奨めしたい。

「DTPエキスパート受験サポートガイド改訂9版」(2,970円)(2019.2)

DTPエキスパート試験の例題とその解答・解説がセットになっている。

DTPエキスパート学科ポイント解説 2日間講座<オンライン開催>

2022年7月8日(金)・7月15日(金) 各日13:30~17:30
オンラインセミナーのため、全国どこからでも受講できる。

実技試験の攻略方法

実技試験は、指定されたサーバーからデータをダウンロードすることから始まる。約4週間の期間内に、「制作コンセプト書」「誌面データ(作品)」を完成し、指定されたサーバーにアップロードし、提出する。

支給データには、「DTPエキスパート・マイスター実技試験要項」と「素材データ」が含まれている。

「DTPエキスパート・マイスター実技試験要項」には、「制作コンセプト書」の趣旨と記述内容、誌面データ(作品)制作の趣旨・仕様が記述されている。
例えば、この要項には、誌面データの企画意図やターゲット等が記述されている。性別や年齢層、どのような志向を持った人物像か、などである。

実技試験では、企画内容に即してデザイン・レイアウトをおこない、「誌面データ(作品)」として具現化することが求められている。印刷物の企画・目的に沿ったデザインかどうか、表現力が問われている。
印刷データとしての完成度、プロフェッショナルなデータ制作力が求められるのは言うまでもない。

制作コンセプト書では、デザインのコンセプトを論理的に解説すること、要素の概要・管理方法を簡潔に記述することが求められている。
例えば、書体や配色、レイアウト技法など、どのような意図で選択し、どのような手法でデザイン・レイアウトに反映させたのか、文章として表現することが求められる。
また、レイアウト全体図を配置し、マージンや段組等の寸法を記入する。さらに文字・レイアウトの要素とスタイル名等の対応を記述する。

DTPエキスパート・マイスター実技オンライン解説+課題添削講座

2022年8月6日(土)14:00~17:00

(JAGAT 研究調査部 千葉 弘幸)

小ロットと高付加価値印刷で注目されるデジタル加飾

インクジェット技術によって微細なスポット・ニスコーティング加工や箔押し、透明厚盛などをおこなうデジタル加飾が注目されている。

デジタル加飾機は、版や型が不要で専門的なオペレーターやパートナー企業に頼ることなく、小ロットで自由度の高いデザイン表現、短納期でのサンプル製作や製造が可能である。インパクトやプレミアム感あるデザインや手触りを表現し、付加価値の高い印刷物を提供することができる。
世界では、DMやパンフレットなどの商業印刷分野やパッケージ分野などで導入が進んでいる。

株式会社研文社は、高速インクジェット機、トナー方式デジタル印刷機の導入に加え、極小ロットの高付加価値印刷を実現するために、デジタル加飾機「JetVarnish」を導入した。

デジタル加飾はやや特殊な分野で、顧客(または顧客サイドのデザイナー)の要望・依頼から実現するケースはほとんどない。印刷会社のデザイナーが提案したり、サンプルを製作したりして、採用に到ることがほとんどである。

「JetVarnish」を導入して、最初におこなったのは、デジタル加飾をブランディングするための「テクニカルブック」の制作だという。
スポット・ニスコーティング、透明厚盛、金箔・銀箔のサンプル、プレミアム感あるデザイン表現の可能性を目に見える形にして掲載した冊子である。営業マンを通じて既存顧客に配布し、デジタル加飾で何ができるか、通常の印刷物に高級感を与えることができることを発信した。
また、SNSや「研文社デジタルオンデマンドセンター」のWebサイトを通じて、デジタル加飾をアピールしている。

具体的な案件があると、テスト・サンプルを製作するなどして、その価値を理解してもらい、受注に繋げている。

ダイレクトメールの封筒にデジタル加飾を施した際には、開封率が上がったとして、顧客に喜ばれた事例もある。デジタル加飾を施した商品も好評だったという。

白山印刷株式会社は、元々、小ロットのカラーオフセット印刷と化成品・合成紙などの特殊印刷・コールドフォイルを得意としていた。
多品種小ロット・高付加価値印刷に対する顧客ニーズが、年々高まっているため、3年ほど前に、スポット・ニスコーティング、透明厚盛、金・銀箔が可能なデジタル加飾機「Scodix」を導入した。以来、順調に事業が拡大しているという。

先般、さらなる多品種小ロットに対応するため、HP Indigo 7Kデジタル印刷機を導入した。デジタル印刷とデジタル加飾の相乗効果により、今後の事業拡大を見込んでいる。

白山印刷では、以前からニスコーティング・コールドフォイルに精通した社内デザイナーによって、顧客へのデザイン提案を行い、受注に繋げていた。デジタル加飾機でプレミアム感のある表面加工を実現するには、繊細なデザイン表現とデータ製作が重要である。「Scodix」を導入して以来、社内デザイナー中心に経験を積んだことで着実にレベル向上を果たしているという。

また、Scodix社が2014年から毎年開催している全世界のScodixユーザー向けのコンテスト 「Scodix Design Awards 2021」 において、白山印刷はテクノロジー部門・商業印刷部門・出版部門の3部門、計4作品で賞を獲得している。

近年の印刷物製作は、多品種小ロットが日常化している。また、デザイン表現や高級・プレミアム感など、さらなる差別化も求められている。 デジタル印刷+デジタル加飾は、高級感ある印刷物を製作する手段として、今後の伸長が見込まれている。

(研究調査部 千葉 弘幸)

■ 5/17(火)印刷総合研究会 デジタル加飾の最新動向とユーザー事例

DTPエキスパート・マイスターに求められるデザイン制作スキル

2段階制となった DTPエキスパート認証試験

DTPエキスパート認証試験は、2020年3月より学科試験だけの「DTPエキスパート」と、学科+実技試験の「DTPエキスパート・マイスター」の2段階制となった。

例えば、最初に学科試験だけの「DTPエキスパート」を取得し、6ヶ月後、1年後に実技の能力を磨き、アップグレード試験を受験するという2段階の受験が可能になっている。
また、最初から「DTPエキスパート・マイスター」にチャレンジして、仮に実技試験をパスできなくても、学科試験に合格することで「DTPエキスパート」を取得することができる。

日常業務で実技に携わることが無い方は、印刷業務を幅広く勉強し、学科試験に臨むことで「DTPエキスパート」を取得すれば良いだろう。

つまり、受験する方たちの事情に応じて受験方法を選択することができるようになっている。

「DTPエキスパート・マイスター」 に求められるデザイン制作スキル

「DTPエキスパート・マイスター」に必要な実技試験の内容は、以前の実技試験から大幅に変更された。

従来の試験は、配布される課題に応じた「印刷データ」と、制作作業を分担するための「制作指示書」を提出するものであった。採点においては、印刷データとしての完成度が最重要であり、デザイン内容を重視しないとの不文律があった。

それに対して、新たな「DTPエキスパート・マイスター」は、印刷データ制作のエキスパートであることはもちろん、デザイン制作のエキスパートでもあることを想定している。クライアントや編集者の意図を正しく理解し、伝えたい内容やターゲットを整理すること、デザイン・レイアウトを通じて表現できることが求められている。

実技課題においては、そのプロセスを「制作コンセプト書」として記述し、「印刷データ」と併せて提出する。

読者にもっとも伝えたいことは何か、全体のバランスや優先度によって重点を置くところはどこか、それらを表現するために、どのようなデザイン・レイアウトを行うのか。コンセプト書では、「全体コンセプト」「レイアウト」「組版」「配色」などの項目ごとに、デザインの考え方、留意した点などを記述する。

誌面データは、印刷データとしての完成度は当然ながら、デザインの完成度が審査される。メインの画像や見出しの配置、書体の選択が適切かどうか、本文の設定や視線の流れに問題はないか、情報が整理されて理解されやすくなっているか、設定されたコンセプトに応じたデザインが実現されているか、など総合的な観点で採点される。

受験される方は、この機会にデザイン力・デザイン制作スキルとは何か、改めて見直すことをお勧めしたい。大学や専門学校などグラフィックデザインを学んだ方は復習を、そうでない方は関連書籍などで体系的に見直すと良いだろう。

「DTPエキスパート・マイスター」の学習を通じて、デザイン制作のエキスパートとしてスキルアップすることを目指してもらいたい。

JAGAT 研究調査部 千葉弘幸

DTPエキスパート学科ポイント解説2日間講座<オンライン開催>

5/25 DTPエキスパート受験対策講座(大阪開催)

組版設計、画像の解像度・ファイルサイズの計算

DTPエキスパート認証試験の択一式(学科)試験では、「組版設計」、および「画像の解像度とファイルサイズ」を計算する問題が出題されている。これは、本試験が創設されて以来のことで、定番的な出題となっている。したがって、試験規定においても「電卓の持ち込み」が許されている。

DTPエキスパート試験への出題の意味は?

最近、印刷会社向けにDTP講座をおこなっている講師の方から、これらの計算問題に関して、受講生から以下のような質問を受けているという話を聞いた。

「InDesignで文字サイズや文字数・行数などの数値を入力すれば、それだけで版面サイズの結果が表示される。」

「Photoshopで画像を開くだけで、その画像の解像度や表示サイズ、ファイルサイズが表示される。」

つまり、「アプリケーションソフトが教えてくれるので、自分で計算する必要がない」、「このような計算問題には、意味がないのでは?」という考えのようだ。

この質問をされた方は、レイアウトフォーマットやテキスト原稿・画像データなどが支給され、DTPアプリケーションソフトを駆使して仕上げることを日常業務とされているのでないだろうか。また、画像の解像度や表示サイズは、社内の標準ルールに合わせるだけで済むため、自分自身で考える必要がないという立場なのであろうか。

そのような業務だけを想定すれば、「自分で計算する意味がない」という思考に陥るかもしれない。

計算スピードよりも大切なこと

DTPエキスパートに求められる知識や技能は、これらのDTPアプリケーションソフトの操作に長けているかどうかではない。
たとえば、これから発行する冊子やパンフレットのレイアウトフォーマットを設計することもある。その際には、発注者や関係者と詳細を検討することもあるだろう。
また、複数の関係者で作業を分担するために、割り振りや指示を行う立場となるかもしれない。

つまり、DTPエキスパートには、このようなレイアウトフォーマットや運営ルールや体制を検討し、設計、プランニングする能力を備えていることが求められている。

そのための基礎の基礎として、このような計算問題が出題されており、ある程度の時間内に回答することが必要である。

印刷物のデザイン・制作の基礎を身に付けている方なら、このような計算は頭の中でおおよその数値が浮かぶのではないだろうか。電卓があれば、容易に結果を出すことができるはずである。

筆者の体験上では、「仕事ができる人ほど、計算が速い」という法則がある。計算スピードが速いという意味ではない。基本パターンをいくつか覚えていれば、おおよその計算結果が類推できるためである。

例えば、A5サイズで350ppi、RGB 各色8bit 画像のファイルサイズを基本パターンとして覚えていれば、A6サイズはその半分で0.5倍だと類推できる。CMYK4色ならば、4/3で1.33倍と類推できるだろう。

経験や知識を積み重ねると、基本パターンに相当するものが何か判ってくる。そのため、ほぼ即答に近いタイミングで答えることができる。

DTPエキスパートを受験されるかどうかはともかく、自分なりに組版設計や画像解像度とファイルサイズの基本パターンを覚えておくと良いだろう。

(研究調査部 千葉 弘幸)

PDF/X-4はPDF入稿のスタンダードとなったか

JAGATは、1月27日、DTPエキスパート・マイスター認証制度の課題提出方式を変更し、PDF/X-4に限定することを発表した。

DTPエキスパート試験の実技課題がPDF/X-4に移行

DTPエキスパート試験は、学科(択一式)試験だけの「DTPエキスパート」と、実技課題を伴う「DTPエキスパート・マイスター」の2種類から構成されている。また、DTPエキスパート合格者が、実技課題のみのアップグレード試験に合格すると、DTPエキスパート・マイスターとして認証される2段階制となっている。

これらのうち、DTPエキスパート・マイスター、およびアップグレード試験の実技課題の提出方式が、次回の第57期試験から変更される。すなわち、従来の「PDF/X-1a、PDF/X-4のいずれか」の方式が、「PDF/X-4とすること」となる。現在の実技課題の提出状況は、既にPDF/X-4が主流となっており、大きな混乱はないと見ている。

PDF入稿、普及の推移

2000年代半ば頃まで、印刷入稿と言えばアプリケーションネイティブ、つまりQuarkXpressやAdobe Illusutrator、Adobe InDesignの保存データを入稿する方法が普及していた。戻ってきた校正刷りを発注側でチェックし、印刷会社側でデータ修正する作業フローが一般的だったためである。この場合、データ制作環境(OSやアプリケーションのバージョン、フォント環境など)が、印刷会社にも必要という制約がある。実際には、アプリケーションのバージョンやフォント環境の不整合に起因するトラブルも多発していた。

発注側で完全データのPDFを制作し、入稿するのであれば、印刷会社の環境に依存せずに出力できる。そうして、PDFワークフローが普及したのである。PDF入稿に限定した印刷通販の普及も、この傾向を後押しした。その際に利用されたのは、PDF/X-1aである。その当時、普及していたPostScript RIPのほとんどで安定した出力が可能だった。

PDF/X-4採用の背景

しかし、PDF/X-1aは、「透明効果」に未対応という問題があった。「透明効果」とは、2000年前後からAdobe IllustratorやAdobe InDesignに搭載された機能である。複数のオブジェクトを重ねた際、上のオブジェクトを透かして、下になっているオブジェクトが見える。不透明度を指定すると薄く透けて見えるなど、デザイン効果の高い機能である。文字や図形に影を付けるドロップシャドウやぼかし処理なども、この機能が使用されている。
PDF/X-1aとそれを出力するPostScript RIPでは、この機能に未対応のため、「分割統合」という前処理が必要だった。RIPに送る前に透明部分をラスタライズ(画像化)することで、出力が可能になる。ただし、この操作が複雑なため、トラブルの原因となることもあった。

PDF/X-4は、この透明効果に対応しているため、分割統合は不要となり、より信頼性の高いワークフローを実現できる。また、出力するRIPとして、APPE (Adobe PDF Print Engine)ベースのRIPが必要である。
現在では、ほとんどの印刷会社がAPPE搭載のワークフローRIPを導入しており、PDF/X-4入稿の受け入れが浸透している。

ただし、一部の印刷通販(ネット印刷)などでは、 PDF/X-1a入稿を必須としている。どちらが正解ということではなく、受け入れ体制や方針の問題と言えるだろう。

DTPエキスパート実技課題、作成上の注意

近年のAdobe InDesignやAdobe Illustrator、Adobe Acrobatなどのアプリケーションには、標準でPDF/X-4書き出しプリセットが装備されており、手軽に利用することができる。さらに、Adobe InDesignやAdobe Illustratorの関連サイト、印刷会社や印刷関連メーカーが公開しているサイトでも、PDF入稿の詳細が公開されているので、参考にすると良いだろう。

(研究調査部 千葉 弘幸)

DTPエキスパート認証試験 実技課題をPDF/X-4に移行 

DTPエキスパート認証試験 実技課題をPDF/X-4に移行

公益社団法人日本印刷技術協会(略称:JAGAT、本社:東京都杉並区、会長:塚田司郎)は、同協会DTPエキスパート認証制度の試験方式を一部改定することを発表しました。

『DTPエキスパート認証試験 実技課題をPDF/X-4に移行』

DTPエキスパート認証制度は、「よいコミュニケーション、よい印刷物」のための知識・技能を習得したことを認証する制度で、1994年以来、56回の試験を実施しました。50,000人以上が受験し、延べ合格者数は23,000人を超えています。国内の印刷業界におけるスタンダードな学習カリキュラムと言えます。

この試験は、学科(択一式)試験だけの「DTPエキスパート」と実技課題を伴う「DTPエキスパート・マイスター」の2種類から構成されています。

このたび、「DTPエキスパート・マイスター」の実技課題の提出方式を変更し、PDF/X-4に限定することとします。この変更は、2022年3月13日(日)に実施する第57期試験より適用されます。

背景:実技課題の変遷

2017年3月第47期試験まで、課題提出方法を[PDF/X-1a]に限定していました。その後、2017年8月の第48期試験より[PDF/X-1aとPDF/X-4のどちらか]に変更されました。国内の印刷業界で利用の多いPDF/X-1aと、より制約が少ないPDF/X-4の両方を併用するとしました。

現在では、Adobe PDF Print Engineを搭載した最新のワークフローRIP(印刷データ変換装置)が普及したことで、「透明効果」を保持したPDF/X-4データを扱うことができ、トラブルの少ないワークフローが確立しました。

このような状況を踏まえて、実技課題の形式をPDF/X-4に限定することとなりました。

次回DTPエキスパート認証試験の実施予定

次回の第57期DTPエキスパート認証試験は、2022年3月13日(日)に実施します。受験申請期間は2022年1月7日(金)~2月10日(木)となっており、同サイトの申請フォームから申込むことができます。

【公益社団法人日本印刷技術協会】

公益社団法人日本印刷技術協会(略称:JAGAT、Japan Association of Graphic Arts Technology)は、印刷に関する技術の開発・向上により、印刷および関連産業の発展、貢献を目的として1967年に創立されています。

【本書の内容・リリースに関するお問合せ先】

〒166-8539 東京都杉並区和田1-29-11
公益社団法人 日本印刷技術協会 広報担当まで
TEL 03-3384-3113 FAX 03-3384-3168

成長する印刷通販と印刷ビジネスの未来

ネットを介して印刷受発注をおこなう印刷通販は、この10数年で1,000億円を大きく上回る市場へと成長した。主な理由として、「多品種小ロットの増加」「Web受発注の利便性」「透明性の高い納期・価格」「信頼できる品質」などが挙げられる。

多品種小ロット化は、印刷に限らずあらゆる業種・製品で見られる現象である。1,000部程度の印刷物であれば、受発注がシンプルで短納期の印刷通販が選ばれることは必然といえる。

また、世の中がインターネット社会となり、ECやWeb受発注は、すでに日常化している。一般的な用紙や印刷方式であれば、データ入稿だけで印刷物を製作できる印刷通販でも大きな問題は生じない。

通常の印刷ビジネスでは、見積・発注・データ制作・校正・印刷・納品というやり取りが発生し、特殊な相談にも柔軟な対応が期待できる。その一方で、予め余裕を持った納期や費用が設定される傾向がある。印刷通販では、データ制作など自己責任と引き換えに透明性の高い納期・価格が設定されている。

つまり、印刷市場にはこのようなニーズが存在しており、印刷通販各社がそれに応え、継続してきたことから、このような市場拡大が実現したと見るべきである。

ラクスルは、印刷通販企業の中でも異色の存在で、自社工場を持たないファブレス経営を実践している。ファブレス経営の例として、海外ではアップルやナイキ、国内ではキーエンス、ユニクロ、任天堂、無印良品など好業績の企業が挙げられる。リソースを得意分野に集中でき、変化に対応しやすいという特徴がある。
ラクスルは、製造部門をパートナー会社に業務委託し、自社はマーケティングとセールスに注力している。全国のパートナー企業とサプライチェーンを構築し、顧客が満足するサービスや品質を提供することで、急成長を遂げている。コラボレーション経営と言い換えても良いだろう。

共進ペイパー&パッケージは、パッケージ印刷通販という新分野を開拓した。元々、紙器や段ボール事業といったB2Bの営業スタイルを得意とする企業が、パッケージ・POP・紙袋などに特化した印刷通販を運営している。
近年では、パッケージデザインがコミュニケーション手法の一つとして捉えられている。POP・紙袋も同様である。キャンペーンや地域に応じてデザインを変更したり、複数のパッケージをテストマーケティング的に使用することもある。
パッケージの印刷通販が、このようなニーズの受け皿となっているのではないだろうか。

グーフはマーケティングオートメーションと連携した印刷物製作のプラットフォームを構築し、生き残る印刷物を模索している。代表的なソリューションとしては、DM制作・印刷・発送を自動化するパーソナライズDMの仕組みを構築し、クライアントのECとの連携を実現した。すなわち、クライアントと印刷会社、プラットフォーマーであるグーフのコラボレーションで、このような生産体制を運営している。

これらのパートナーシップやコラボレーション、顧客のニーズに応える仕組みづくりに、未来の印刷物制作や印刷ビジネスの方向性が隠されているかもしれない。

page2022 カンファレンス[C3]「印刷通販と印刷ビジネスの未来」では、印刷通販とマーケティング連携プラットフォームを通じて、未来の印刷ビジネス・印刷物制作を考えたい。

JAGAT 研究調査部 千葉 弘幸


■その他のpage2022カンファレンス・セミナー(1/31~2/10)

2022/1/31 【プレセミナー】今こそマーケティング!(基礎解説編)
2022/2/1  【基調講演】リセット・ザ・印刷ビジネス (結論編)
2022/2/7   見える化紆余曲折
2022/2/8  インサイドセールスの機能と役割
2022/2/9  webと地域活性化による事業創造
2022/2/10  ビジネスのタネの見つけ方、つくり方、育て方